戦後まもなく、国際社会は協力して、平和利用のための原子力技術の恩恵を世界に拡大させ、恩恵を受ける国は、平和利用に限って、核物質を利用できるようにするために、これを実行する機構とルールを作りました。それが、1957年に設立された国際原子力機関であり、国際的な保障措置制度です。
全世界を巻き込んだ第二次世界大戦は、1945年夏に終戦を迎えたが、この大戦の終盤で原子爆弾が使われた。原子核が放出するエネルギーは、人類がかつて経験したことがないほど巨大なもので、以後の人類社会、国際政治の行方を根本的に変える力を暗示するものであった。
戦後、国際社会に新しい波が起こった。自由主義国と共産主義国という大義をかかげた二極化の波である。原子力の技術は、当初はアメリカ独占の技術であったが、戦勝国はほどなくこの技術開発に着手して、それぞれの陣営で原子力の技術を保有する事態が発生した。アメリカ、ソ連の2大国を頂点とした冷戦構造が進み、それぞれの陣営は、核兵器開発に邁進する気配が濃厚であった。
原子力は、別の面の力も発揮する。それが放出する膨大なエネルギーを平和利用に使えば、発電に役立つ。また放射線の物質を透過する性質を利用すれば、さまざまな産業に応用ができる。それが平和利用されれば人類の未来に大きな可能性を秘めた分野となるので、原子力は、使い方により善と悪の"両刃の剣"となる。
このことから、原子力を国際的規模で管理下に置くことは、世界の関心事であった。
戦後まもなく、国際社会は協力して、平和利用のための原子力技術の恩恵を世界に拡大させ、恩恵を受ける国は平和利用に限って核物質を利用できるようにするため、これを実行する機構とルールをつくった。それが、1957年に設立された国際原子力機関(IAEA:International Atomic Energy Agency)であり、国際的な保障措置(核査察)制度である。
1968年7月に成立した「核不拡散条約」(NPT:Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)とともに、この核査察制度、核物質の輸出規制システム、非核兵器地帯条約、さらには国際テロ対策としての核物質防護システムなどが組み合わさって、核兵器保有国の増加が抑制されてきたと言える。
ここでは、それらの生い立ちから核不拡散条約の内容、核査察の実際、核兵器所有を考えているいくつかの国を含めた世界の現状などを考える。