この質問に対して時岡町長は、「はっ、なんで? 経営にタッチすれば別だが、(行政的には)中立だ。売り上げが伸びているのは息子の経営努力によるもの。A社が私の創業企業であることは町民が知っている。そのことを踏まえた上で私を圧倒的に支持している。あなたとは意見が合わん」と答え、とうとう最後は怒りだした。
以上のように、時岡町長はA社との関係はあくまでも形式的なものであり、A社が原発関連の仕事を請け負っているといっても、だからといって町が電力会社の、いわば言いなりになることへの疑問は真っ向から否定した。
だが、まったく別の意見を述べる町役場の関係者がいる。
「行政トップとして電力会社にニュートラルな立場なのかは、はなはだ疑問だ。と言うのは、『3・11』以降、原発の安全性が全国で議論されているのに、休止中の原発の再稼動や新規建設を認めてもいいのでないかという、まるで関西電力に擦り寄っていると思われても仕方がない発言を町長は行っている」
冒頭の産経記事だけでなく、今年6月26日付けの福井新聞には「原発再稼動 おおい町長も前向き検討 避難道約束などを前提に」という記事が掲載されている。定期検査で停止している大飯原発の再稼動について、時岡町長は「夏はすぐそこにきており、待ったなしの状況。(電力供給地としての)使命感はあり、前向きに検討したい」と語っている。全国の原発立地地域の首長が再稼動に慎重になる中、時岡町長のこの発言は町議会でも「安全対策が前提とはいえ、いくらなんでも拙速すぎないか」と問題になったという。
また、9月15日に行われた町議会においても、時岡町長はさらに踏み込んだ発言をした。4基の大飯原発のうち、1号機と2号機は建造から30年を超えて老朽化が目立っている。その古びた原発を廃炉にするかを町議から問われた時岡町長は、以下のように述べている。
「私見を申し上げますと、今後の国のエネルギー政策の行方がまだ不透明でございますが、私といたしましては、高経年化原子炉とされる、いわゆる設計思想の古いプラントについては、様々な手法を用いたとしても、新たな安全思想が反映できない箇所があるかもしれないという疑念が拭いきれないと考えております。日本全体のエネルギーの需給について、代替エネルギーが完備されるまでの間に、やはり原子力発電が必要であるとの見解が示されるのならば、最新の知見を基に、最新の技術を投入したプラントに置き換えるということが、立地の町の住人の皆さんにとって、安心していただけるのではないかと考えております」(議事録より)
国の許可を前提としているが、早い話、おおい町は1、2号機に代わる新しい原発を建造してはどうかという発言である。野田佳彦総理も「(原発の)新規建設は現実的に困難」と明言しているにもかかわらず、時岡町長の議会発言は"どじょう宰相"の2歩も3歩も前を行くもの。「踏み込みすぎて唖然とした」(議会関係者)という意見は、至極もっともである。
時岡町長にすれば町の財政を考えると、原発マネーを得るためには1日でも早い再稼動、さらには新規建設が急がれるという考えなのかもしれない。他にさしたる産業がない自治体にすれば、原発が稼動するか否かは死活問題。確かに切実なテーマであり、それは理解できる。だが、本当にそれだけなのか。いくら経営にノータッチだとしても、身内の会社が関西電力と取引を続けているのだ。意識、無意識のうちに電力会社と似たり寄ったりの思考回路に陥る、いわば"情緒的な力学"が働かないとも限らない。電力会社に対して一定の距離を置いた行政ができるかは、疑問に感じるところである。
実はもう一点、問題が残る。政治家の関係する私企業と電力会社などとの企業間取引は、形を変えた企業献金として利用される可能性がある。通常の商取引なら問題はない。ただ、実際の発注高に加えて水増し料を支払うだけで、ウラ献金が上乗せされることも可能となる。今回の事例がそれだというつもりはないが、こうした疑念をもたれる行為は避けるべきではないのか。
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