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取材・文 吉富有治(ジャーナリスト)
10月25日付けの産経新聞が一面トップで「福井・おおい町長 大飯原発 再稼動容認へ」という記事を載せている。東日本大震災に端を発した福島第一原発の事故が起こって以降、原発立地の自治体首長が定期検査で停止中の原発再稼動に前向きな発言をしたのは初めてである。当然、国や電力会社は注目し、再稼動に慎重な地元住民からは批判の声が上がっているという。
大飯原発を抱える、福井県大飯郡おおい町は福井県の南西部に位置する、人口わずか9000人弱の小さな町だ。平成18年3月3日に旧名田庄村と旧大飯町が合併、現在の「おおい町」に名称変更した。
町の90%は山林が占め、残りわずかな土地の大半は日本海・若狭湾に面している。海にほど近い幹線道路を走れば、美しいリアス式海岸が目に飛び込んでくる。夏になれば近隣府県から海水浴客が押し寄せ、山道を走ればのどかな田園風景が濃い緑の合間に広がり、都会人の疲れた身体と目を癒してくれる。この季節、稲刈りに精を出す農家も少なくない。
おおい町が恵まれているのは、なにも自然環境だけではない。関西電力が所有する4基の原子力発電所が同町に立地しているおかげで、十分すぎるほどの財政的な恩恵も受けている。おおい町に限らず、原発を抱える自治体は国から電源三法交付金が支払われている。いわば原発を町に置かせてもらうことへの国と電力会社からの"迷惑料"だが、この交付金のおかげで原発立地の自治体は必要以上の贅沢が可能になるのだ。
同町の平成21年度決算によると、歳入は131億5600万円、歳出は123億4000万円で実質収支は5億3500万円の黒字。経常収支比率は80.8%。財政の余裕度を示す財政力指数は1.10。この指数が1以上なら国から地方交付税を受けることはないので、むろん、おおい町は不交付団体である。自治体のヘソクリを示す財政調整基金など各種積立金の残高も125億3200万円と、同年度における歳出と同額の規模を誇っている。
もちろん単純に比較はできないが、人口が同規模の自治体と比べてみれば、おおい町の裕福ぐあいは漠然とだが理解できる。たとえば人口が約9000人の奈良県川西町の場合、こちらの歳入は約39億円(平成21年度決算)。経常収支比率は97.9%、財政力指数は0.53。ヘソクリの積立金残高は約21億円ほどである。歳入だけでもおおい町は川西町の約3.3倍、ヘソクリは約6倍もある。他の同規模の自治体と比べても、似たり寄ったり。おおい町の財政の潤沢さが理解できる。
「原発が建設される前まで町は財政破綻の寸前でした。産業といっても、大半は農業と漁業を細々と営むだけ。人口も減り、町は老人ばかり。そこに原発がやってきたものだから、がらりと様相が変わりました。道路は舗装され、原発が立っている大島半島への道も整備されました。本当に原発サマサマですよ」
こう語るのは、おおい町に住む60代の男性だ。原発サマサマ。この声は、大半の町民の本音だろう。町の財政が豊かになったことで、おおい町ではリゾートホテルにマリーナ、温泉などのアミューズメント施設、豪華な総合体育施設など、人口規模から見て不釣合いとも思えるハコモノの建設ラッシュが続いた。町民への福祉行政も他と比べて充実している。
町の様相は原発以前の貧相さから一変。多くの町民は「わが故郷、おおい町」を誇らしく思っているに違いない。もっとも、リゾートホテルなどの稼働率は低く、町が財政支援している状況だ。それでも誰も危機感を持たないのは、原発マネーが「打ち出の小槌」と考えているからだろうか。
さて、「原発サマサマ」なのは町民だけではなさそうだ。同町の時岡忍町長(74)も公職を離れて、個人的にも「サマサマ」だと疑われても仕方がないのではないか。
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