ロイター通信 写真部
中尾由里子
東日本大震災の発生から間もなく1年。私は福島市内にある常円寺のご住職、阿部光裕さんを再び訪ねることにした。半年前に取材した時には、ご住職は放射能汚染の影響を和らげようと、ヒマワリを栽培したり、種苗を配る活動を行っていた。
それ以来、ご住職一家とは定期的に連絡を取っている。辛い状況に直面しているにも関わらず、ご一家は屈託のない様子で接してくれる。ある日の夜、ご住職が興奮気味に私の携帯に電話をかけてきた。世界体操のテレビ放送に、取材中の私が映っていたのだという。
そうした関係が築けていたことが功を奏したからか、半年ぶりに取材で伺った際にも、私は日常生活の一部に溶け込むように、僧侶であり、かつ3人の男の子の父親でもあるご住職が放射能汚染と闘う様子を取材することができた。
2月初旬に常円寺を訪ねた私を待っていたのは、以前と全く異なる光景だった。ヒマワリの花が咲き乱れ、セミが騒々しく鳴いていた半年前の様子は一転、一面雪に覆われた、静寂が広がる世界となっていた。お寺の入り口の隣には汚染土壌などの貯蔵容器が積まれていた。
ご住職は以前、放射性物質を「見えない雪」と呼んでいた。いまやその「見えない雪」は、本当の雪で覆い隠されてしまっている。「現実の雪は冷たくて大変ですが、見えない雪よりもずっとやさしい。見える雪はいずれ解けて消えてしまいますから」とご住職は語る。
阿部住職とボランティアの人々は現在、放射線量が局地的に高い「ホットスポット」の除染を行っている。雪をどけ、土を掘り起こし、特殊な洗浄液を高圧スプレーで吹き付けていく。そして最後に汚染土壌などの放射性廃棄物を、誰も住む人のいない、寺の所有地の一角で保管している。
政府が放射性廃棄物の一時的な保管場所について決めあぐねているため、寺の所有地を提供しているのだ。
カメラを置いて、手伝うべきではないのか──。私はよくそんなジレンマに直面する。しかし今回は、ご住職の気遣いで、そんな罪悪感を感じることはなかった。将来子どもを産む時のリスクは無視できないからと、ご住職は30代の女性が作業に参加する事を認めなかった。だからこそ、私はマスクを着用した上で、写真を撮るという本業に専念できた。
ボランティア作業の2日目。ご住職らは小学校の除染作業に向かった。ここは、ご住職の末っ子で3年生になる裕心君が通う小学校でもある。450人いた児童のうち約30人がすでに転校しており、その中には裕心君の親友も含まれている。
ここでは昨年、行政による除染作業が行われたにもかかわらず、6マイクロシーベルト以上の放射線量を示す新たなホットスポットが現れた。ご住職は、またあの高圧スプレーで除染していく。
子どもが大人よりも放射能の影響を受けやすい事もあり、裕心君は放課後に外で遊ぶことがなくなったと、彼の母親の美智子さんは言う。近隣の他の子供たちも同様だ。
しかし、裕心君がゲーム機のWiiで遊んでいるところを写真に収めた時のことだった。背が大きくなり、自信に満ちあふれた顔で微笑みかける、彼の成長した姿に気が付いた。もう地震があっても泣かないし、雨や雷も怖がらないようになったのだと、美智子さんが教えてくれた。
彼の生き生きした姿は、ご住職が以前語ってくれたことを思い出させた。「困難が人間を強くし、苦境に立たされることで、人は自分が持っているものにありがたみを感じるようになる」。
常円寺近くに住む檀家の方の敷地には、ヒマワリと同じく放射能の浄化作用があると言われている菜の花が、雪の下ですでに芽吹いていた。福島の人々に笑顔の花を咲かそうと、新芽は雪の下で春の到来を待ち焦がれている。
*現地からのスライドショーはこちらのリンクからご覧いただけます。
(写真/ロイター)
14件のコメント
そもそも原子力発電を開始して何十年経つことか、これだけの年月が経っても、「原子力、原子力」。
- 投稿者 wolf03科学は日々発達しているのに、いつまでも発電は原子力?
