国際競争力の熟成という観点からは、巨人化しつつあったアップルに対して競争を挑むドコモの積極性や、自ら研究開発を続けようという志の高さはおおいに評価したいところだ。規模と成長を期待できるのに、リスクを嫌って、海外市場に進出しなかった日本の家電メーカーなどと対照的な勇気のある戦略と断言してよいだろう。
しかし、問題もあった。
スマートフォン向けの携帯OSに関して、アップルのiOSに対抗できるものが、グーグルのアンドロイドぐらいしかなく、これがドコモにとって予想外の大きな負担になったのだ。
というのは、アンドロイドは「html5」という開発言語を用いるインターネットベースのOSで、グーグルは携帯電話メーカーや携帯電話会社がアンドロイドをある程度カスタマイズすることは認めているものの、グーグル自身がカスタマイズに協力することはまずないからだ。
しかも、ドコモが日本最強と言っても、中国やインドといった巨大な新興国市場の携帯電話会社と異なり、ガラパゴスと揶揄される小規模市場しか持たないドコモ向けのカスタマイズなど、グーグルにとって採算に乗らないことであり、無駄な手間にしか映らないという。
加えて、ドコモは、音声携帯電話時代に大成功を収めたビジネスモデルと決別する覚悟が十分ではなかった。アンドロイドとは互換性のないSPメール(スマホ版のiモード)、ワンセグテレビの視聴機能、おサイフケータイ機能などをスマホに移植することに固執してしまったのである。
同グループは、それらの移植に拘った理由を「以前から使っていた機能がなくなったと利用者に不満を持たれることは、絶対に避けたかった」と説明している。
それだけではないだろう。グーグルがアンドロイド端末の顧客管理をグーグルIDを軸にしたプラットホームで行っているのに対して、SPメールはドコモの顧客管理プラットホームの根幹をなすものだ。それゆえ、SPメールをなんとか搭載しておきたいという事情が存在したはずである。しかし、そのSPメールの管理機能をつかさどる部分の容量不足が、一連の通信障害の原因のひとつになったのは、皮肉としか言いようがない。
ましてや、ワンセグやおサイフケータイなどの機能まで移植する必要が本当にあったかどうか、その点には疑問が残る。
ドコモ・ファミリーの各社からは、「採算が合わず世界市場に投入できないカスタマイズに追われた」との悲鳴も聞こえてくる。ドコモも、ドコモ・ファミリーも、乏しい技術者を、益の少ないカスタマイズに割かされた感は否めない。公にはしたがらないが、メーカー各社は、経営の弱体化に拍車がかかる問題に直面していたのだ。
結果として、ドコモのスマホは、ファミリー企業のものではなく、カスタマイズに熱心でない韓国のサムソン製や、欧州メーカーとソニーの合弁だったソニーエリクソン製が主力商品になるという皮肉な現象も生じた。
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