2011年12月18日 14時3分 更新:12月18日 14時21分
将来的な皇族減少への懸念から、野田政権は、女性宮家創設の検討を始めることを決めた。歴代内閣に問題を「先送り」されてきた形の宮内庁では歓迎ムードが漂うが、「男系」で続いてきた皇室の歴史を重視する保守派の懸念は根強い。野田政権は「女性・女系天皇容認論」とは切り離すことで反発を最小限に抑える構えだが、ねじれ国会の中で他にも重要案件が山積しており、先行きは不透明だ。
「皇室活動の安定性という意味から緊急性の高い課題だ」
野田佳彦首相は今月1日の記者会見でこう語り、女性宮家創設に関する検討を指示した。藤村修官房長官も14日、皇室典範の改正問題で有識者ヒアリングを年明けから行うと表明。内閣官房の皇室典範改正準備室を中心に、具体的な聴取方法として審議会や有識者会議の設置、有識者への個別聴取を検討している。
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や消費増税などの政策課題を抱え、首相周辺では当初、与野党で賛否の割れる皇室典範改正の取り組みに慎重論が大勢だった。しかし、10月に秋篠宮ご夫妻の長女眞子さまが成人を迎えたことや11月の天皇陛下の一時入院などが重なり、女性宮家創設の議論を急ぐことになった。
今後の議論は、小泉純一郎元首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」による05年11月の報告書がベースになる。報告書に法的拘束力はないが、女性・女系天皇や女性宮家の創設を容認。だが06年9月、秋篠宮家に男子の悠仁さまが誕生し皇室典範の改正機運は沈静化した。
その後、皇室典範改正の議論は内閣官房の事務方で非公式な勉強会が細々と続いていたのが実情。衆参で多数派が異なるねじれ国会に直面する野田政権は「反対論の強い女性・女系天皇などの皇位継承問題は切り離すべきだ」(政府高官)と判断した。女性宮家創設にテーマを絞り、世論の動向も見定めつつ、議論を進める構えだ。
しかし、皇室典範の改正問題は与野党内でも意見が割れ、議論のハードルは高い。民主党内では、男系を維持する立場の議員連盟が5年ぶりに再開。女性宮家の子どもが将来、皇位継承権を得て「女系天皇」になれば、男系の伝統が途絶えかねないとして、慎重派議員は警戒感を強めている。自民党の安倍晋三元首相は「性急に考えるべきではない」と慎重な対応を求めた。
消費増税の与党内対立に加え、公務員給与引き下げや議員定数削減など、政権の懸案は山積。一方で、野党各党は来年の衆院解散・総選挙を目指し、対決姿勢を強め始めた。首相自身、女性宮家創設について「いつまでにと(結論の)時期を区切ることはない」と述べるにとどめており、結論が再び先送りされる可能性もある。【中島和哉、光田宗義】
野田政権の動きに関し、宮内庁は公式には冷静な発言に終始している。藤村官房長官の発言翌日の15日、羽毛田信吾同庁長官は「問題をどう受け止め、検討していくのかは内閣の判断。宮内庁としては情報提供や説明などできることをやっていく」と従来通りの説明を繰り返した。
憲法は「天皇は国政に権能を有しない」と定めている。皇室典範は「法律」に当たり、改正論議を主導するのは「政治活動」との批判を受ける恐れがあるため、皇室のお世話をする宮内庁としても控えめな立場を守っている形だ。ただ、羽毛田長官自身、以前から度々、典範の問題点を語っており、長年の懸案が動き出したことに庁内では歓迎の声も。ある幹部は「簡単にはまとまらないのかもしれないが動かなければ始まらない」と評価した。
宮内庁側が危機感を強めていた背景には、現在の皇室の構成がある。天皇陛下を除いて7人いる男性皇族のうち4人は60歳以上。未婚の女性皇族は8人で、そのうち6人は成人になっている。
典範は、女性皇族が結婚後に皇籍を離れることを規定しており、悠仁さまが成人になるころには、皇族の数が極端に少なくなる恐れがある。結婚適齢期を迎える女性皇族が増え、典範改正の時期によっては「姉が一般人なのに、妹は結婚しても皇族」という姉妹間の差の恐れも出てきたのが現実だった。
若い皇族の未来に関わるだけに、当事者の意見をどうくみ取るかも難問だ。天皇陛下は「皇位継承の制度に関わることについては、国会の論議に委ねるべきであると思います」(09年11月)と語り、皇太子さまもこの問題について「発言を控えるべきであると思っております」(同年2月)と述べるにとどめている。一方、羽毛田長官は08年に陛下が体調を崩した際、私見として、心労の背景に「皇統の問題」を挙げた。
そんな中、秋篠宮さまは先月、国会に委ねるとの基本姿勢は示しつつ、皇室の将来について「私や皇太子殿下の意見を聞いてもらうことがあっても良い」と述べた。【真鍋光之、合田月美、川崎桂吾】