特別読み物 被災地で捕まった人たち 「震災後」裁判傍聴記

2011年11月24日(木) 週刊現代 

週刊現代 経済の死角

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 350万円を盗んだ後の震災ボランティア活動については、「自分で決めたわけではなく、お願いされて流れで始めた」ということだった。他人のために尽くすことで、自分のやってしまった過ちを少しでも和らげたいと、奉仕活動にすがりつく考えもあったのかもしれない。被告人は多くを語らず「今後は大学を出て、人の役に立つ仕事をしたい」と述べるにとどまった。

 このように、犯行の後に「震災ボランティアをしていた」「募金活動をしていた」などとアピール、情状酌量を狙う弁護人や被告が、各地の法廷で見受けられた。もちろん、真剣に反省して正面から活動に取り組んでいる人もいたが、ほとんどは、「半日ぐらい行っただけ」とか「職場に募金箱を置いただけ」など、なんとも中途半端な印象だ。

余震が怖くて覚醒剤を使用?

 また東日本大震災を自分の犯行の「言い訳」にしてしまう悲しい男もいた。

 今年4月初旬、「まもなく首都圏を大余震が襲う」という噂を知人から耳にした男は不安になり、いざ余震が来たときにはいつでも避難できるよう、夜通し起きていたいと思った。そこで彼が眠気覚ましに選んだのが、覚醒剤の水溶液若干量を身体に注射する、というもの。

 おかげで眠気は襲ってこなかった。しかし、余震も襲ってこない。彼は深夜、歌舞伎町付近を徘徊しているうち、その様子を不審に思った警察官からの職務質問を受けるに至った。だが、覚醒剤使用の証拠となる尿の提出を拒み続けたため、警察は強制採尿という特殊な手続きに移ることにもなった。手足を押さえつけて抵抗を抑止し、尿道にカテーテルを繋ぎ、本人の意思に関係なく体内から尿を取り出す最終手段である。

 この男は、以前から事あるごとに覚醒剤で検挙されていたので「余震が怖くて使った」という弁解も、本当なのかどうかが疑われた。

「あなたが覚醒剤を使うときは、一回一回、何らかの特別な理由があるんですか」

 ベテラン判事からの素朴かつ的確なツッコミに、被告人は案の定、答えをノドに詰まらせていた。自分の意思が強いとか弱いなどは関係なく、使いたいから使ってしまうのが、こうした依存性違法薬物の恐ろしさなのである。

 福島第一原発の事故に付け込んだ犯罪も各地で起こっている。

 都内のある健康食品会社は、取り扱う商品のうち、最もヨウ素含有量が高いものを「放射能汚染を防ぐ究極のデトックス」だとアピールし、震災後、1ヵ月間で約400万円を売り上げた。

 だが、単なる飲食品を何らかの疾患の治療に効果があると謳うことは、薬事法で禁止されている。しかも、問題の健康食品に、内部被曝を防ぐほどの効果は期待できないとの鑑定結果も出た。

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