それはおかしいだろう。
他にも方法はある。
ただ単に高収益が上げられるから推進しているだけ。
電力会社と一部の人間の都合で、「いつまでも勝手をするな」と言いたい。
現状で電力が足りているのに改めて何を節電対策?
- 投稿者 つくつくほうし原発に利便性も経済性も無いことは、今回の震災で明らか!
公務員は天下りなんか考えないで憲法規定通りに自己犠牲に徹すべし。
国家国民を植民地化しても滅ぼせば無意味!!!
最大のエゴイストは官!
幼稚な雑感
何かに突き動かされているのだろうか。その動機と熱情に共感し行動を共にする人も、同感し支援するかたがたも数多くいると想像するし、その純粋であろう熱情をもった人々を畏敬します。
毒と認識するからかしら。許容以上の放射線や高エネルギーの宇宙線はほとんどの生物にとって破滅にいたる毒であろう。地質年代を尺度とすれば、ウラン鉱床の自然臨界の終焉以前より生物は発生し、彗星の大衝突や様々な毒により生物は複雑化したり、ある意味単純化したりしながら、進化を重ねてきたように思う。人間もその他の生物にとっては毒であるかも知れぬ。見方によっては、太陽も酸素も毒であり、我々は毒の海のなかで
奇跡的に命を繋いで生きているとも思われる。人間は安住の地を求めて大移動できた、奇跡の生物なのであろう。
原発事故事故でそのような事にならなかったのは、不幸中の幸いであろうし、充分とはとても言えぬが、その後の妨害も含め、危機管理は機能したと思っています。
生老病死、愛別離苦他四苦八苦は逃れることの出来ぬ、人に対する毒だと思います。内憂外患様々な毒が満ちているように思います。今私は、このような毒から逃げろと言われていますが、逃げるさきは有りません。
- 投稿者 酔眼原発の危険性はあるから東京には作らないんでしょう!
何かあったら被害が大きくなるから。
それで近隣に作るそれで送る。
もう福島では何かあったので福島近隣の原発はなくしてください!
福島だけ無くなれば良いと考えている訳ではありませんが
第2原発の再稼動との噂が出ています。
もう一度見えない雪が降ったら福島は終わりです。
- 投稿者 もーいや!原発を考える時に、利便性、経済性を無視して議論しては話が進まない。電気料金が60%(企業向けを値上げすれば産業が衰退する為、全て家庭向けの値上げで燃料費をカバー)上がっても文句を言いません。冬の朝、夜は暖房しません。夏の昼は冷房しませんと約束できますか?
