「どうすれば……」
ブツブツ呟いているのは川神百代。彼女は今、かつてないほど悩んでいた。
悩みの種となっているのは最近になって川神市に帰ってきた少年。
悩んでいる姿からは一見するとその少年に恋をしている乙女のように見える。
「こんなことだったらあの時無理やりにでも戦えばよかった」
が、現実はそんなに甘くはなく言っていることは物騒な内容だった。
「うーん……」
百代の知っている少年はひ弱で泣き虫ないじめられっ子だった。だが帰ってきた少年は強くなっていた。
目の前に現われた強者を黙って見ていることはできるわけがない。
それほどまでに百代は強者との戦闘に飢えている。
すぐにでも襲いかかりたい衝動をどうにか抑えてはいるが、いつ暴走するかわからないような状態にあった。
相手が心良くコチラの要望に応えてくれるならばここまで悩む必要はないが、戦いたい相手は『戦わない』と頑なに断わっていた。それで百代は諦めきれずこうやって頭を抱えて悩んでいるのだった。
「くそー、どうすればいいんだ……頭を使うのは苦手だ。こういう時はアイツの出番だな」
自分一人では解決策が浮かばなかった百代は抱えている頭から手を離し立ち上がると、川神院から飛び出すようにして駆け出して行った。
「それで俺のとこに来たわけね」
「そうなんだよ弟~お前なら何か良い案浮かぶだろ?」
百代が助力を求めたのは百代と同じくらいの年頃の少年。弟と呼ばれてはいるが本当に血が繋がっているわけではなく、百代が舎弟として可愛がっている後輩であり、風間ファミリーと呼ばれるグループのメンバーの一人で頭の切れる少年・直江大和だった。
「いきなりそんなこと言われても困るよ姉さん」
「それをどうにかするのが弟であるお前の役わりだろ? というかどうにかしろ」
頼みごとをする立場の人間が言う言葉ではないが、百代がここまで大和に頼るのは彼の事を信頼しているからだろう。
「……仕方ない。でも俺はその子を知らないから今度会わせてほしい。話はそれからだね」
一度溜息を吐きやれやれといった感じで頼みごとを受け入れた大和。だが嫌々受け入れている様子は微塵も感じられなかった。自分が姉と慕う百代の悩みを解決できるなら助力を惜しまないと思う優しい心と、百代がここまで執着する少年のことが気になる個人的な興味からの言葉だった。
「わかった。今度連れてくるが悟られないようにしてくれよ?」
「それは安心して。ファミリーで遊ぶ日に呼べばいいよ。俺からキャップにも話しておく」
「それでこそ私の弟だ」
数十分前まで頭を抱えながら悩んでいた百代だったが、大和の力を借り解決の兆しが見え、今はカラカラと笑い大和の背中を豪快に叩いていた。
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――月明かりが照らす多摩川の河川敷
「今日はコレで終わりにしようか」
年季の入った道着を身に纏った姿で額に浮かんだ汗を拭い対峙している一子に話しかる伊織。
「ありがとうございました!」
「僕の方こそありがとうございました」
礼をした伊織と一子の様子を見る限り疲れきっているわけではなかったが、こうして早めに鍛錬を終わらせることが多い。
「まだ元気みたいだけど体の使い過ぎには注意しないとね。いきすぎた鍛錬は体を壊す。だから適度に休まなくちゃ」
「でももっと鍛錬に励まないと川神院の師範代になれないから」
伊織の言葉を聞きながらも一子は今日の鍛錬を思い出しながら体を動かし続けている。決して無視しているわけではなく一子の焦りからくる行動だった。
「んー……僕と試合しよう。寸止めなしの真剣勝負を」
「え? いいの!?」
突然の申し出に驚いた一子だったがそれ以上に伊織と戦えることが嬉しいらしく、眼をキラキラと輝かせながら聞き返す。
「うん。……でもこれで僕が勝ったらさっき言ったことを守ってほしい」
伊織は真剣そのものだった。口調こそ穏やかなものだが、一子を見る目には強い意志が込められていた。
「今は一子ちゃんの得物がないからまた明日の夜この場所でしよう」
「わかったわ。何があっても明日は勝負してもらうから」
「約束するよ。あと今日は先に帰っておいてくれないかな?」
真剣な表情からいつもの人懐っこい笑みを浮かべる伊織。
「どこかに行くの?」
「昔、お世話になった人に少しね。鉄心さん達には帰りは遅くなるので、と伝えておいてくれたら嬉しいかな」
「じゃあ先に帰るね。あッ、ないと思うけど親不孝通りには近寄っちゃダメだって大和が言ってたから気をつけてねー」
川神院に向けて帰っていく一子を見送った伊織は振り返り
「いつまでそうしているのですか?」
と小さく、それでいて怒気を感じさせる口調で話しかけた。
短くてすみません…次回更新時には5000文字!という願望
感想ばっちこーい
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