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【日本版コラム】米国の軍用機の40%がロボットという現実と未来

影木准子の米国ロボット最前線

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 このところ、毎日のようにニュースで「drone(ドローン)」という言葉を耳にする。無人航空機の意味で、「Unmanned Aerial Vehicle(UAV)」、または「Unmanned Aerial System(UAS)」とも呼ばれる。人間が搭乗しない航空機で、離れた地上から遠隔操縦でき、中には全く自律で離着陸と任務遂行ができる種類もある。軍事用途では主に監視と偵察、諜報活動に利用されるが、最近は武器を搭載して攻撃にも使われる頻度が増えた。

米国防省は無人航空機の利用拡大を計画している

 先週1週間のニュースを振り返るだけでも、米国のUAVの攻撃によってテロリストだけでなく一般市民の犠牲者が増えていることに対する世間の批判に答える形で、オバマ大統領が無人機の利用を初めて公に弁護した。その後、パネッタ国防長官が、総軍事予算は削減しながらも、無人航空機の調達は増やすと言明。そして週末には北大西洋条約機構(NATO)が偵察用に初めて無人航空機の一群を購入することで合意した発表した。

戦闘パイロットという職業はなくなる?

 今年初めに議会向けに公開された無人航空機の現状報告書によると、米国防省が保有する無人機の数は7494機。一方、人間のパイロットが乗る従来型の航空機は1万767機。今や全体の41%が無人機であるという計算だ。2005年にはこの比率が5%だったといい、ここ数年で急増した現状を明らかにしている。

 UAVは手のひらサイズから、東日本大震災後に福島第1原発の上空撮影に使われた「グローバル・ホーク」のように主翼幅が35メートルを超える大型のものまで、形や大きさが様々だ。報告書によると、そのプラットホームの種類は2003年に5種類だったのが、現在は約340種類。それが2021年には650種類に増えると予測されている。

 米国における初の女性戦闘パイロットの1人で、現在はマサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学部の准教授であるメアリー・カミングズ氏によると、「コックピットに座る戦闘パイロットの時代は終焉を迎えつつある」。今後も「米国内でワシントン上空を飛ぶ際など(特殊任務に)数人は必要だが」(カミングズ氏)、その数は多くない。UAVは米国の生身の兵士を危険にさらすことなくミッションを遂行できるので、その利用と用途が拡大するのは当然のことだと見る。

 この分野の有識者で、著書「Wired for War(邦訳:ロボット兵士の戦争)」で有名な、ブルッキングズ研究所のP・W・シンガー氏によると、同著が出版された2009年以降も無人機導入の流れは加速している。「無人機は今や日常的に使うのがあたりまえで、前線からの需要はとどまるところを知らない。このため、オペレーターの数も急増している」と言う。

 技術の進歩もすさまじい。例えばシンガー氏によると、現在の無人機はカメラ・センサーを使って1人の人間、あるいは車などを追跡できるが、次世代機は12人(あるいは12車両)を追跡可能だ。さらにその次には92もの人・物を同時追跡できる技術の開発が進行中だという。

 また現在、MITのカミングズ准教授らは米海軍と共同で、UAVを緊急時の医療・避難活動や、戦地への物資供給に使えるようにするための研究開発に取り組んでいる。「UAVに『前頭葉』をつけ」(同氏)、知能をどんどん高めようとしているのだ。

攻撃の20分後には自宅で夕食

 UAVの実戦利用と技術開発が急ピッチで進む一方で、様々な問題が浮き彫りになってきた。1つは当然のことながら、無人機に武器を持たせることに対する倫理的な問題だ。一国の兵士が自らの生命をかけることなく、遠くから他を殺すことに対して、社会の反応は複雑だ。また、現在は人間がミサイル発射など重要な判断を下しているが、技術的にはロボットが自律的に攻撃の必要性やタイミングを判断することが可能になってきている。こうしたことがそもそも許されるのか。安全性と信頼性はどこまで確立されているのか。

 シンガー氏は1月に大手米紙に「ドローンは民主主義をむしばむか?」というタイトルで文章を投稿した。戦争と平和は国家と人民にとっては重大な関心事であるはずだが、UAVによって戦争による自国兵士の死傷者が減少し、政治家もメディアも戦争にまつわる判断や行動をかつてのようには重要視しなくなる傾向が現れ始めていると警告を発した。同氏は次のように書く。「私は(UAVを使った)攻撃を非難しているのではない。そのほとんどを支持している。しかし私が問題視するのは、新しい技術が、かつては民主主義国家にとって最重要な選択だった意思決定過程を短絡化しているということだ。従来は戦争だと見られてきた事象が、戦争のように扱われなくなってきたのだ」

 一方、兵士側もストレスを感じている。米国防省の調査によると、UAVのパイロットの30%が「燃え尽き症候群(バーンアウト)」を経験している。ニーズの急増で無人機パイロットは長時間労働を強いられてきたのが大きな理由だが、「戦争のさなかで無人機を操縦し、その20分後には子供たちと夕食の席についているといった奇妙なギャップ」がストレスを生んでいるとシンガー氏は説明する。

 「パイロットの退屈も大きな要因だ」(MITのカミングズ准教授)。厳しい訓練を経て最前線で活躍してきた戦闘パイロットにとって、画面の前にじっと座って無人機を操縦するのは退屈でならない。このため、空軍は新たな無人機オペレーターのリクルートと教育に積極的に取り組んでいると同准教授は言う。しかしそれはそれで、戦地の経験が全くない人間にUAVによる攻撃を任せていいのかと疑問に思うのは私だけだろうか。

AP

米ノースロップ・グラマンが開発した実験用無人機「X-47B」は空中で別の機体に着陸し、燃料補給をすることを目指している

 またUAVの大きな特徴は燃料のある限り、四六時中、空中にいられるということ。軍需メーカーの米ノースロップ・グラマンは、実験用無人機「X-47B」で、同機が別の機体に空中で着陸し、燃料補給を受けられるような開発に取り組んでいる。空中からの絶え間ない監視は許されるのか、国際的な法律の枠組みの議論はこれからだ。

 軍事から民生へ

 さらに大きな潜在力と問題を秘めているのが、こうしたUAVの民生利用だ。インターネットがそうであったように、もともと軍事用途で開発が進んできたUAVの民間利用がすでに始まっている。次回のコラムではその現状についてまとめたい。

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影木准子(かげき・のりこ)

影木准子氏

北海道大学工学部を卒業後、日本経済新聞社で13年間、記者として働く。うち1997-2001年の4年間は同社シリコンバレー支局勤務。現在はシリコンバレー在住のフリーランス・ジャーナリスト。コンシューマー向けロボットの開発・市場動向に最大の関心があり、この分野の米国を中心とした海外における最 新情報をGetRobo Blog(http://www.getrobo.com/getrobo_blog/)などで発信している。

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