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2012年2月14日(火)付

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医療の値段―「最期は自宅」のために

私たちが受ける医療サービスは、国が一つひとつ、値段(診療報酬)を決めている。このうち1〜3割は患者が病院の窓口で払う。残りはみんなで負担する保険料から出す。[記事全文]

シリア危機―連携し、政権に圧力を

「アラブの春」が始まって1年。強権が倒れたチュニジアやエジプトで民主的な選挙で議会が発足した一方で、シリアでは政府軍や治安部隊による民衆への容赦ない弾圧が続く。国連の安[記事全文]

医療の値段―「最期は自宅」のために

 私たちが受ける医療サービスは、国が一つひとつ、値段(診療報酬)を決めている。

 このうち1〜3割は患者が病院の窓口で払う。残りはみんなで負担する保険料から出す。

 2年に一度の見直しで、4月からの新しい診療報酬が決まった。今回は3年に一度の介護報酬見直しと重なった。

 介護では、住みなれた地域や自宅で老後も暮らせるようにするため、24時間対応の新しい訪問サービスに月決めで報酬を払うようにした。

 医療も歩調をあわせる。

 24時間対応する在宅医療の報酬を、患者一人あたり月4万2千円から5万円に引き上げた。緊急往診の加算は1回6500円から8500円にした。

 自宅にいながら必要な医療が受けられれば、コストのかかる入院を減らせる。社会保障と税の一体改革が掲げる医療費抑制の有力な手段だ。

 日本は他の先進国に比べ、入院期間が長い。政府は負担削減のため、病院のベッド数を減らす方向だ。

 一方、団塊世代が高齢期に入り始めている。年間死亡者数は現在の約120万人から、20年後には160万人に達する。

 いまは8割の人が病院で亡くなっているが、今後はできるだけ自分の家で最期を迎えられるようにするのが、国が描く理想像だ。家族の負担は重いが、高齢者本人の希望でもあろう。

 しかし、簡単ではない。

 なにより、すぐれた在宅医が不足している。

 複数の病気を抱える高齢期の患者を、生活全体に目配りしながら適切に治療し、上手に苦痛をやわらげながら、やすらかな最期を迎えてもらう。

 訪問看護師、介護のケアマネジャー、薬剤師、行政など様々な人たちとの連携が必要だ。

 臓器別に専門家の育成を尊重する医学教育や医療界の意識を変えなければいけない。同時に私たちも、自らの地域で在宅医療を志す良医を大切に育てるような意識が必要ではないか。

 医師不足が深刻化した小児科では、兵庫県内の病院で親たちが安易な夜間・休日受診を控える運動をした結果、勤務状況が改善したことで医師が増えた例がある。

 在宅医療についても、患者側が医師や看護師側の事情を理解し、節度ある行動をとれば、医師の意欲も高まるだろう。

 老後の安心はお金を使うだけでは実現しない。「最期は自宅で迎える」ために、住民がどう参加できるのか、真剣に考えるときが来ている。

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シリア危機―連携し、政権に圧力を

 「アラブの春」が始まって1年。強権が倒れたチュニジアやエジプトで民主的な選挙で議会が発足した一方で、シリアでは政府軍や治安部隊による民衆への容赦ない弾圧が続く。

 国連の安全保障理事会で、シリア政府による暴力停止や政治の正常化を求める決議が提案されたが、ロシアと中国の拒否権によって否決された。

 昨春以来、市民の死者は5千人を超える。犠牲者がこれ以上増えるのを止めるために、国際社会が足並みをそろえ、暴力の停止と、正常化への対応を求めねばならない。安保理でロシアと中国が反対したのは全く遺憾である。

 潘基文(パン・ギムン)・国連事務総長が「国連と国際社会の役割を弱体化させる」と批判したのは当然だ。両国はシリア政府が自制するよう働きかける義務がある。

 そして、この問題での安保理の限界が見えたことで、国際社会はさらに知恵をしぼって、シリアに圧力をかける具体的な行動を探る必要がある。

 まず、市民への暴力を非難する明確なメッセージを送ることだ。アラブ諸国が考えている国連総会決議も一案だ。

 米国や湾岸アラブ諸国、欧州諸国は、駐シリア大使の召還を始めた。米国や欧州連合はこの国からの原油輸入禁止や、政府や企業の資産凍結の制裁を科している。今後、文化やスポーツ交流の停止も考えるべきだ。

 一方で、反体制派を非軍事で支援する国際的な枠組みなど、積極的に働きかけるべきだ。

 日本もシリア関連の資産凍結措置をとっている。今後も米欧やアラブ連盟と連携しつつ、厳しく対応してほしい。

 ただし、シリア問題では、現政権が倒れれば終わり、というような単純な解決策はない。このことを国際社会も、反体制派も肝に銘じておく必要がある。

 アサド現政権は、少数派のアラウィ派が同じく少数派のキリスト教徒などの協力を得て、多数派のスンニ派を抑えている。本格的な内戦になれば宗教や宗派が争い、万単位の死者、百万単位の難民さえ出かねない。

 軍から離反した反体制派の一部が武装抵抗を始めている。しかし、政権が武力行使を「治安維持」と正当化する口実に使われ、かえって市民の犠牲者を増やすことになりかねない。

 反体制派は、現在も主流である非暴力と不服従を粘り強く続けてほしい。国際社会と民主化勢力が連携を強めることで強権体制を孤立させ、封じ込めて、根本的な民主化を受け入れさせる道を探る必要がある。

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