妻は時々、何気なく名言を口にする。
「メールとかツイッターができてから、中途半端な人間関係が増えたのよねえ」
身内、親友、友人、同僚、隣人、知人、知り合い、他人……。なるほど、インターネットがなかったころはもっと丁寧だった人との微妙な間合いが、がさつになった。
車の運転で人格が変わる(本性を現す?)人がいるように、ネットもあまり安易に発信できるせいか、妙になれなれしかったり、突然敵に変わったり、せわしない。
確かに、交信圏は、速くて、広い。でも、やりとりの中身は、短く、安手で、はかない。その二つの特徴を併せ持つ人の網目が今日、地球上をくまなく覆っている。
去年の今ごろ、カイロの広場にいた。独裁政権を倒した何十万もの人々を街頭に呼び出したのは、ネットの力だという。
歓喜の渦は感動的だったが、片っ端から話を聞くうちに困惑した。人々は軍政を楽観し、民主化や自由の中身を語れない。群衆の強大さと一人一人の無邪気さに落差がありすぎた。1年たってもエジプトは、革命の目標を探してさまよっている。
アラブに限らない。4年前の米大統領選を「ネット選挙」で制したオバマ氏は、今や「成果を出せない大統領」とけなされる始末。昨年秋、ネットを介して世界中に広がった「ウォール街を占拠せよ」運動は、街頭から先の道順を見つけられない。
ネットは「ノー」や「イエス」の単純な標語で、人々を一時の興奮に駆り立てても、一人一人が新しい居場所に落ち着ける、次の秩序は作れないのではないか。
決めつけは早すぎるが、いまだにネットのユートピアを妄信するのも鈍感すぎる。
さて、流行のフェイスブック。妻の感想は「自分が幸せな人だけがやるものね」。自己顕示メディアの正体か。
毎日新聞 2012年2月15日 0時07分
| 2月14日 | 「二重外交」のわけ=大治朋子 |
| 2月10日 | 権利とは何だろう=小松浩 |
| 2月9日 | 100年後の再挑戦=藤田悟 |
| ローザンヌの栄冠=落合博 | |
| 2月8日 | ああ昭和ライダー=滝野隆浩 |
| 2月7日 | がれきの中の宝=永山悦子 |
| 2月3日 | アメリカン・モデル=福本容子 |
| 2月2日 | 凡人閑居して=榊原雅晴 |
| 御用学者はいらない=布施広 | |
| 2月1日 | 政治が消えた世界で=伊藤智永 |
| 1月31日 | 琉球豚アグー=大治朋子 |
| 1月27日 | 君子の豹変=小松浩 |
| 1月26日 | ビルマとミャンマー=藤田悟 |
| 非日常から=落合博 | |
| 1月25日 | 粉になる=滝野隆浩 |
| 1月24日 | 笑顔のために=永山悦子 |
| 1月20日 | バラバラでいこう=福本容子 |
| 1月19日 | 神様のサイコロ遊び=榊原雅晴 |
| 軍鼓を鳴らすなかれ=布施広 | |
| 1月18日 | 民主主義を疑え=伊藤智永 |
| 1月17日 | 災害外交=大治朋子 |