第二話 裏話
初めまして、刑部静那です。
一言で今の私の状態を言うのなら、最近兄が騒がしくて辛い、そんな感じ。
なにせあの変人な兄貴は、優秀なのに優秀であろうとしないのだから。
それでバカやって騒いでいるのだけは、少しだけ羨ましいのだけれど。
「はぁ」
日課であるトレーニングジムからの帰り道、つい溜め息。
家に帰ったら自主トレの他にも学校の宿題やらがまだ残っている。大変面倒で仕方ない。
我が兄、刑部湊斗は変人だ。
変人だが、天才でもある。
私がパンチすれば吹き飛ぶだろうけど、頭がいい。私も少しは勉強には自信があるけど、兄はそれを遥かに凌駕している。
もしも私が『一を聞いて十を知る』とするのなら、兄の場合は『一を知って百を知る』もしくは『一を知って千を知る』と言っても過言ではない。
それだけの天才であったのだ……昔は。
それが今は、どこでどう間違ったのか変人になってしまった。バカと天才は紙一重と言うが、ようやくそれを実際に目にする事ができた様な気がする。
ここ、川神市では変人が多いから大丈夫だろうが、世間に出てやっていけるのだろうか。
それとも私みたいにマトモな奴の方が世間は少ないのだろうか。
というか……なんで私がお母さんみたいな心配してるんだろう。両親カムバック! いつまでも子供放っておくのはやめてよね!
第二話~裏話~ 静那ちゃんゴーゴー
明日は私の友達である武蔵小杉と兄貴がデートにいくらしい。
というか武蔵ちゃんが私に自慢げに話してきた。『そんな話妹の私にちっとも羨ましくないから』と言いたくはあったけど、とても機嫌が良かったので放っておくことにした。
「まぁ、兄貴に変な事されないようにね(たぶんしないだろうけど)」
「ふっふっふ。このプッレーミアムな私を何だと思ってるの? 当然! 大丈夫よ!」
(駄目だ……兄貴レベルでわけがわからない……)
思うんだけど、回りに個性的な人間が多すぎるのよね。
常識人を自負している私としては少し辛いわ。
に、してもだ。不思議な事がある。
なぜあのお馬鹿な兄貴がモテるのか。
特別モテるわけじゃあないが、そこそこモテる。クラスの人からの評価だって、『ああいうお兄さんで大変ね』の場合と、『いいお兄さんで羨ましい』の二つがある。
私にしても、いないよりはいた方が面白いし、いざという時は頼れる兄貴であるとは思うのだけど。
「普段の態度がねぇ……」
「あー楽しみだわ。明日どんな服着てこう」
(なんでこんなに喜べるのか不思議でならない)
この武蔵ちゃんなんかは特に奇特な例なんだろう。
小学生以前からの知り合いで、私が刑部の家に連れてきたその日には兄貴と意気投合……そして子分にされていた。早過ぎだろう。
でもまぁ、子供の頃から偉そうだった兄貴にしてみれば、自分よりも更に年下で子供な武蔵小杉という女の子くらい、簡単に心を掴めたに違いない。
あれ以来、私とも友人として武蔵ちゃんとは長い付き合いが続いているが、最近武蔵ちゃんは兄貴とやたらと親密だ。
うん、邪推しかねないほどに。
「……まーどうせ杞憂だろうけどね」
「何よ」
「何でもないわよ」
武蔵ちゃんにはそこまで行こうという覚悟は絶対ないだろうし、兄貴が急にロリに目覚めたとしても拳で撃退できるだろう。……うん、癖も性格も何もかも把握されてるからこっそり薬持ったりしたらわからないけど、さすがにそこまでしないと信じたい。
……そう言えば、この子に並ぶ奇特な人がもう一人いたっけ。
兄貴と同い年、二年前は付き合ってたらしいあの人。
「教えるかちょっと迷うけど……別にいいよね」
私は今回の件についてのメールを、あの人に送ることにした。
……まぁ、大丈夫だろう。たぶん。あの人は根に持つタイプじゃないと思うし。本来なら送る必要もないだろうけど、これはちょっとした意地悪だ。