- 投稿者 文左衛門私は耐えられません。一方で原発も怖いです。ならやることは、省電力消費社会を作ることです。
Wiiを動かしていたのは、原発で発電した電気だったということを教えるべきである。真に原発に反対するなら、カルタ・トランプなどで遊ぶことを教えるべきである。今の子は仕方がないというのであれば、原発があるのも仕方がない、事故が起きたのも仕方がないということになる。
省電力消費社会に必要なのはピークを下げると共に、総量を下げる必要がある。
①照明は全てLEDにする。(電球・蛍光灯には高額の物品税を課す)
②冷房の設定可能温度を25℃以上にする。
③暖房の設定可能温度を22℃以下にする。
④新築・改築の建築許可は高断熱住宅のみ許可する。
⑤夜間のネオンを規制し、明るすぎない夜間にする。
⑥TVはLEDバックライトのみにする。
⑦電気自動車に対する電気料金を大幅に上げる。
⑧日本に資源大国である地熱発電を強制的に増やす。
(温泉に依存する町には大打撃だが原発を廃止する為なので強制)
⑨原発に対する補助金等を、廃炉費用及び新電源開発の補助金にする。
⑩単世代税(1世帯50万円位/年)を新設して単世帯を減らす。
※単身、夫婦のみの世帯を単世帯とする。
これらを全て行なえば、原発を全廃しても家庭用を10%位値上げするだけで経済的に見合うようになる。
これだけの覚悟が原発反対論者にはあるのだろうか?あるのなら私は原発反対に賛成である。覚悟もなく、負担も拒否し、原発にも反対する人は、自立できない無責任極まりない人だと思う。
福島原発の多いなる反省を我々日本人はしようでわないか?日本国は脱原発が正統派であると確信する.何故なら,日本列島は太古より宿命的に地球上の割れ目にほぼ南北に弓状に位置している.つまり,地震火山烈島の真上に位置する運命宿命的状態にある.地球上の割れ目に位置しない中国ソ連大陸等,米国,ヨーロッパ諸国,アフリカは彼等の国の地震火山等のない基準にのっとり原発を100%フル稼動出来る.しかし日本国は決して彼等と同じ国際的基準では稼動出来ない事を肝に命じて我々日本人は熟慮しなければならない.近未来起こり得る千葉房総沖地震M7.5,東京直下地震M7.5,伊豆沖地震M8,東海沖地震M8.5そして,近々噴火の可能性の高い富士山これらに伴い浜岡原発が福島原発の二の舞が現実化しないためにも,特に関東園への再現を防止するためにも浜岡原発は廃炉すべきと考えるがいかがか?
- 投稿者 賢明市民原発が無くても計画停電を止めた。
- 投稿者 石井静香そもそも、電力は不足していない。
なぜ、原発を推進してきたか?
天下り場所確保が目的!
つまり、仕組まれた人災!
東電、日立、東芝は大きな過ちを犯した。放射線の管理区域外に、放射性物質を拡散させた。放射線管理の原則は拡散させないことだ。無防備な一般庶民に放射性物質を浴びせることは、重大な犯罪だ。狭い国土をさらに狭くし、生態系への放射線の影響という課題を残した。自然災害に誘発された事故でも拡散を起こさないように、慎重に管理区域の広さの設定、原子炉の設計、建設をすべきなのだ。それが不可能なら、又はそれに懸念が有れば建設をしない、運転しない選択をすべきであった。管理区域内での放射能汚染は、原発を運転している限り容認しなければならない。それにもかかわらず東電は些細な事故を必要以上に恐れると同時に、可能性のある大きな事故に対する対策を怠った。今回の事故は想定内、想定外という主観的な判断の違い以前の、常識的な懸念事項が無視されていたことに起因している現象がいくつか見受けられる。政策の進め方や、現在の日本の技術水準の一面を示されたと解釈される。論理的思考が途中で停止したり、結果が出てから判断するように、思考の過程で「神がかり、何とかなる」が現れる。
- 投稿者 有閑Pascal原発に関する詳しい内容を知らない国民に、今回の事故の責任は全くない。設計、建設、運転者が重く真摯に責任を負い事故処理に最後まで取り組むべきだ。彼らは自分の裁量でなんでもできるからだ。三号機のベントの配管が四号機のそれと繋がっていて水素が四号機に逆流する現象は確かに想定外だろう。原発が安全でないから、東電は原発の受け入れ自治体に金を賄賂として渡す。危険性を承知している者はそれをはっきりと相手方に喚起しなければならないが、東電は安全だと言ってきた(言動に相違がある)。そこが問題だ。だから国民には責任がない。ベントや海水注入のタイミングは管理者の東電以外に判断できない。責任のない傍観者の意見は、「言うは易く行うは難し」に等しい。
