「傷つかない技術」を体験した授業
2012年02月14日 01:37am
シアトルからフェリーで対岸に渡った半島にあるNorthwest College of Art & Designに通っていた頃の20年以上も前の話。
最後の学年のアート&ビジネスというクラスでした。
3ヶ月くらいかけて完成させる課題で、◯△□の基本的なシェイプを使って最終的には何かプロダクトのモックアップを作るみたいな感じだったと思います。最初の週はブレスト、そして次の週はそこから出たアイデアをサムネイルスケッチ、そしてアイデア段階でみんなの前でプレゼン、などを経てこんなものを作ろうと決まったら、色んな道具や材料を駆使して作ってはブラッシュアップみたいな感じでした。クラスの他のみんなも提出の日に近づくにつれ自信満々でプレゼンの準備をしていました。
そして、締め切りの日の授業。みんなは自信作を早く見せてくてニコニコしてた中、先生は言いました。
「はい。みんな課題持って来ましたか?では、机の上に出して、紙の人はそのまま破り捨てなさい。立体物の人は壊してゴミ箱へ捨てなさい。」
生徒全員しばらく唖然とした状態で沈黙。その後、泣き出す人、すごい剣幕で怒り出す人、教室から出ていっちゃう人、多くの生徒はそのショックをそれぞれに表現していました。学校では学期が終わると、生徒がそれぞれの先生の評価を付けて提出するシステムだったので、「お前なんか次のクオーターもうこの学校に居られないように評価に書いてやるからな!」って怒りをぶつける生徒もいました。まぁ、数カ月かけて作ってきたプロジェクトを、担当の先生が見ることもなく、自分で破り捨てろって言うのですからその反応は無理もないよ。と感じながらも、ただ一人の外国人のわたしは、怒る気力も無く、まぁ仕方ないなぁって感じで破って丸めて静かにしてました。
そして、怒っている生徒に向けて先生はこう言いました。
「私はこの学校は非常勤で、別にちゃんとデザインと写真のビジネスで生計立ててるから次のクオーターここで教えることができなくなっても一向にかまわない。ただ、みんなプロのデザイナーとしてこの先の人生食っていこうと思っているなら、こんなことは日々起こること。これでショックを受けてやる気をなくしているなら、クリエイティブな職種に向かないから違う道に進んだほうがいい。クライアントの中にはアイデアや作品を見ることもなく破り捨てる人もいる。わたしもそんなこと毎日のように経験してるぞ。」
貴重な経験ができた授業でした。日本の美大的な所には行ったことがないので、そんな授業を日本でもあるのかどうかは知らないですが、あまりこういう話は聞いたことがないので多分ない気がします。
多くのまだ経験の浅いクリエイターの人は、作品や仕事にダメだしされてるのに、人格を否定されたような気分に陥って、自分を否定されたように思って、まだ人に認められるような作品を作る前に辞めてしまったり、上司やクライアントと喧嘩したり、病んでしまったりってあると思います。そういうことを考えると、学生時代にこの体験をしたことで、前職の制作会社に居た時も、フリーランスになってからも、数えきれないほどダメだしされても冷静に対応できたのかなぁって思います。
その先生の名前はDavid Johnson。わたしのデザインと写真の師匠のひとりです。今でもクリスマスカードが届きます。2004年に最後に行ったきり何年もシアトルには行ってませんが、行くたびに彼の家には土産を持って立ち寄ります。
人間そんなに強くないので、日々落ち込んだり、嫌なことに凹んだり、人間不信になったり、色々あると思いますが、そういうことを繰り返してどんどん強くなって、そして優しくなっていくんだと思います。Davidはまたこんなことも教えてくれました。
「凄く落ち込んだ時は公園に出かけて、その中でいちばん自分が好きな木を探すといい。木を見つけたらしばらくその木にHugするとだんだん気持ちが穏やかになって元気を取り戻せるよ。他人が見たら変人に思われるかもしれないけど気にするな。」
最近読んだ本、よくテレビ番組にも出演してはる精神科医の名越康文さんの「毎日トクしている人の秘密」にもいいことがいっぱい書いてありました。この本、ちちんぷいぷいに出演されている時に、「いま僕が持ってる全てを出しきって書きました。」と言われてた通り、日々襲いかかるさまざまな不安にどう対処するか。不安というのは本来実在する出来事ではないにもかかわらず、自分の脳内であたかも実在する未来の出来事のように思えてそれに怯えいい結果を生まない。不安と向き合い、それを消す技術的なことも書かれていて、ストレスマネージメントにいい勉強になった本でした。
hazakumiさんが書いたブログのエントリー「これからずっと残るものを教えます」の「傷つかない技術」を読んでそんな事を思い出しました。ちょっと凹んだ時も、「心はいつでもヘビーだけど顔では大丈夫、大丈夫」って軽くかわして笑って明るくすること。大切だと思います。
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このブログを書いている人
おかだよういち:
Designer + Photographer
兵庫県相生市在住。
1986〜1992年までシアトルに滞在。Northwest College of Artのビジュアルコミュニケーション科でアート・写真・デザインを学ぶ。その後東京のデジタルイメージ制作会社FOTONに入社。6年間の広告ビジュアル制作で修行し、現在は関西でWeb制作や撮影を中心にフリーランスで活動すること十数年。各地のセミナーイベントなどに頻繁に出没する。
おかだよういち:
Designer + Photographer
兵庫県相生市在住。 1986〜1992年までシアトルに滞在。Northwest College of Artのビジュアルコミュニケーション科でアート・写真・デザインを学ぶ。その後東京のデジタルイメージ制作会社FOTONに入社。6年間の広告ビジュアル制作で修行し、現在は関西でWeb制作や撮影を中心にフリーランスで活動すること十数年。各地のセミナーイベントなどに頻繁に出没する。