この日も、原発作業員を乗せたバスが続々と入っていきます。
福井県の高浜原発3号機。
今月20日に定期検査に入るため、関西電力が保有する全ての原発が停止します。
心配されるのが、関西の電力供給です。
<関西電力 八木誠社長・先月31日>
「この冬の節電に引き続き、ご理解とご協力をたまわりますよう、よろしくお願い申し上げます」
去年の夏に続き、この冬も10パーセント以上の節電要請を行っている関西電力。
今のところ、節電効果や中国電力などからの融通で、「でんき予報が厳しい」と出たのは1回だけですが、このまま原発停止が続けば電力不足が起きると危機感を募らせます。
<八木誠社長・先月31日>
「すべての原子力プラントが停止すると、需給は一層厳しい状況となる。基本的にはまず、原発の再稼働に全力で取り組んでいくと」
原発の再開を望む声は、関西の経済界からも聞こえてきます。
<ダイキン工業 相談役・9日>
「定期修理中の原発をずるずると再稼動を遅らせているのは、ものすごい日本の経済を弱めてると思う」
<南海電鉄 会長・9日>
「ただ無条件に脱原発、原発反対だけでは産業機能そのものが停滞してしまいますからね。問題が大きい」
関電が保有する原発は、すでに美浜・大飯・高浜の11基のうち10基が検査のため運転を停止。
残る高浜3号機も来週、定期検査に入ります。
一方、大飯原発3、4号機は、再稼働に向けて関電が原子力安全保安院に「ストレステスト」の結果を提出しました。
<反原発デモ・4日>
「再稼動反対!」
しかし原発再開の動きに、周辺の自治体は神経を尖らせています。
今月、滋賀県では大飯原発の再稼動に反対する大規模なデモ行進が行われました。
<男性参加者・4日>
「福井県が隣にあるということで、もし万が一、何かあったら大変なことになるなあ、という思いがあって」
<女性参加者・4日>
「福島の現実を見て私らも子ども育ててるので、こんな怖いモノの中で暮らしたくないので、できる意思表示をしようと思って」
保安院は、関電が提出した大飯原発の「ストレステスト」の結果は「妥当」として、2月13日、審査書を原子力安全委員会に提出。
今後、大飯原発を再稼動するかどうかは政治判断に委ねられることになりますが、その前に地元の理解が必要となります。
(Q、国の手続きがどんどん進んでいるが…?)
<福井・おおい町 時岡忍町長>
「私はまだ進んでいるとは思いません」
(Q、ストレステストは再稼動の判断にはならない?)
「なりません」
再稼働を巡って、原発を抱える町は大きく揺れています。
原発の再稼働を巡って揺れる町。
人口およそ8,800人のおおい町です。
福島の原発事故以降、住民の間に不安が広がる一方、町民の半数以上が原発関連の仕事に従事しているだけに住民の心は複雑です。
<住民の男性>
「『十分安全や』ということが証明されて皆さんが同意されれば、それ(再稼動)はしかたないと思うし」
<住民の女性>
「福島のことでもいろいろ聞くし、怖いと思う」
この女性は、息子が原発で働いているといいます。
<息子が原発で働いている 住民の女性>
「家族のものも原子力で働いてるというのもあるし、孫が近くに住んでるというのもあって、ほんとにどっちとも言えない、もう仕事なくなるのも困るし、かといって孫たちの世代に万が一のことがあったときに、ねえ」
しかも、町の財政も原発に依存しているのです。
原発の立地自治体として、おおい町には毎年、国から20億円以上の交付金が支払われていて、福祉施設などの建設やコミュニティーバスの運行などに使われています。
関電からの固定資産税なども加えると原発関連の収入は町の全収入の半分を占めるだけに、議会も原発からの恩恵は否定しません。
<おおい町議会 新谷欣也議長>
「原発がなければ、おおい町の人口は今の何分の1かになっていると思う。だから町自体が成り立っていないと思う」
大飯原発の再稼働に向け、着々と進む国の手続き。
しかし町長は、その動きを牽制します。
<おおい町 時岡忍町長>
「(手続きは)進んでいるとは思いません。福島の知見をもとにした新しい安全基準ができて、それに対する安全対策ができて、すべて完了した時点でなければ、どんどん進んでいると理解していません」
おおい町から30キロ程離れた福井県美浜町。
やはり原発の再開のメドは立っていませんが、新たな動きも出てきました。
<美浜町元町議 松下照幸さん>
「風で発電して、お日様でも発電して」
元美浜町議の松下さん。
数年前から小さな風力発電を活用しています。
危険の伴う原発は停止し、自然エネルギーに転換すべきだと訴えます。
<美浜町元町議 松下照幸さん>
「福島の事故以降、僕らが言ってきたことがスーッと地域に入るようになりましたので」
美浜原発3号機では8年前、老朽化した配管から高温の蒸気が噴き出し、作業員5人が死亡、6人が重軽傷を負う事故がありました。
それだけに地元では、原発の再稼働に慎重な声が少なくありません。
<原発近くの男性住民>
「安全でなかったら、動かして欲しくない」
<原発近くの女性住民>
「怖いもん、避難場所もないでしょう」
さらに、美浜原発1号機は、運転開始から41年が経過。
政府も40年を超える原発は、原則的に廃炉の方針を示しています。
「原発に依存しない町に変えていくべきだ」と訴える松下さん。
町内の水力や風力を利用してどの程度の電力が賄え、雇用が生み出せるのか。
専門の研究機関にも調査を依頼しています。
<美浜町元町議 松下照幸さん>
「廃炉のための雇用、解体していくための雇用はあると思うが、それに加えて自然エネルギーをこの地域で活用していくと… そこへ原発の人たちの雇用をできるだけシフトしていこうと」
原発の再稼働に向けた動きが本格化する中、最大のハードルとなる地元の理解をどう得ていくのか。
電力需要が山場を迎える夏を前に、課題は山積しています。
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