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 民主党政権の迷走がますます深刻になっている。

 政府・民主党は1月29日、首相公邸で三役会議を行い、新たな年金制度に必要となる財源の試算を公表しない方針を決めた。新制度への完全移行が60年以上先の'75年であること、追加増税ばかりに焦点が当たり冷静な議論ができないこと、などが理由だという。

 だが、岡田克也副総理らは、いったん試算の公表に前向きな姿勢を示していたし、「最大で7・1%の追加増税が必要になる」「受け取れる年金が現行制度より減るケースがある」などの試算結果はすでにメディアでさんざん報じられている。当然ながら野党からは「隠蔽だ」との批判も高まった。なぜ、こんなみっともないことをするのか。

 ズバリ言えば、これは内閣改造の目玉だった岡田副総理の大チョンボだ。「(年金制度抜本改革のために)必要な財源は今回の10%(への増税)には入っていない。さらなる増税は当然必要」と言わずもがなの発言をしたことで、世間に大幅増税への警戒感を植え付けた。それが、試算公表をめぐる迷走につながった。

 これで岡田副総理は財務省の信頼を失ったに違いない。財務省はここに至るまで手練手管を駆使し、消費税増税法案を提出できそうなところまでこぎ着けた。

 まず、政権交代時に「消費税増税はしない」と言いきった鳩山由紀夫総理を贈与税問題で窮地に陥れ、退陣への流れを作った。次の菅直人総理には消費税増税の必要性を洗脳し、財務省戦略の忠実な実行者である与謝野馨氏を経済財政担当相として政権に送り込んで「社会保障と税の一体改革」の閣議報告を実現させた。

 この「一体改革」は、実は名ばかりで社会保障の内容はなく、増税オンリーだ。なぜなら、民主党が導入を目指す「7万円の最低保障年金」は働かない人にも支給されるので、自民党が反対している。そこで与謝野氏は、消費税率10%では合意できる自民党にも受け入れられるように、最低保障年金の議論を封印した。

 その上で登場したのが、財務省の全面バックアップで代表選に勝利した野田佳彦総理である。そして、野田総理によって副総理に起用されたのが、「原理主義増税論者」の岡田氏だ。これで増税路線は盤石かと思われた。

 ところが、その岡田副総理が大失策を犯した。「年金制度の全体像を示せ」という公明党のクセ球に引っかかって最低保障年金の封印を解き、さらなる消費税増税にまで言及してしまったのである。

 原理原則論者として知られる岡田氏にしてみれば、新年金制度導入に伴い追加増税が必要になるのは、自明の理だ。副総理として官邸5階の執務室に陣取り、「総理に上げる報告は、すべて事前に俺を通せ」と命じるほど意気込んでいただけに、政権の仕切り役として過信もあったのだろう。

 だが、一度解いてしまった封印は、元には戻せない。野田総理は結局、新年金制度の財源を再計算した上で公表する姿勢に転じざるを得なくなった。またまた迷走である。

 新聞を注意深く読むと、試算公表から非公表に方針転換した29日の政府・民主党三役会議の記事では、岡田副総理の影が薄い。おそらく、出席者から相当激しく糾弾されたのだろう。こうした政治的動向に政治家たちは敏感だ。今後、国会での岡田副総理への質問は厳しさを増していくに違いない。他人のチョンボに寛容な政治家などいないのだ。かくして政権中枢がボロボロになっていく。

「週刊現代」2012年2月18日号より



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