あの人が兄貴を矯正しきってくれれば、更正時期で中途半端に変人止まりしてしまう事もなかったのだ。
うん。これくらいの自由は許されるよね。
じゃ、送信っと。
「マイシスタァァァァアアアアアアアアアアアアアア!」
「うわっ!?」
部屋で勉強していた私の耳に、玄関の方から巨大な声が響いてきた。
ちなみに今の私はヘッドホン装備。だってのに聞こえるだなんてどんだけ大声なのよ。我が兄ながら得体が知れなくて恐ろしいわね。いったいどんだけの大声出したのかしら。
その後、ヘッドホンを外した私の耳に、ドタドタと階段を駆け昇る音が聞こえてきた。
まぁ、いつもこの時間に私が家にいる場合、部屋で宿題やってるか居間でテレビでも見てるものね。
「我が妹セイナよぉ! 説明してもらおうか!」
「あーはいはい」
「お前弓子にメール送ったろ!? なーに考えてんだオイィ!?」
扉をスパァンと開け放って兄貴が部屋へと突撃してきた。
おぉう、凄い迫力だ。なんか襲われそうな感じがする。襲われたら殴るけど。マッハで。
「なんかムカついたからさ」
「うん」
「それだけ」
「うん……エェェェエ!?」
明らかなオーバーリアクションで驚く兄貴。こんなんだから変人なんだと思う一面である。
ああもう。マジでこんな兄貴のどこが良かったんだろうあの二人は。
武蔵ちゃんはともかく、前に家に遊びに来てた矢場先輩なんかは凄くマジメっぽかったのに。そのおかげで、人間不思議なものだ……などと、中学三年生の少女である私には酷く不似合いな事を考えてしまった。
「ムカつくって……ったく」
「何かする?」
「何かってなんだよ。お前、俺を変態かなんかと勘違いしてるんじゃないのか?」
「えっ、違うの?」
あ、つい本音を口にしてしまった。
まぁ誰が見てもそう思うし……ん~、でもまだ変態じゃなくて変人なのかな。それだけで結構違うし。
「やれやれ困った妹だ、有頂天になった俺の怒りは呆れてクールダウンしたが、二度目はないと覚えておけ」
「意外と寛大だね」
「まぁな。というか、与えるべき罰が思いつかんかった。だから許す」
つまり罰を思いついてたら何かやってたのか。アバウトだなぁ。
まぁ、おかげで私は助かったけど。
それにしてもメールを出した詳しい理由も聞いてきたりしてこないし、そこらへんは考えてくれているのだろうか。矢場先輩だけに送った意味とか、武蔵ちゃんと買い物してたら周りがどう思うのかとか。
……後者はありえなそうだなぁ。
「じゃあ俺は行ってくる。留守番は任せたぞ」
「え? どっか行くの? お金は?」
「うるさい! 確かに武蔵と買い物した時に散在したが、友達と茶ァ飲むくらいの金はあるわ!」
「友達って……京極さん?」
確かとんでもないイケメンの。
なんで兄貴の友達かわからないくらいに性格もいいあの人の事?
あの人とお茶……うん、絵になるなぁ。兄貴は、まぁ、黙ってればそこそこ……かな?
「暇だからな。偶にはそういう事もあるさ」
付き合いは大事だ、と兄貴は笑った。
確かにこの兄貴、こんなヘンテコなくせに色んな所に知り合いがいる。たぶんそういう事も含めての『付き合い』ってヤツなのだろう。
今の私には、まだわかりそうにない。
「ま、お咎めがなくてよかったよかった」
兄が去った自分の部屋で、私は再びヘッドホンを装着した。
目の前には今日中に終わらせなければならない宿題の束。
私も頭が悪いってわけじゃないけど、これを終わらせるには結構時間がかかりそうだ。
「さってとー、やりますか」
あとがき
妹キャラがいるだけでルートと言い訳を作りやすくなる不思議。
まぁ、どうせあんまり出番ないだろうしね。
刑部静那。
チャームポイントはショートカットの赤い髪。
ツッコミ気質。
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