福島からの電話
「5月の初め、私が仕事から帰ると、お父さんが嬉しそうに『ねぇ、あきちゃん(カニカさんの日本名の愛称)、仕事が決まったよ! 2~3日後に出発するから』って報告してくれました。私も喜んで、『じゃあ、お父さん、パーティーしようか。何でも好きなものご馳走するよ』と言って、福島へ出発する前の5月10日、家で2人のパーティーをしたんです」
出発の前日、カニカさんは新しい作業着、靴、帽子、下着などを買い揃えて、かばんに詰め、信勝さんに手渡した。夕食は鯛の刺身と豆腐の味噌汁、カレーライス・・・・・・と、信勝さんの大好物が食卓に並び、缶ビールで乾杯した。地方へ行く前の二人きりの宴は、大角家の恒例行事だった。
「お父さんは、『お腹いっぱい』と、とっても喜んでくれた。そして、私はお父さんの髪を切って、爪を切って、髭を剃ってあげました」
その後、風呂場で夫の体を丁寧に洗いながら、カニカさんは言葉をかけた。
「ねぇ、お父さん。お仕事行ったら、頑張ってよー。私ね、何もいらないから、お父さん健康で戻ってきて。あとね、田んぼの車も忘れないでね」
田んぼの車が欲しい。それは、カニカさんが以前から信勝さんに伝えていた願いだった。
「原発の仕事をあと2年頑張って、そしたら田んぼの車(耕運機)を買って、タイに一緒に帰って農業をしようねって約束してたんです。お父さんは、うんうん、って聞いてくれました」
見送りの際は、いつも無事を願って指切りを交わす。福島原発へ向かう日の朝も、固い約束を交わすため、小指ではなく親指で指切りをした。厄除けのため、火打ち石を打つ真似をしながら、「お父さん、いってらっしゃい!」といつものように笑顔で見送った。
「その日の夜、福島についたお父さんから、電話がありました。遠くへ行ったときはいつも必ず電話をしてくれるんです。『母さん、着いたよ。いまミーティングが終わったところ。寂しい?』とね。『大丈夫。お父さん、早くお風呂入って、ご飯食べて、早く寝なさいね。頑張ってね!』と私が言うと、『お前も、頑張ってやれよ!』って」
これが、夫婦が交わした最後の言葉になった。カニカさんは、夫が福島に行くことは聞いていたが、まさかあの大惨事が起こった福島第一原発の現場に働きに行ったとは、そのときは理解していなかったという。
最後の電話から3日後。仕事を終えてカニカさんが自宅へ帰ると、留守番電話に何件ものメッセージが入っていた。
「信勝さんが亡くなりました」
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