特別読み物 被災地で捕まった人たち 「震災後」裁判傍聴記

2011年11月24日(木) 週刊現代 

週刊現代 経済の死角

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 このうち、一番の年長者である男が住んでいた実家も、3月11日、津波で全壊していた。それをきっかけに家族はバラバラになり、彼は一人暮らしを始めていた。

 検察官から「だったらあなたが一番、被害者の気持ちがわかるんじゃないですか。一番年上なんだから、窃盗を止められた立場でしょう」と責められた男は、「正直、被害者のことは考えられなかった。一人暮らしの部屋に液晶テレビがあればいいという気持ちがあった。申し訳ないと思う」と答えるだけだった。

 大震災を克服するため、被災者同士で助け合い、日本中、そして海外からも様々な支援が集まった。しかし、被災者が被災者を襲うような犯罪は、確かに起きていた。それが被災地の現実だ。

「信じられないほど巨大な自然災害に遭ったのに、略奪犯罪ひとつ起きていない」

「他人と協力し合いながら、柔軟に危機を乗り切ろうとする態度は素晴らしい」

 海外の各メディアは、日本人の震災対応を手放しに称え、惜しみない賛辞を送ってくれた。こうした指摘は大きく間違っているわけではないが、実は日本でも被災地を舞台にした犯罪は数多く起きていた。

 そうした被災者を食い物にする「陰湿な犯罪」の実態について、少しでも法廷で知るために、私は東北地方の裁判所へ足を運ぶことに決めた。仙台市だけでも、震災以降に9回訪れている。

「電線窃盗」に「義援金詐欺」

 今年7月中旬には、仙台地方裁判所である「電線窃盗団」の裁判を傍聴した。弁護人の背後に付いて、法廷の扉から姿を見せた2人の男は、ワイシャツにスラックスという、かしこまった服装。被告人席である長いすに座り、自らの裁判が始まるのを落ち着かない様子で待っている。

 しばらくして、別の入り口から看守に付き添われ、手錠をかけられ腰縄に繋がれて現れたイカツイ男。御年66歳とは思えぬ眼光の鋭さ。今回の「電線窃盗団」のリーダー格は、なぜかピンク色の可愛らしいミッキーマウスTシャツを身にまとい、傍聴席をわずかに睨み付けるように一瞥しながら、ゆったりした大股で、「子分」2人の横まで進み、腰かけた。

 宮城県石巻市の沿岸部で、大津波によって無残に押し倒された電柱から、送電線を山ほど切り取って、軽トラの荷台に積み込んだという窃盗事件。震災復興で金属材料の需要が全体的に増えると見込まれていて、銅も値上がりしている。盗んだ銅線を廃品回収業者へ転売して儲けるのが彼らの目的だった。

 犯行当時、彼らはジャージやレインコートなどを着ていた。いかにも被災地の清掃をしている震災ボランティアであるかのように装って、警察の目をごまかすためだった。

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