2011年12月14日 15時0分
【ジュネーブ伊藤智永】世界貿易機関(WTO)は15日から3日間、ジュネーブで最高意思決定機関の定例閣僚会議を開き、貿易自由化の国際ルール作りを目指し10年間続けてきた多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)について「近い将来の包括合意はできない」という異例の議長総括を採択する。打開への手詰まりを認める事実上の交渉「休止」宣言で、世界貿易は第二次大戦後続いてきた多国間交渉機能を当分失い、自由貿易協定(FTA)や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などの2国間・複数国で協定を結ぶ流れが一層加速する。WTOは加盟国間の紛争処理機関に重心を移していく。
ドーハ・ラウンドの行き詰まりは11月、仏カンヌの主要20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)宣言が「これまでのやり方で妥結できないのは明白」と明言。米・ホノルルのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でも追認され、WTOが全加盟国による一般理事会で議長総括案をまとめた。
今年夏前には、交渉を進めやすい分野の部分合意を模索したが、失敗。他に策はなく、今回の会議ではもはや交渉も行われない。
主要国の米国、フランス、韓国の大統領選があり、中国の最高指導者が事実上交代する12年は実質的な交渉が成り立たず、13年以降は新政権の政策も不透明なことから、政治的にも交渉「棚上げ」は避けられない。米国など先進国と、中国、インドなど新興国の対立も残る。
世界的な保護主義の台頭を抑えるため、多角的貿易体制の意義を強調し、合意を目指す目標は残すが、再び交渉を本格化するきっかけをつかめるか見通しは立たない状態だ。16日には、WTO未加盟の「最後の大国」ロシアの加盟が承認され、プーチン首相が署名式に出席する予定。正式加盟は、ロシア国会の批准後で、来年夏ごろになりそうだ。
【ことば】ドーハ・ラウンド
WTOに加盟する153カ国・地域がモノやサービスの貿易自由化を進めるためのルールづくりを目指す多国間交渉。各国の関税率削減などを通じて貿易を活発化させ、世界経済の発展につなげる狙い。WTOの前身である関税貿易一般協定(GATT)時のケネディ・ラウンド(64~67年)、東京ラウンド(73~79年)、ウルグアイ・ラウンド(86~94年)に次ぐものだが、01年の交渉開始後、先進国と新興国の対立が続いている。