両親が事故に遭った……。
イジメられていた日々から抜け出し、ようやく手にすることができた楽しい日常が崩れる出来事だった。
両親がいなくなった僕は母方の家に引き取られることになり、生まれ育った川神市を旅立つことになった。
あの日を救いだしてくれた少女を忘れないためにも僕は初めて拳を握った。雨の日も風の日も拳を振り続けた。最初は見様見真似で始めたことだったが時が経つにつれて、ただのパンチは完成された正拳突きに変わる。
パンチだけと思われるかもしれないが、あの時僕が少女の動きの中で辛うじて見えたのが正拳突きと呼ばれるものだったからだ。
ある日僕は薄汚れたノートを見つけた。中には体が小さい男の人が満身創痍になりながらも戦い抜いた記録と雑誌から切り抜かれたスナップが貼ってあり、ノートの端々には《陸奥 九十九》と書かかれていた。
「……じぃちゃん?」
すぐに祖父に尋ねた。すると祖父は微笑みながら話してくれた。
自分が1000年もの間不敗を誇る古武術《陸奥圓明流》の伝承者だったこと。その古武術を用いあらゆる場所に、ある時は海外へと足を延ばし戦ったこと。その中で出会った人々のことなどを僕に語ってくれた。
祖父の話しを聞いているうちに僕はある思いが生まれた。
「僕も強くなれるかな?」
自然に出た言葉だった。
「強さにはいろんなモノがある。伊織、お前はどうして強くなりたいと思った?」
川神市に住んでいる時にイジメに遭っていたこと。出会った少女に助けられたこと。その少女を思いパンチ(正拳突き)の練習をしていること。自分の思いを全てうちあけた。
「そうかそうか…強くなりたいんだな?」
話しを黙って聞いていた祖父は僕の頭を撫でながら聞いてきた。
僕の答えは決まっていた。
「うん!僕強くなりたい!!」
「お前の覚悟聞き届けた。俺が強くしてやる」
祖父の下で修行することになり、その日から強くなる為の鍛錬が開始された。
修行が始まると技などを教えてくれると思っていた僕の考えは甘かったと知ることになる。体づくりと称してひたすら走らされ、その後は器具を一切使わずに筋トレをする。
そんな日々が5年続いた。
「じぃちゃん今日も行ってくる」
ストレッチも終え祖父に話しかけた。
「伊織帰ってきたら俺と試合だ」
僕は歓喜した。どれだけ頼み込んでも「まだだ」と言い組み手すらしてくれなかった祖父が試合をしてくれると言ったからだ。
どれだけ待ち望んでいたことか……帰ってきた僕は意気揚々と祖父との試合に臨んだ。
結果は完全なる敗北。手も足も出ず、触れることすらできなかった。
「じぃちゃん強すぎ……」
僕の言葉を聞き祖父は笑いながら家に戻って行った。
走り込み・筋トレに加え、祖父との試合が日課になった。
その後も祖父に勝てず相変わらずボコボコにされる日々が続いた。
「これでどうだッ!!」
最近になって僕の攻撃が徐々に当たるようになってきていた。
「甘い!」
だが直撃しても大したダメージを与えられず反撃されていた。
攻撃が当たった瞬間、力の方向に合わせ飛んで衝撃を逃がす。どれだけ重い攻撃もそれをされては意味がなかった。
祖父の攻撃を同じようにして防ごうとしたが五回に一回成功すれば良い方で、ほとんどが失敗に終わり気を失うまでやり続けた。
一か月もすればできるようになり対処法もいくつか思いついた。そのなかの1つが投げ。
打撃と思わせ祖父の懐に入った僕に待っていたのは驚愕と痛みだった。
腕を捕られ肘の逆関節を極められ投げられていた。
この時は手加減されていたけど、《陸奥圓明流》の組み技には『投げる』『極める』『折る』が一連の流れの中で同時に行なわなければならないらしい。
祖父は決して口では何も教えてはくれなかった。どんな些細なことでも僕に受けさせた。
そこから自分で考え学べと言わんばかりに。
そして月日は流れ
「伊織お前は強くなった。この試合…いやこの死合いで最後だ」
そう言って構える祖父の姿に僕は震えた。
「お願いします!!」
開始の合図なんてなくとも僕と祖父は同時に飛び出し、そして衝突した――。
「はぁはぁ…やった。じぃちゃんに勝てた……」
何回、何十回、何百回、何千回と行なった試合の中で《陸奥圓明流》をその身で受け、覚え、使い、極める。それを繰り返した僕は成長していた。
「伊織ようやった。これでお前に教えることはなくなった」
地面に倒れる祖父はそう言って微笑んでくれていた。
「これからはお前が《陸奥圓明流》だ」
祖父は立ち上がると傍に置いてあった道着を僕に手渡してきた。
「じぃちゃんこれは?」
「ワシが昔使っていた道着だ。使ってくれ」
「そっか…じゃあ、ありがたく貰っておくよ」
この時、鍛え始めた幼い時からの思いを告げなければいけない気がして口を動かした。
「じぃちゃん、あのさ「行ってこい。好きにするといい」!?」
祖父はわかっていたようだ。僕が川神市に……いやあの時の女の子に会いに行こうとしていたことが。
「…グズッ…今日まで…ありがとう、グズッ……ありがとうございました!!」
何年振りかに出た涙は、感謝の涙だった。
「はっはっは、舞子ッ!飯だ!伊織の旅立ちへの祝いに美味い飯と酒を用意してくれ!!」
「わかりましたよ」
この後、ばぁちゃんが作ってくれた豪勢な料理を三人で囲んで食べた。
死合いで腕が折れた祖父の背中を流すために一緒に風呂に入った。
「この傷も、この痣も…全部いい思い出だよ」
そう僕の体には何年もの間、祖父との試合の中で出来た無数の傷や痣が残っていた。
「泣き虫小僧だったお前も一人前の…男の顔をするようになったな」
「やめてくれよ。泣き虫って言ったって昔のことだろう」
「お前は―――」
風の音に掻き消されてしまい祖父が何を言ったのかはわからなかった。
祖父の顔を見ると何故か聞き返す気にはなれず、そのまま聞き流す感じになってしまった。
「じぃちゃん」
「なんだ?」
「今日からは“陸奥 伊織”って名乗るよ」
幼い日の少女を思い、祖父に鍛えられた僕の中に生まれた決意だった。
「その名は重いぞ?」
「いいんだよ。これは僕の望んだことだから」
一言二言交わした僕と祖父は風呂をあとにした。
翌日の朝、僕は祖父母が寝静まっている間に家を出た。直接会ってしまうと泣くかもしれなかったからだった。
川神市へと向かおうとすると荷物の中に自分では入れた覚えのない包が入ってあることに気付く。
「(なんだコレ?)」
包の中には「好きに使え!」と書かれた手紙といくらかのお金、それとまだ温かいおにぎりが入っていた。お金は祖父が、おにぎりは祖母が握ってくれたモノだろう。
不覚にも涙が出た。
「ありがとうございましたーーーーッッッッ!!!!!!!」
振り返った僕は深く頭を下げ大きく叫んだ。
できるだけ多くの感謝の気持ちを込めて……。
『1000年もの間不敗を誇る“陸奥圓明流”
それを名乗ると決意した少年は
いったい何を魅せてくれるのか――』
まじこいの世界にいるのに原作キャラが出てこない
出てきたら、きたでキャラ崩壊になることが懸念されますが……気にしないw気にしないww
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