便色カード製作の経緯
胆道閉鎖症とは主に赤ちゃんの病気で、お母さんのお腹で胆道が成長する際、お母さんがインフルエンザ等にかかって胆道の機能が不十分で生まれてきてしまい、胆道が詰まって胆汁が腸に行かないと便の色が灰白色になり養分を吸収できなくなってしまう怖い病気です。生命に関わることなので、もし胆道閉鎖症という判断がされれば、一刻も早く胆道のバイパス手術が必要で、病気の判断をなるべく簡単に正確に出来るようにする方法が切望されていたのです。
病気の判断をオムツに付いている便色で判断しようというモノサシが便色カードで、この有効性が認められ2012年母子手帳に義務づけられました。もちろん色チェックするカードですから、カラーマネージメント及び印刷管理技術が重要になるのはいうまでもないことで、印刷会社としては腕の見せ所です。
便色カード推進のリーダーである独立行政法人成育医療センター(旧国立小児病院)松井病院長が考案されたのが旧便色カードですが、最初に考案された時代にはデジタル技術など無い、アナログ時代だったので、経験的且つ試行錯誤の結果完成させた経緯があり、いくつかの改良要望が出始めていました。
デジタル撮影技術やカラーマネージメント技術、モニタシミュレーション技術、カラープリント技術が驚くべき進歩を遂げたので、現在可能な最新技術を駆使してより完成度の高い新便色調カラーカードを作成することになったわけです。
具体的には分光撮影による便色記録と分析、最新のカラーマネージメント技術を応用し、独自の分光色修正を柱に最新のデジタルレタッチ技術で便カラーカードを作成しました。分光撮影というのは色を分光スペクトルで扱うのでRGBやCMYKデータとは異なり、メタメリズム(条件等色)等の冗長性を排除した、医療用の色彩データを扱うには最適のデータです。例えば離島に住む患者の黄疸症状をデジカメで撮影して、中央病院の専門医に判断してもらうのに、照明がタングステン光だったのでホワイトキャリブレーションしてしまったら黄色が飛んでしまうということなど日常起こりうるトラブルです。このようにRGB(やCMYK)データは冗長的で非常に危険なのです。だから分光色再現技術を最大限使ったのですが、総務省系のナチュラルビジョンプロジェクトの研究成果を利用させていただいた。具体的にはNTTデータが作成した分光撮影用のフィルタやブラウザを利用して撮影・分析を行った。
●旧松井式便色カードの課題
(1)病気を判別するということを主目的に経験的に作られていたので、チャートの色が等間隔には並んでいなかった。
(2)作成されたのがアナログ時代だったために画像データを数値的に解析することが難しかった。
(3)便色ごとの試料を集めたため、色ではなく形状等の差の方が目立ってしまい、判断が便色以外の影響を受けやすかった。
(4)印刷も職人的な技法で管理されていたので普及、改良する場合にデータの提供が出来にくかった。
●こういう背景に基づいて、新便色カード作成に関して注意したことは
(1)6分光カメラによる便のデジタル画像撮影
(2)分光スペクトル情報としてデータをハンドリング、解析
(3)ハードキャリブレーションタイプのAdobe RGB対応カラーマネージメントモニタをプロジェクト関係者に配備し、ICCプロファイル管理による正確なカラーシミュレーションによるサンプル精査
(4)ICCプロファイルによる最新カラーマネージメントを駆使し、インクジェットプリンタによるカラーカードの実践的なシミュレーション
(5)ICCプロファイルによるカラーマネージメントシステムワークフロー+CTP出力での徹底したデジタル処理に最終的な印刷物もLabで色管理を行い、印刷途中の管理及び納品にLab測定値を反映
●そして出来上がった便色カードは
(1)形状に左右されにくい新生児の代表的な便を使用し、その色を分光レタッチして段階的な7色のサンプルを作成。これにより判断が色情報だけに注力できる。
(2)便の横に色をより判別しやすくするために、元になった分光スペクトル値を基準にした平網をペアにしている。これにより色情報判断がより正確になる。
(3)人間の視覚特性を考慮して周辺をニュートラルグレイとした。
(4)従来のカラーカードに従い灰白色便を1番、正常便にしたがって数字が上がっていき、要相談の境界を4と5番の間に設定した。
(5)お母様方にも親しみが持てるかわいらしいデザインとした。
という経緯があります。そして完成したパイロット版の便色カードが以下のようなものです。(図)そのチャート部分を残して母子健康手帳用に反映させています。
図