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【社会】

牛乳 近づく0ベクレル 安全願う親/戸惑う業界

 「牛乳は一○ベクレル、五ベクレルといった数値が(学校給食現場などで)基準になりつつあります」「神経質過ぎるのではと思うくらい」

 東京都内で七日、放射性物質のリスクをテーマに、食品業界関係者や市民らが集まった意見交換会。乳業大手・雪印メグミルクの日和佐(ひわさ)信子社外取締役は、業界の焦りを代弁した。

 牛乳に含まれる放射性セシウムの国の暫定規制値は、一キログラム当たり二〇〇ベクレル。四月から厳しくなる新規制値でも同五○ベクレルの見込みだ。しかし、業界は、放射能汚染へ不安を抱く母親らの基準値の方が、はるかに厳しいことに、戸惑っている。

 チェルノブイリ原発事故で甲状腺がんの子どもが増えた一因とされ、給食で毎日のように出される牛乳。不安な母親たちには、象徴的な存在でもある。

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 「牛乳を飲まない子どもは毎月数人ずつ増えています」。給食現場で起きている異変を、東京都武蔵野市の担当者が説明する。

 武蔵野市は昨年十月、小学校で出す予定だった牛乳から同七ベクレルのセシウムを検出。今、全児童約五千人のうち三十八人が牛乳を拒否している。

 町田市でも、市議の独自検査で六ベクレルを検出し、全児童約二万三千八百人のうち約二百二十人が飲むのをやめている。

 「再び安心して子どもに飲ませるため、産地を西日本に限定してほしい」と、世田谷区の母親(46)は訴える。同様の要望は学校や地元自治体に寄せられるが、牛乳の供給体制を変えることは容易ではない。東京であれば年間一億本以上も必要とあって、安定的な確保のため、供給元を決めるのは都道府県だからだ。都は市区町村を十四区域に分け、複数のメーカーから納入してもらっている。都は産地の変更も「風評被害を招く」として、メーカーに求めていない。

 それでも、父母らの思いは業界を動かしている。

 都内の小中学校に納入している牛乳メーカー六社でつくる東京学乳協議会は今月二日、検査結果を初めて公表した。業界も、独自検査をせざるを得なくなり、今月末にも結果を発表する予定だ。

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 そもそも、酪農家が搾る原乳から製品化するまでの工程で、汚染された乳を取り除けないのだろうか。

 牛乳は、複数の酪農家が搾った原乳を、各地に設置された「クーラーステーション」と呼ばれる大きなタンクに集めた後、検査している。

 消費者からは「クーラーステーション単位の検査では、汚染された原乳が、大量の原乳に混ざって薄まっているのでは」と、ステーションに集める前に検査すべきとの指摘もある。これに対して、業界団体の日本乳業協会は「原発事故前からの検査法で、批判には当たらない」と理解を求める。一方で、酪農の現場では「ゼロベクレル」に挑む動きが出始めている。

 「クーラーステーションの検査では一ベクレル未満まで調べている。少しでも検出されれば、農家に出向いてエサの指導をしている」。前橋市内で約四十年間酪農を営み、酪農組合代表理事を務める細野勝美さん(61)は覚悟を語る。「『不検出』でないと消費者はイエスと言わない。酪農家はゼロを目指して努力している」

<牛乳の検査結果> 厚生労働省によると、昨年3月の福島第一原発事故の直後、福島、茨城両県の一部地域で、原乳計23件が、国の暫定規制値(放射性ヨウ素は1キログラム当たり300ベクレル、セシウムは同200ベクレル)を超えた。甲状腺に集まりやすい放射性ヨウ素は半減期が8日と短く、現在は食品から検出されていない。セシウムについては昨年4月以降、現行の暫定規制値を超えた原乳はない。今年4月から適用予定の新規制値50ベクレルを超えた原乳もない。原乳とは乳牛から搾ったままの状態の乳で、加工されて牛乳になる。牛乳も原乳も規制値は同じ。

 

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