恐ろしいウイルスが研究所から漏れて世界中に。あるいはテロリストが科学者に殺人ウイルスを作らせる…。映画や小説の中だけの話と思っていたが、楽観できない現実を知らされた
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鳥インフルエンザの論文がテロに悪用されるかもしれない。そんな趣旨の記事である。昨年12月22日付本紙に載った。米政府の科学諮問委員会が一部を削除して掲載するよう求めたという。のっぴきならない事情があってのことか
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問題とされた論文は2本。東大医科学研究所の河岡義裕教授も執筆している。鳥インフルエンザウイルスに、どのような変異が起きれば感染しやすくなるかを扱ったものである。論文が公表されると感染力の強いウイルスの作り方が知れ渡ってしまう―。米諮問委は、これを恐れた
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河岡さんらの研究グループは1990年代に、インフルエンザウイルスの人工合成に成功している。論文が出たとたん、CIAの女性エージェントが接触してきた、と著書にある。口止めをして去ったというから、映画さながらだ
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今年になって、河岡さんら39人の科学者が自主的にウイルス研究を60日間停止するとの声明を出した。安全性をアピールするとともに、国際社会に課題を投げかけた格好だ。原発事故で先端科学の光と影を目の当たりにした。映画の世界と思っていると、しっぺ返しを食らう。専門家とともに考える時代である。