政府は私達私達福島市民、県民の命をどの様に考えているのでしょうか。
- 投稿者 澤田渉終息宣言の嘘、除染の嘘、等きりがありません。震災直後政府は福を島安全と何度もコメントしていましたが、市民がおのおの放射線測定器を購入し計測を始めたら急に校庭などの除染を始めました。結局バレたら事実を発表するのです。
政府hwこれ以上我々を馬鹿にするな。
ここに来て福島県民と討論しなさい。
枝野ような非常識な馬鹿をつれて来い。
政府は私福達島市民、県民の命わ何だと思っているのでしょうか?現在の民主党の様なご都合主義主体の政府が何をできるのでししょうか・
- 投稿者 澤田渉もう嘘は沢山です、どこまで現政府は人の命を弄ぶのでしょうか。
原発を霞ヶ関の国会議事堂内に作れば一番良いのでは。
とても暖かなニュースをありがとうございます。
中尾さんとご住職、そしてそのご家族とのふれあいに心が和みます。
私は遠くタイに住み、避寒に訪れている北欧やロシアからの旅行者にいろいろ質問されたり励ましの言葉までもいただきます。近所に住む日本人の方がそういう話(原発のことや政府の政策等)をすることをタブーと感じているか無関心? 避けているようです。国民性かもしれませんね。
私も家族(甥2人とその家族)を郡山に持ち、2家族には未就学児が3人。ひとりは3.11の直後15日の誕生です。生まれてはじめて吸った空気が放射能に汚染された空気でした。
- 投稿者 大渕 秀子私にとってはどうすることもできないもどかしさに、また、国内に住む周囲の人には政府や御用学者の発表する「安全です」のせいか、あまりの無対応無反応にこちらが引いてしまう始末です。
未来ある子供たち、またその子供を担うお母さんを汚染させてはいけない…と会う人ごと(白人)にいわれます。なぜウクライナの現実を参考にしないのか?とまで。
なんか参考にしたのは「隠ぺい工作」だけのような気もしますが…。
そんな中でもこの記事に、ほっとしうれしく感じました。
確実に春は着ていますね。そして苦悩の中の成長。たくましく育ってほしいものです。ありがとうございました。
ロイター写真部の苦労が良く理解できる。福島が受けた被害の甚大さも良く理解できる。
しかし、この焦点の当て方は片手落ちだ。
高放射性物質は、関東一円・東北・北海道南部・中部にくまなく拡散している。
関東について言えば、除染の計画が全くないが、除染は必要であり、樹木は10メートル以上高い部分を全部切り、落ち葉は肥料とせず土中に埋めず焼却し焼却灰を適正に処分することが求められる。
これを行わなければ、放射性物質が土中に堆積し、一部は降雨とともに川に流れ川下に堆積する。
東京湾は、放射性物質で埋まる。
これは、最近の報道にも現れている。
しかし、予想できたことだ。
うちの庭木は全部切り落ち葉は可燃ゴミで全部出した。
これから庭土5センチを集めて廃棄するつもりだ。
福島産および福島周辺からの食材は、それと分かれば絶対使わない。
- 投稿者 インテリ経済の概念では、決して計れない・・
先祖の代々の墓!
私の田舎は富山だが、
行って、先ず感じる事は、
人の歩みにも似た時の流れだ!
思春期には、そこに夢が無いと思ったものだ!
しかし、年を重ね、改めて感じる事は、
気軽に運命を任せられる暮らしがあった。
人生、全てを受け入れてくれる「受け皿」がそこには在る!
- 投稿者 noteこれから福島は、長い年月を掛けて取り戻して行くのでしょう!
見える雪は綺麗な六角形ですが、見えない雪(セシウム)はCs137となることで、死の灰となる。
- 投稿者 岩佐嘉久自然界では、灰青色のCs133として、原子時計に選ばれる希少性があるのに、、、たった+3だけで、脅威となる見えざる雪に変えたのは、間違いなく人間です。人間が自己を苦しめる。-もう想定外は許されない。 yan