気象・地震

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特集ワイド:富士山、東日本大震災と連動して噴火するか 山麓の研究者に聞く

富士山の山腹に残る宝永噴火の火口跡(中央)=本社ヘリから梅村直承撮影
富士山の山腹に残る宝永噴火の火口跡(中央)=本社ヘリから梅村直承撮影

 東日本大震災の後、大地震と連動した火山噴火が懸念されている。富士山周辺では、地震が続き、「幻の湖」が出現するなどの異常現象も。日本最大の活火山、富士山噴火の可能性はあるのか? 山麓(さんろく)に火山研究者たちを訪ねた。【浦松丈二】

 ◇今は平穏…防災・減災の手立てを

 ♪あたまを雲の上に出し、四方の山を見おろして

 山梨県富士河口湖町から有料道路、富士スバルラインを上っていくと、走行中のタイヤと道路の溝の摩擦で童謡「ふじの山」のメロディーが流れた。富士山研究の拠点の一つ、同県環境科学研究所はその先にある。

 「火山の噴火には何かしらリズムがあります。噴火の歴史を調べることで次の可能性が絞れてくる。ただし、富士山はこの300年間静かなので、歌の1番が終わって同じリズムの2番が始まるのか、それともリズムの違う別の歌になるのか、予想が難しい局面に入っています」

 同研究所が主催した一般市民向けのセミナーで産業技術総合研究所(茨城県つくば市)の高田亮主任研究員(火山学)が予想の難しさを音楽に例えた。富士山は1707年の宝永噴火以降、300年余り噴火しておらず、浅間山など活発に活動を続ける火山に比べて予想に役立つデータが少ないのだ。

 そこへ、昨年3月11日にマグニチュード(M)9の東日本大震災が、その4日後の同15日には富士山のほぼ直下でM6・4の地震が発生。今年に入ってからも1月28日にM5・4の地震が起き、にわかに不安が高まっている。

 高田さんは「富士山周辺では100~200年周期で大きな地震が起きています。でも富士山はこの周期では噴火をしていない。前回の宝永噴火は大地震の49日後でした。でも、その前の貞観噴火(864~866年)は、逆に大地震の5年前に起きている。富士山と地震のリズムは基本的には別々のものです」と話す。

 質疑応答になった。最前列に座っていた山梨県忍野村在住の男性が「先月の地震も下から突き上げられるような強い揺れだった。富士山は大丈夫か」と質問。高田さんは「あれは富士山直下の地震ではなく、周辺の断層が動いただけで大丈夫」と説明したが、地元住民の心配は根深い。

    ■

 富士河口湖町で40年近く民宿を営む渡辺達也さん(74)も「先月の地震はすごかった。昨年3月の震災以降、よくないニュースが続いているが、富士山は本当に大丈夫だろうか」と顔を曇らせる。富士山の山肌は例年になく積雪が少なく、火山活動の活発化が疑われている。また、昨年9月には富士五湖の一つ、精進湖の近くに幻の湖と呼ばれる「赤池」が7年ぶりに出現したほか、民家の庭から温泉がわき出たとの報告もある。

 しかし、同県環境科学研究所で地質を研究する内山高主任研究員(53)は「今年は寒いでしょう。富士山の山頂付近でも強い偏西風が吹く日が多く、雪が吹き飛ばされています。積雪が少ないのは強風のため」と謎解きをする。

 「幻の湖? ああ、赤池は精進湖と地下でつながっていて、昨年9月の台風による大雨で水がしみ出してできたものでしょう。各地で報告されている温泉出現やわき水も同じ理由でしょうね」と解説。どうやらいずれも噴火の前兆ではないらしい。思わず胸をなで下ろした。

 ところが内山さんは「世界的にはM9を超える大地震では数年以内に周辺火山が噴火したケースが多い」とも言う。詳しいメカニズムは解明されていない。「富士山は東日本大震災の震源地からは少し離れていますが、一般論としては警戒が必要でしょうね」と言うのだ。

 同研究所の入り口に設置されているモニター画面を操作し、富士山の地図を見せてくれた。「火山活動と密接な関わりのある低周波地震は赤い点、通常の地震は青い点です。震災後、赤い点は増えていないでしょう」と画面を指さす。

 地下のマグマはドロドロなので、動くと揺れがゆっくりと伝わる低周波地震が起きると考えられている。一方、プレートのひずみなどで岩盤が折れて発生するのは高周波地震。確かに画面を見ると、昨年3月以降、通常の地震は増加したが、低周波地震は1カ月10回前後で横ばいだ。

 「2000年から01年にかけて、富士山周辺で低周波地震が急増し、1カ月に100回以上にもなりました。その頃は研究所全体が張り詰めた雰囲気でした。当時に比べれば、現在の富士山は平穏です」と説明する。

    ■

 そもそも火山の噴火の前兆は、把握できるものなのか。

 富士山を含め世界各地の火山を50年以上研究してきた同研究所所長の荒牧重雄・東大名誉教授(81)は「最近20年間ぐらいに日本で起きた噴火を振り返ると、あいまいながらも予報できています。何か変だぞ、とつかめている」。

 荒牧さんの学生時代には「『予知に興味がある』と言ったら、教授から『まじめに勉強しろ』と言われたもの」だったという。現在では、地震計のほか、山の形の変化を示す傾斜計、全地球測位システム(GPS)のデータを集積し、噴火の前兆をある程度つかめるまでに研究が進んだ。「気象庁も3年前から火山予報を始めました。天気予報のような精度はなくても、自治体などの防災準備には役立ちます」と荒牧さん。09年2月の浅間山噴火では、噴火1日前に「警報」を出している。

 政府は00年から翌年にかけて富士山で低周波地震が急増したことを受け、荒牧名誉教授を委員長とする「富士山ハザードマップ検討委員会」を設置。04年に総額2・5兆円の被害想定と防災対策などをまとめている。

 8日現在、気象庁が出している富士山の噴火警戒レベルは5段階の最低であるレベル1(平常)。荒牧さんは富士山の現状について「何か変だな、というレベルではない」と明言する。

 その上で「数十万年という火山の平均的な寿命を踏まえれば、富士山は極めて若く、活動的な時期にある。一方、ハザードマップは富士山周辺をカバーする概要を示しただけであり、国の火山防災システム作り、市町村ごとの防災計画作りはまだまだこれからです」。

 ♪かみなりさまを下にきく~ ふじは日本一の山

 童謡にも歌われる富士山が静かな間こそ、火山防災・減災の手立てを考えておくべきだろう。

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 ◇1900年以降、M9以上を記録した世界の地震と周辺の火山噴火

(1)1952・11・4  カムチャツカ沖地震 M9.0 翌日にカムチャツカ半島で噴火

(2)1960・5・22  チリ地震      M9.5 2日後に200キロ以内で噴火

(3)1964・3・28  アラスカ地震    M9.2 5月にアラスカ半島で噴火

(4)2004・12・26 スマトラ沖地震   M9.1 3年以内にスマトラ島や周辺島で四つの火山が噴火

(5)2011・3・11  東日本大震災    M9.0 ?

 出典:米地質調査所(USGS)、米海洋大気局(NOAA)資料などから

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t.yukan@mainichi.co.jp

ファクス03・3212・0279

毎日新聞 2012年2月9日 東京夕刊

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