「はははッ!待てーーーッ!!!」
「嫌だぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!!!」
笑顔で追いかける黒髪の美少女と必死の形相で逃げ惑う少年。傍から見れば黒髪の美少女がお姉さんで少年の方が弟、仲の良い姉弟に見えないこともない。
「なぜこうなったぁぁぁぁあああ!?」
どこまでも逃げる少年が七浜市で目撃された。
――数時間前。
川神院の朝は早い。太陽が顔を覗かした頃から起床し、各自鍛錬を行なっている。
伊織自身も日課である鍛錬の為に起きていた。今は道着に着替え終わり中庭でストレッチをしている。
「やってるネー」
「ルーさん、おはようございます。昨日の怪我大丈夫ですか?」
ルーの腕を見ながら言った伊織だったが、違和感に気付いた。
「あれ?その腕って…」
「もうほとんど治っているネ」
そう折れたはずの腕が普通に動いていた。
「腕よりコッチのが凄かったヨ。あんな至近距離でこれほどの威力のある技を受けたのは初めてだ。それも気を使わずに」
服を捲ると陥没している部分が見えた。これは昨日の試合の中で決め手となった投げの前に伊織が出した技によって出来たものだった。
「拳を当てた状態から、全身の力を一気に相手に叩きこむ。『虎砲』と言う技です」
包み隠さず技の説明をする伊織。本来“陸奥圓明流”は明るみに出ることのなかった格闘術だったのだが伊織の祖父によってその名と技を知らしめた為、今更隠すこともないのだ。
「二度と食らいたくない技だネ」
ルーは笑いながらそう言うと伊織に組み手をしようと提案した。初めはルーの体のことを考えて断わろうとした伊織だがルーの「平気だよ」の言葉を聞き、断わり切れずに了承してしまった。
組み手は全力ではなかったものの昨日の試合に劣るとは思えないほどの見栄えで、近くを通った者たちは二人の動きに釘付けになっている。
「そろそろ終わりにしよう」
「はいッ!」
互いに頷くと拳を突き合わせるように打ち出し組み手を終えた。
「ありがとうございました!」
「コチラこそありがとう、いい経験になったネ。朝食をとろうか」
「はい。っとその前に百代さんの居場所ってわかりますか?」
「今は妹の一子と走りに行ってるヨ」
「そうですか。では少し待っているので先に行ってください」
伊織はそう言うと川神院の門へと足を運んで行った。
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百代がランニングから戻ってくるまでの間、することのない伊織は『もし、百代と戦えばどうなるか』という想像をしていた。
想像中――
ボコボコにされた僕。その上に立つ百代さん。
――想像終了
「やっぱ無理だよねぇ……」
自分で想像したくせにかなり落ち込んでいる様子の伊織だったが、先程ルーとの会話のなかで出てきたある言葉を思い出すと何とか立ち直った。
「百代さんに妹なんていたっけ?……ん?あれがそうかな?」
伊織の視線の方向には、少し離れた所からコチラ(川神院の門)に向かって走ってくる二人の姿が見えた。
「ねぇねぇお姉さま、門の所に人が立っているけどお客さんかしら?」
武道着を着たポニーテールの少女が門の傍に立っている伊織の姿を発見すると一緒に走っている姉に話しかけた。
「んー見たことは……ないな。私への挑戦者か?ワン子、先に行くぞ」
ワン子と呼ばれた少女の返事も聞かずに、伊織のもとへ近づいていく黒髪の美がつくほどの少女。
「(なんか嫌な予感が……)」
自分へと接近してくる百代と思わしき人物に一抹の不安を感じる伊織。
「お前挑戦者か?そうでなくとも私と戦え!」
「やっぱりー!!」
伊織の予感は見事に的中していた。
「もしかして百代さんですか?」
冷や汗を掻きながら尋ねた。
「もしかしなくても百代だ。それがどうした?」
「…………」
「…………」
伊織と百代の両者の間には何とも言い難い空気が流れる。
「おーい!お姉さま待ってよう。……で、その人はだあれ?」
伊織たとのもとへと遅れてやってきたポニーテールの少女。
「よくわからんがコイツ強そうなんだ」
百代がポニーテールの少女に気を取られ一瞬だが目線を伊織から逸らした。
「(チャンス!)とりあえず、戦略的撤退ッ!!」
「ち、ちょっと待てッ!」
百代の言葉を聞かず一目散に逃げ去って行った。
「お姉さまどうするの?」
少女の質問に
「なんか面白そうだから追いかけてくる」
そう言い追いかけだす百代。
「また行っちゃった……」
「やっぱりあぁなっちゃったネー」
少女のもとへと来たのはルー師範代だった。
――そして現在
「ハァハァ……。も、もう無理……」
追いかけっこ(必死)に疲れ果てた伊織はその場に倒れ込み百代が追いついた。
「やっと観念したか。さぁ私と戦え!」
こちらは伊織とは違い息1つ乱れていない。
「無理です。嫌です。勘弁してください」
伊織は最後の力を振り絞ってできるかぎりの言葉を連ねた。
「却下!さぁ!私と!戦え!」
伊織の抵抗虚しく二文字で切り捨てられる。このあと5分程同じようなやり取りが繰り広げられた。
「何度も言わせるな。私と……ん?」
途中まで言うと百代はあることに気付く。
「お前どこかで会ったことないか?」
「やっと話を聞いてくれる状況になった。……僕のこと覚えてないかな?百代さん……いいや、モモちゃん」
「私をモモちゃんと呼ぶ男……あっ!もしかして伊織か?」
ここにきて百代は今まで追いかけっこしていた少年が、幼い時に仲良くしていた少年だということに気付いた。
「そうだよ。思い出してくれた?」
「全然気付かなかった」
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「十数年ぶりに会ったとしてもショックだよ」
言葉通りに顔に影を作り軽く涙目になりながら百代を見つめる伊織。
「いや……それは、あれだ」
百代はそんな伊織の様子に何かを言おうとするが中々言葉は見つからず、ますます慌てるという悪循環。
「そう!久しぶりに会ったお前が昔と変わってたからであってだな、私が気付かなかったのはそのせいだ」
「変わったかな?」
「そうだな。小さい頃はもっとこう、見るからに弱そうな雰囲気だった」
「それはそれでショック。まぁ本当のことだから仕方ないんだけどね」
百代の言葉に苦笑いをしながら答えるとしっかりと向き合う。
「ただいまモモちゃん」
「あー……おかえり」
思い出の中ではなく現実でようやく出会えた両者によって紡がれていく物語は幕を開けた。
この話でプロローグは終わりです。
ここまでお付き合いありがとうございました!
今後も続く『開かれる修羅の門』をよろしくお願いします!
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