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きょうの社説 2012年2月12日
◎伝統工芸の発信 新たな「用の美」探り続けて
東京で毎年開催されている「いしかわ伝統工芸フェア」は、工芸王国石川の存在感を示
す格好の機会といえる。伝統工芸は石川の主要な地場産業であり、誘客につながる地域資源である。北陸新幹線金沢開業に向けて、その魅力をより効果的に発信することが求められている。石川の伝統工芸の多くは生活様式の変化などで厳しい環境が続いており、現代の生活に マッチした工芸品づくりが大きな課題となっている。折しも、日本政府が取り組む「クール・ジャパン」の一環としてニューヨークで開かれたイベントで、輪島塗とルイ・ヴィトンの共同制作の作品が展示され、あらためて石川の技と美が最先端の感性にマッチすることが示された。 首都圏をはじめとする伝統工芸の発信の場は、新たな「用の美」を探るいい機会になる だろう。可能性を追求して、石川のブランド力を高めてもらいたい。 今秋には経済産業省などが主催する「伝統的工芸品月間国民会議全国大会」が石川県で 開催され、全国の伝統工芸士らが集うことになっている。石川の伝統の技とともに、県内各産地の新たな取り組みを全国にアピールする好機でもある。個性とセンスが光る出展を期待したい。 ことしの東京での伝統工芸フェアは、九谷焼や加賀友禅、輪島塗など県内36業種の伝 統的工芸品約3万点が展示、販売された。例年5万人を超す入場者を数えており、一般の来場者や業者らの意見、要望を今後の工芸品づくりに生かしていく必要がある。職人の指導による体験コーナーでのやりとりも、工房などを巡る「クラフト・ツーリズム」の参考になったのではなかろうか。 経産省は、日本文化を海外に広げる「クール・ジャパン戦略」の中で、地方の文化産業 振興による地域活性化を進めており、伝統工芸は日本発の「クール(かっこいい)」な文化を生み出す産業に位置づけられている。輪島塗とルイ・ヴィトンをはじめ、加賀象嵌(ぞうがん)とフェンディなど、世界の高級ブランドとのコラボレーション商品が登場している。伝統を守りながら新たなものを取り入れてきた工芸の底力を見せてほしい。
◎建設業の農業参入 挑戦を奥能登の活力に
奥能登で農業を始める建設業者が増えてきた。その背景には、公共事業が減る中で、会
社と雇用を維持していくために、背に腹は代えられないという事情がうかがえる。法改正によって企業の農業経営が認められてから、石川県内では21の建設業者が参入 し、そのうち12社が奥能登2市2町にある。今後、奥能登の建設業者には談合の違約金納付という重荷が加わり、農業参入を探る動きが続くであろう。新たな農業の担い手が増えれば、人の営みを通してバランスを保ってきた里山の保全、耕作放棄地の再生につながる。困難を覚悟して生き残りを探る建設業者の挑戦を奥能登の活力につなげたい。 農業は時間と手間がかかる割には、作物の単価が高くない。新規に参入しても、土木工 事と同じような算段で収益を上げるわけにはいかず、採算がとれるまで時間がかかることが予想される。 県は建設業者の新分野進出を後押しするために、初期投資などに最大500万円を助成 するほか、制度融資の利率引き下げや県の入札参加資格の優遇、新規雇用者の人件費助成などの策を用意してきた。それでも農業参入には、販路の開拓、価格や天候の変動といった不安要素が尽きず、支援の充実が求められている。世界農業遺産に認定された能登の里山を守り、活用する観点からも、県や市町は建設業者の農業参入を支えていいのでないか。 行政の支援は当然、建設業者の自助努力が大前提である。奥能登の建設業者には兼業農 家の従業員が所属していることが多く、その経験を生かすことができる。珠洲や輪島では、ソバの栽培だけでなく、販売やそば打ちの体験ができる工房を設けたり、食品会社などと連携して商品開発を行う意欲的な業者も出ている。こうした事例が積み重なっていけば、本業が厳しい建設業者の複業化、事業転換の後押しになるであろう。 石川県には林業や漁業という地場産業もある。里山里海の保全のために、建設業者が林 業や漁業に参入する際の支援態勢を拡充するという手もある。
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