特別読み物 被災地で捕まった人たち 「震災後」裁判傍聴記

2011年11月24日(木) 週刊現代 

週刊現代 経済の死角

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 被告人が法廷へ入ってきた。グレーのポロシャツに薄青いケミカルウォッシュのジーンズという地味な服装。無職。その表情には覇気が感じられない。まるで約10年前の、司法浪人末期の自分の姿を見ているようで、傍聴席の私まで少し息苦しくなった。

 市内のスーパーやコンビニのレジ前に置かれた義援金箱を連続して、計約4万円以上を盗んだ男。裁判で起訴されているのは3件だったが、取り調べで10件近くの余罪を自供している。

 レジ店員に話しかけ、売り場にない商品をバックヤードから持ってこさせ、その隙に犯行に及ぶという手口。防犯のためにワイヤーで繋がれた義援金箱は、用意していたニッパーでワイヤーを切断して盗んだ。

 被告人は某国立大学を卒業してから、地元の信用金庫に勤めていたという。せっかく歩み始めた着実な人生を捨てて、2年ほどで辞め、それから職を転々とし、50代を迎えた現在は働かず、年老いた母親と2人暮らしをしている。「会社を3年で辞める若者」は、今に始まった話じゃない。

 普段は図書館で借りた本を書き写すなどの生活をしていたようだが、年金暮らしの母親は「本当は、自分ひとり食べるのが精一杯。ここで生まれ変わって頑張ってほしい」と、率直な気持ちを法廷でぶつけていた。

「おカネに困っていた」という点が、今回の被告人の犯行動機だが、義援金ばかりを盗んだことについては「義援金は、うわべだけで偽善っぽい、嘘っぽい感じがしていた」と説明。被災地へのボランティアにも「行こうと思っていた」そうだ。行ってないのかよ。

 義援金は嘘っぽい、などと偉そうに言うぐらいなら、少なくとも実際に現地へ行って、ガレキ撤去や炊き出しなどで汗を流してほしかった。自分の稼いだおカネを困っている人のために寄付するということは、それなりに身を削る行動なのである。

「義援金は、全国一丸となって被災者を助けようとする、数多くの人々の思いが詰まったおカネだ」と検事から説得された末、最後には「自分のやったことは非常に悪質だった」との反省の弁を述べた。

 震災前にアルバイト先の売上金(約350万円)を盗んでいながら、震災後はボランティア活動をしていたという窃盗犯の裁判を見届けるため、群馬の前橋地方裁判所へも向かった。このボランティアも「偽善」だったのだろうか。

 地元の公立大学を休学中だという21歳の女。経理責任者の隙を見て持ち出した350万円をすぐに預金し、東北地方から避難してきた被災者の身の回りの世話をするボランティアをしているうち、5月に窃盗の容疑者として捕まった。

 まったく手をつけずに口座に残っていた350万円について、取り調べでは最初「男の人からプレゼントされた」と説明し、罪を認めなかった被告人。地味な印象だけれど目鼻立ちが整っていて、姿勢もよく、しゃべりも明瞭なので、それなりに魅力的な感じも受ける。「男からのプレゼント」と言われれば、信じそうになった警官もいたかもしれない。だが、のちに「大学へ復学する資金がほしかった」と自供を始め、窃盗の動機を説明した。

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