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基本的に軽いギャグテイストで進めよう、そうしよう。
プロローグ
 それは、寒々しいながらもすっきりと晴れた日のことだった。

「負けた。完膚なきまでに負けた。畜生負けた」

 俺は超絶望モードで自宅のベランダから夕暮れ時の川神の町を眺めていた。
 別に飛び降り自殺とかそういうわけじゃないが(そこまで高いってわけでもないし)、強いて言うなら……ちょっと黄昏たい気分だったのだ。
 というのも、ボロ負け、惨敗を喫したからである。それもついさっき。まさか負けるとは思っていなかっただけに結構ダメージが大きい。
 あの一年で有名な仲良しグループでハーレム作ってる野郎にも協力を要請したにも関わらずこのザマである。

「かくなる上は――」

 ついつい考えを口に出しながら、俺はその場に立ち上がった。
 ――ベランダの縁、つい先ほどまで腰掛けていたフェンスの上で。

「って何やってるんですか!?」

「何ィ! 誰だ――っと?」

 突然背後からかけられた大きな声にビックリして振り向こうとして、少し気付いたことがある。
 なんだか視界が斜めに角度を増していくような。そして訪れる浮遊感。
 振り向いた先では知った顔が大慌てでこっちに駆けてくる。
 そこでようやく状況を理解した俺は大声で叫んだ。

「ぬおぉぉぉお!? 落ちる落ちる落ちる! 助けろ武蔵!」

「自業自得でしょう! もう!」

 なんとかかんとか言いながら、フェンスにしがみついていた俺を武蔵小杉は引っ張り上げた。
 むぅ、さすが俺が見込んだ子分一号である。女だというのに力持ち。俺とて別段非力というわけではないが、俺が通っている川神学園では平均レベルなのである。たぶん武蔵に殴られたら1発で気絶するんじゃあるまいか。そんな事しないとは信じてるけど。
 ふぅと一息ついて思わず出てしまった冷や汗を拭っていると、腰に手を当てた武蔵が呆れた顔で言ってきた。

「まぁ元気出してくださいよ」

「出せるかー! 結構内申に響くんだぞ馬鹿!」

「馬鹿って……じゃあ先輩はプレミアムな大馬鹿ですね」

「なんだよその表現!」

 こいつ最近生意気になってる気がしてならない。
 昔はあんなに可愛かったのになぁ。そりゃ容姿的には今も可愛いが、なんか性格とかが色々とアレな気がしてならない。昔から上から目線で話したがってたけど、こんな感じになるとは。ヘタに実力ついた分だけ自信が増したんだろうなぁ。
 ザクロも色々と苦労……しそうに無いな。よく考えたら性格とかすげー似てるわ。

「……何見てるんです?」

「別に? いや別に? 馬鹿なところは相変わらずとか思ってねーし? 口喧嘩のたびにないてたくせにとか思ってねーし?」

(うざっ!)

 ついついムカつき口調になってしまったがまぁいい。どうせ武蔵だ。いつも通りだ。
 そんな事よりも今後の対策を練らなければなるまい。
 ……しっかし、どうするか。生徒会長以上に内申に良さそうな役職なんてあるか?

「それなら生徒会長に決闘挑むとか」

「決闘馬鹿は黙ってろ」

「ひどいですよ!?」

 涙目になってひんひん言ってる武蔵は全くわかってないらしい。
 今そんな事をやってもただのガキだろうが。負けたからって決闘しかけるとか。しかも男が女に。
 それ以前に腕っ節じゃ絶対に負けるからやらんけど。
 骨法部の部長相手に決闘挑むとかやってられるか? いいや無理だね。武蔵にすら腕っ節で負ける俺が、そんな武蔵よりも絶対に強いだろう奴に決闘挑むなんざアホの極みだ。

「俺はお前と違って、勝てる戦いしかしないのさ」

「でも今日負けたでしょ?」

「……お前、そこは空気読めよ」

 なに新しくできた心の傷抉っちゃってるワケ?
 だいたいあんなもんは偶然でな。別に俺の人望が低いとかそういうわけじゃねぇぞ? でなきゃああんな留学生に俺が生徒会長選挙で負けるわけねえだろ?
 なぁオイ、そうだろうがよ?

