平成23年県産ソバの販売が苦戦している。戸別所得補償制度で交付金の対象となったため作付面積が拡大し産地間競争が激しくなる中、東京電力福島第一原発事故の風評被害が追い打ちをかけ、注文が激減している。農家からソバを集荷しているJAなどは大量の在庫を抱える。販売価格の低迷も深刻で、例年の7割~7割5分安に落ち込むJAも出ている。
■在庫の山
JA会津みどり(本店・会津坂下町)の武藤正典米穀課長は、倉庫に山積みになったソバの袋を前に、ため息をついた。平成23年産のソバは管内の農家約200戸から135トンが出荷された。例年であれば12月中に完売しているが、今シーズンは原発事故の風評被害で取引が減っている。
前年度に1袋(22.5キロ)当たり8000~8500円程度だった販売価格を、7割安の2000~3000円程度まで下げ、販売先を探した。何とか108トン分は販売のめどが立ったが、27トンは買い手が見つからない。武藤課長は「福島県産というだけで買い手に敬遠される」と嘆く。
JA会津いいで(本店・喜多方市)は農家からの出荷量が157.5トンで、前年の3.5倍に増えた。1袋当たり販売価格は前年度の6500円から1600円に下がった。今も6割に当たる約105トンが出荷先が決まらないまま倉庫に眠る。担当者は「外部機関に依頼した放射性物質検査の結果は全て未検出なのに...」とやりきれぬ思いを口にした。
JAあいづ(本店・会津若松市)は約400トンの出荷量のうち、半分の約200トンの販売先が確保できない。販売価格も例年の7割安に落ち込んだ。農家から買い取る際の価格も1キロ200円から140円(仮払金)に引き下げざるを得なかった。
JAは価格下落や売れ残りにより大きな損失が出る。関係者の1人は「東電は損害賠償すべきだ」と訴えた。
■収入減少
喜多方市山都町のソバ農家安部久光さん(66)は「交付金をもらっても、価格がこんなに下落してはどうしようもない」と憤った。
安部さんは12年ほど前からソバ栽培を始め、約210ヘクタールの畑で毎年約1トンを収穫してきた。出荷価格は例年の半額の1袋3000円程度だ。戸別所得補償制度で約40万円が交付されたが、ソバ販売の収入は20万円減り、交付金の"うま味"は半減した。
会津坂下町でソバ畑約20ヘクタールを耕作している農業生産組織「若宮ばくさく」の高波和広社長(60)は「会津産のソバは県内外で高い評価を受けてきたのに残念だ」と厳しい表情を浮かべる。畑を荒らさないために、24年度も耕作面積は減らせないという。
■新基準に不安
県は県内産ソバの放射性セシウムのモニタリング調査を昨年、夏と秋の収穫時期に合わせて県内各地の175カ所で実施した。現行の基準値の1キロ当たり500ベクレルを超えた箇所はなく、9割近い152カ所で検出下限値未満だった。ただ、4月からの新基準値の100ベクレルを超えた箇所が3カ所あった。
「基準値を超えてしまうかもしれない」。100ベクレルを超えた箇所があった県南地方に住むソバ農家の男性(57)は今年の作付けにも不安を抱えている。
【背景】
平成23年産ソバの全国の作付面積は5万6400ヘクタールで、前年産に比べ8700ヘクタール増えた。県内の作付面積は3750ヘクタールで、前年産比300ヘクタール増えた。収穫量は2630トンで、同770トン増。作付面積は全国4位、収穫量は全国2位。政府が23年度に本格実施した戸別所得補償制度では、ソバや麦など畑作6品目を作っても一定の交付金が受けられるようになった。
地域おこしに痛手 「会津のかおり」影響 行政の対策急務
■波及効果
地元産のそば粉を使ったそばを売り物にした地域振興策を進める自治体は多い。新そばの季節には、県内各地で「新そばまつり」が開かれている。
県担当者は「そば店や観光施設など、ソバ栽培が地元経済に与える波及効果は大きい」と指摘する。それだけに、ソバの売れ行き不振がこのまま続けば、地域おこしの活動が揺らいでしまうとの懸念も広がる。
県は平成21年3月、ソバのオリジナル品種「会津のかおり」を登録し、県産ソバのブランド化の柱として栽培面積の拡大に努めてきたが、他の品種と同様に売れ行きが落ち込んでいる。
「会津のかおり」の普及にも力を注いでいる会津そばトピア会議の長谷川徹会長(65)は「せっかく一歩一歩進めてきたのに...」と悔しがる。全国各地を回り本県産ソバの安全性をPRする日々だが、時折不安がよぎる。「ソバ栽培をやめてしまう農家が出ないのか」
■販売の実態調査
県内産ソバの流通が滞っていることを受け、県は1月中旬から、JAなど県内のソバ集荷業者らを対象にソバの販売状況の実態調査に入った。今月中旬までには調査結果をまとめ、早急に対策を講じる考えだ。
ただ、現段階でソバに特化した風評被害対策は取られていない。主食のコメに関しては農家約2万3000戸を対象に放射性物質の緊急調査を実施し、安全性をアピールする全国キャンペーンに入るなど、手厚い対応が取られているのと比べ、なかなか手が回らないのが実情だ。
県内でソバを扱っている民間業者の1人は「ソバに関しても、詳細な放射性物質の調査をするなど、風評被害対策をもっと取ってほしい」と求めた。