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エジプト:ムバラク政権崩壊1年 景気低迷、安定は遠く

 【カイロ和田浩明】エジプトのムバラク前大統領が、中東の民主化運動「アラブの春」の中で、30年続いた独裁政権の「王座」から追い落とされてから11日で1年がたった。しかし、エジプトの現状は安定には程遠い。暫定統治中の軍最高評議会と民主活動家らの対立は続き、民政移行も未完のままだ。景気は低迷し、ムバラク時代は最大の後ろ盾だった米国との緊張も高まるなど新たな難題も抱えている。

 ムバラク前大統領は昨年1~2月の民主化騒乱でデモ参加者約830人の殺害に関与した罪などで起訴され、裁判は継続中だ。死刑判決もあり得るが、それで直面する国内問題が解決されるわけではない。

 民政移管への一里塚となる人民議会(国会)の選挙は1月に完了し、ムバラク政権下で弾圧された穏健派イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」系政党が4割以上の議席を確保した。選管が6月予定の大統領選挙の候補者登録を1カ月前倒しして3月10日に開始すると発表するなど、一定の前進は見られる。しかし新憲法作りはこれからで大統領選の期日も確定していない。

 一部の民主勢力は軍最高評議会の即時辞任を要求し、騒乱の種になっている。だが、民主化運動を先導した若者団体などが11日に呼びかけたゼネストは不発に終わった。国民の間には「騒ぎはもうたくさん」(主婦のライラ・サイードさん=43)との思いが強まっているのも事実だ。

 治安も不安定だ。今月1日に北部ポートサイドのサッカー場で、ファン同士の衝突から観客ら74人が死亡する惨事が発生。警備態勢への批判や軍政の陰謀説まで飛び出した。この事故の影響で首都カイロなどでは抗議デモが発生。当局側は催涙ガス弾やゴム弾を使用して鎮圧を図り、保健省によると16人が死亡し、数千人が負傷した。

 さらに、東部シナイ半島で米国や韓国の観光客が拘束中の親族の釈放を求める遊牧民に誘拐される事件や、カイロで国連勤務の外国人女性が射殺される事件も起きている。

 観光庁によると、11年の外国人訪問者は前年に比べ32%減少。観光収入も28%落ち、「革命」で大きな打撃を受けた形だ。旅行ガイドのアラア・アシリーさん(24)は「今は仕事の確保の方が大事。まず大統領選をやるべきだ」と安定しない国情にうんざり顔だ。

 さらに問題なのが、年13億ドル(約1000億円)と言われる軍事援助を受ける米国との関係悪化だ。8日、民主化支援などを行っていた米国人の非政府組織(NGO)関係者が「外国資金で騒乱をあおった」などの理由で起訴された。米側はクリントン国務長官が援助凍結を示唆し圧力をかけているが、決着の見通しはない。

毎日新聞 2012年2月14日 東京朝刊

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