「それで、どうするんですか?」

「どうするっつったってなぁ? なんとかそれなりの役職にでもついときたいところだが……」

 生徒会副会長、まだ席は空いているといいんだがな。
 にしても、こいつにも随分と迷惑かけたな。俺が会長になって、こいつが入学してきたら生徒会に引っ張り込んでこき使ってやろうと思ってたのに。こいつ普段から偉そうだからピッタリなはずなのに。
 それに周りにもっと凄いのがいればこいつも少しは丸くなるかもだしな。
 まぁ、今となっちゃ意味ない話だけどな。

「憂鬱だー!」

「明日も学校あるんだからサボっちゃだめですよ?」

「わかっとるわ! 負けたからって不貞寝して学校サボるとかするわけねぇだろ!」

とりあえず今日は明日に備えて寝よう。武蔵は勝手に帰るだろう。
勝手知ったる他人の家って感じだし。昔から結構ウチ来てたし。
そんなわけでおやすみ。






「ようやく見つけたで候」

「……あぁこの声は、っつかかたっくるしい話し方は……弓子だな!」

「指をさすなで候」

 翌日。机に突っ伏して計画を練っていた俺は、話しかけられた相手を見事に推測してピタリと当ててみせた。しかし起き様にビシィッと指さして見せたのだが、お気に召さなかったようだ。
 お堅いんだからなぁもう。二年になってから堅さが三割り増しになった気がするぜ。
 昔からの知り合いだし(というか俺はこの同年代のヤツとはだいだい顔馴染みなんだが)、結構仲がいいかもしれないが……まぁラブレターって事はないだろうな。その手にもってる手紙らしきモノは。

「で、何用? なんとなく俺に用があるってのはわかるぜ?」

「相変わらず妙に勘が……まぁいいで候。用というのはこれを渡す事で候」

「手紙……誰からだ?」

「自分で見るで候」

 そう言って渡された手紙を見るや、俺はげんなり気分になった。
 別にラブレターじゃなかったから悲しかったわけじゃない。だいたいそんなフラグ立ってない。
 ご丁寧に書いてあった名前が、生徒会長に就任した【南條・M・虎子】だったからだ。
 果し合いか、はたまたラブレターか。後者は絶対に無いだろうが何の用なのか。矢場が興味ありげにそわそわしてるからとりあえずデコピンを喰らわせ、俺は内容に目を通すことにした。

「内容はなんなので候?」

「ふ……呼び出しだ」

「呼び出し?」

 もしかするともしかするかもしれない展開に若干顔がにやける。
 そして『何の?』と問いたげな矢場に、手紙をポケットに突っ込みつつ俺は言った。

「どうやら、会長サマは俺に用があるらしい」






「『フクカイチョウ』ニ、ニンメイシマス!」

「なん……だと……!?」

「ヨロコビデコエモデナイカ!」

「むしろ驚きなんだが」

 生徒会室に入るなりそんな事を言われ、思わず俺はたじろいだ。
 いやだってそりゃー驚くさ。俺は『副会長になってやらんこともない』って言おうと思ってたんだから。なるたけ偉そうに。
 ってかこいつは何を考えてるんだ。会長選挙の時には散々色々やった俺を相手にんな事言うとは……
 何も考えてない――いやそんな馬鹿な。というか俺に勝ったんだからこいつがそんな阿呆だったらそれに負けた俺が最悪じゃないか。何か考えがあるはずだ……!

