譲らぬ経産相、抵抗する東電 経営権巡り攻防激化

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公的資本注入なしでは成り立たない東電

 東京電力と枝野幸男経済産業相の経営権をめぐる攻防が、激しさを増している。東電は2011年4〜12月期決算は乗り切ったが、燃料費の増加などで「台所事情」は火の車。債務超過を避けるには1兆円規模の公的資本の注入が必要だが、東電改革の主導権を握りたい枝野経産相は「実質国有化」を譲らない構えだ。

■議決権が焦点

 13日昼過ぎ、枝野経産相は大臣室に東電の西沢俊夫社長を呼び、強い口調で言い渡した。

 「十分な議決権が伴わない形で資本注入を求める計画が提出されても、認めるつもりはない」

 そもそもの会談の用件は、原発事故に伴う賠償資金の追加支援。東電の求めに対し、経産相が認定する「儀式」のはずが、まず言及したのは東電に対する公的資本の注入だった。

 東電と原子力損害賠償支援機構が3月中につくる「総合特別事業計画」を認める条件として、国側が東電の株式を議決権ベースで過半を握る「実質国有化」の受け入れを迫った。

 これには伏線がある。東電幹部が9日、「3分の1超の議決権は仕方ない」と発言。政府関係者によると、これを報道で知った枝野氏は激怒。議決権の「過半」を求める経産省の意向に反し、東電が「3分の1超」に世論誘導しようとしていると映った。

 追加支援の認定は、10日の方向で調整が進んでいた。ところが、枝野氏は延期。結局、議決権をめぐる攻防が決着しないまま、追加支援が決まった。追加支援がないと、債務超過だったが、東電が経営破綻(はたん)すると、原発事故の賠償や電力供給に支障が出かねない。枝野氏にとっても、追加支援を渋り続けることは難しい状況があった。

 決算会見で西沢社長は「決して大臣の考えは軽いものではない。機構とよく調整して計画を策定したい」と、神妙な面持ちで言った。一方で「民間の活力を発揮するのが電気事業においても大事」と語り、譲らない姿勢をみせた。

 経団連の米倉弘昌会長は13日の記者会見で「国有化して、ちゃんとした経営になった企業は見たことがない」と、枝野氏の姿勢に疑問を投げかけた。

■国の支援は必須

 東京電力の経営は、4〜12月期決算を乗り切った後も、いばらの道が続く。新年度に返さないといけない社債は、7500億円。ほかの借金も合わせれば、1年で9千億円を返済しなければならない。

 火力発電の燃料費もかさむ。3月下旬には柏崎刈羽原発6号機が定期検査に入り、すべての原発が止まる。新年度は今年度よりも3千億円以上、燃料費が増える見通しで、事故前と比べれば年間で約1兆1千億円の負担増になる。

 原発事故の収束や、廃炉に向けた費用には新年度も1千億円程度がかかるとみられているが、状況次第ではさらに膨らみかねない。原子炉の冷却や放射性物質の飛散を防ぐ対策費が、予想より高くついている。

 支出が確実に増える一方、東電ができる経費削減策には限りがある。人件費や広告宣伝費、調達費用などを削っても、リストラ効果は年間2千億円ほどにとどまる。

 家庭の電気料金の値上げには、国の認可がいるが、枝野経産相は厳しい姿勢を示している。4月から値上げする企業向け料金も、秋には値上げ幅を圧縮する方向になった。東電は4千億円の増収効果を期待するが、不透明だ。

 経営権をめぐる経産省との綱引きは続くが、政府の資金支援なしでは、経営が立ちゆかなくなっている。

     ◇

■東京電力に対する枝野幸男経産相の指示

・十分な議決権を伴わない公的資本注入は認めない

・経営責任を明確にし、思い切った事業再編、意識改革を進めよ

・さらに合理化を進め、不動産などの資産売却の加速を

・合理化について徹底的に説明責任を果たせ

・電気料金の原価見直しは、家庭向けだけではなく、企業向けにもさかのぼって反映を

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