2012-01-23
【鉄路に夢のせ】(05) 歩いて沿線好きになる
「行ってらっしゃい」。昨年11月下旬の土曜日朝、名古屋鉄道の各務原市役所前駅(岐阜県各務原市)。同社主催の沿線ハイキングに参加する中高年の夫婦や女性のグループが駅前に集まった。スタッフからウオーキングマップを受け取ると、競うようにしてゴールに向けて出発。父母や祖父母に連れられた小さな子供の姿も目立つ。
この日のコースは同駅から羽島用水緑道、河川環境楽園などを通り、138タワーパーク(愛知県一宮市)に至る約9キロ。ファミリー向けに設定されたコースのため距離はやや短く平たん。そのうえ「子供も参加しやすいように開催中の『各務原キムチまつり』の会場や岐阜県世界淡水魚園水族館を通るコースにした」と担当の営業部の河尻道さん(35)は説明する。
「沿線の魅力を知ってもらいたい」として1972年に始めたハイキング。2003年からは途中に動物園や水族館、公園などを配したファミリー向けも設けた。現在は月5、6回開催するうち2回程度はファミリーも参加できるコースだ。ハイキングには平均3千人程度、多いときには約5千人が参加。中高年が多いが、ファミリー向けのコースでは数十人から200人くらいの子供が参加する。
「沿線の鉄道を使い、無料で予約なしに参加できる気軽さ、手軽さが受けているようだ。ファミリー向けの場合、子供の参加者に文具やお菓子などのプレゼントを用意していることも喜ばれている」と河尻さん。愛知県清須市から参加した無職の男性(68)は8歳の孫娘と一緒に参加。「誘ったら『行きたい』というので連れてきた。最後は疲れてしまったが、けっこう楽しそうに歩いていた。また一緒に来たい」と話す。
このような沿線住民を対象としたハイキングはほかの鉄道各社も力を入れている。西武鉄道が始めたのは92年。98年ごろから年50〜60回開催して中高年を中心に毎年約10万人を集める。3年前からは昨年10月実施した「親子ハイクとサツマイモ掘り体験」のような、子供の参加を強く意識したイベントも。「ファミリー向けの回数はまだ多くないが、人気は高い。例えば昨年10月の『トトロの森と狭山湖周辺を歩こう』には平日にもかかわらず約1300人の参加があった」と管理部の担当者。「今後はコースの沿線に係員を多く配置するなど子供の安全対策に一層力を入れ、子供の参加を増やしていきたい」と話す。
≡日本経済新聞 2012年1月23日付夕刊掲載≡