「一体何を考えている……! 何かの陰謀か!?」

「HAHAHA、コレガリユウダ!」

 突き出された書類に目を通す。
 ……なるほど。なるほどね。フフゥン、なるほど?
 俺が学年ベスト3の学力であるからと? そして交友関係が広いからと? 一年間生徒会を勤めた実績があるからと?
 そーかそーか俺に入って欲しいのかーじゃあ仕方ないよなー。

「ふはははは! そりゃそうだろうさ、俺がこのまま落ちぶれるなどありえぬ話だったのさ!」

「テンションがHIGHダネー」

「当然だとも! とりあえず副会長の任、仕方ないから受けてやらない事もない。俺ほどにふさわしい人間がいないならこの学園の為にもよくないからな。そうとも、本来なら俺こそがトップだったのだがお前が余りにも頼むから頼みを聞いてやろうじゃないか」

「Yes! ヨロシク!」

 クックック……フハハハハ……ハァーッハッハッハ!
 ついに俺の時代が来たな(生徒会長じゃなくて副会長だけど)。
 まぁいいさ。副会長とはいえ役職は役職。会長ほどではないとはいえ、ちゃんとした実績さえ出せば評価もされるだろう。ましてや会長はこいつ……勝った! これは勝った!
 書類仕事でも各委員会や部活との予算協議でも俺の方が遥かに優秀であることは明白!

(そうとも……会長の座は取れなかったが、裏のトップとなればよいのだ!)

(ダイジョウブカナー、スイセンナンダケドナー)

 む? 何を見ている? 俺に惚れたか?
 まぁ安心しろ。どんな無能だろうが俺さえいれば百人力。
 劉禅に諸葛孔明みたいなもんだ。まぁあれは負けフラグだったけどな。俺の場合は容赦なく上の奴切り捨てるからアレよりは有能だぞ。わはは。






「というわけだ。安心しろ。お前が川神学園に来たらもれなくお前を生徒会に入れてやるからな」

「えー」

「もちろん嫌と言っても引きずり込むからな!」

「別に嫌ってわけじゃあないんですけどね」

 じゃあなんだ。
 そら言えはよ言え今すぐに言え。

「……プッレーミアムなこの私に、まさか雑用ばかりの庶務なんてやらせる気じゃないでしょうね!」

「よく言った! それでこそ我が部下一号!」

 俺相手に若干気後れしたことはともかく、きちんと最後まで言い切ったことを評価する!
 俺の部下であるのなら常に下克上を狙う武士であれ。反骨の相? 知らんな。
 どうせ腕っ節じゃかなわんのだからその時はその時だ。だいたいこいつがこのオレサマに逆らうはずがない! 子供の頃から調教(洗脳的な意味で)してきたからな!

「以外に達筆なお前には、書記の任につかせてやろう。それ以上の役職につきたくば、俺の任期終了を待つのだな!」

 なーにどっかの学校では一年生が会長やってるくらいだ問題ない。
 明日からはバリバリ改正してやるぜ……改革してやるぜ……
 だがその前に――

「ところで湊斗先輩」

「……何だ?」

「約束通り、買い物に付き合ってくださいね」

 あのチート女に貸した金、返して貰わんとな……
 クソッ! 今まで誤魔化してたのに!
 なんで俺は『会長になれなかったら何でも好きなもの買ってやるよ』なんてアホな事を言っちまったんだ!

あとがき

コンセプトは『ごく普通(笑)の偉そうな高校生』。
偉そうなって時点で普通じゃないって疑問は受け付けません!
ちなみにザクロは武蔵小杉のおにーさん。

真剣マジ副会長オレサマラブしなさい!
略してマジラブ……HAHAHAワロス。

川神学園の会長選挙戦は10月……さて。どうするかねぇ。
ここで副会長にならなかった場合、新しいルートが生まれるわけだが。
フラグ建立予定地はどこだアーッ!
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|南條・M・虎子|
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<なるほど、いいフラグだ。嫌いじゃないわ!

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