作家の故司馬遼太郎さんの代表作「坂の上の雲」の記述を無断で複製したとして、司馬遼太郎記念財団(東大阪市)などが出版社「洋泉社」(東京都千代田区)が刊行した書籍「『坂の上の雲』大事典」の出版差し止めを求めた仮処分申請に対し、東京地裁(小川卓逸裁判官)は15日、申し立てを認め、出版の差し止めと書籍の差し押さえを命じる仮処分決定を出した。
写真を多用した「ムック」と呼ばれる雑誌風の書籍で、昨秋に出版されたが、財団は松山城の風景や秋山好古、真之兄弟が学んだ「明教館」の描写など7カ所を財団の許諾を得ることなく小説から複製して掲載したとして著作権侵害を訴えていた。小説のあらすじや登場人物を紹介する内容で9000部が印刷された。
決定を受け財団は「著作権侵害への裁判所の明確な姿勢が示された。こうした行為については今後も断固たる措置をとる」とコメント。洋泉社編集部の担当者は「引用は適正と考えており、不本意な決定。弁護士と相談して抗告するかどうか決める」とした。
出版差し止めを命じる仮処分決定が出されたケースはまれで、最近では▽警視庁公安部の内部資料とみられる流出文書が収録された書籍について東京地裁がプライバシー侵害を認めた決定(10年11月)▽詩人の谷川俊太郎さんらの作品が無断掲載された学習教材について東京地裁が著作権侵害を認めた決定(02年11月)がある。【野口由紀】
毎日新聞 2012年2月15日 21時35分(最終更新 2月16日 8時55分)