もはや手に負えないドラ息子。「勘当」することはできるか
プレジデント 2月12日(日)10時30分配信
家から叩き出して、二度と敷居をまたがせなければいいという考えは短絡的だ。たしかに親子でも、訴訟を起こして部屋の明け渡しを請求することはできる。また勝手に自宅を荒らされたら、不法侵入で刑事告訴も可能だ。ただ、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養する義務がある(民法第877条)。親子間も扶養義務があるため、何らかの事情で働けない子供を家から追い出したら、息子側から扶養の申し立てをされる恐れもある。
鍵になるのは手切れ金だ。じつは扶養義務といっても、成人の前と後では義務の程度が異なる。未成熟子(未成年の子)に対する扶養義務は、親と同等の生活をさせる「生活保持義務」。一方、成人した後は、親がゆとりのある場合に最低限の生活をサポートする「生活扶助義務」。家から追い出しても、家を借りたり当面の生活に困らないだけのお金を渡しておけば、生活扶助義務を果たしたと主張しやすい。
■現代では「勘当」制度はない
ただ、家から追い出しても、親子関係が法的に断ち切れるわけではない。戦前までは勘当制度があったが、いまは養子縁組の場合を除き、親子関係そのものを解消する仕組みはない。親子関係があれば、ドラ息子といえども相続権を持つ。もし遺産を1円も渡したくないなら、ほかの対策が必要だ。
まずは、ドラ息子には1円も渡さないという遺言書を作成してから、遺留分放棄の許可申請をする。遺留分とは、法定相続人が最低限取得できる相続財産の割合のことで、たとえば配偶者と子供2人が相続人の場合、法定相続分4分の1の半分、つまり8分の1が遺留分となる。残念ながら、遺言でも子供から遺留分を相続する権利を奪うことはできない。ただし、本人の意思で遺留分放棄を申し出るなら話は別だ。もちろんドラ息子自ら遺留分放棄を申し出ることは考えにくい。実務的には、一部を生前贈与することを条件に、家庭裁判所に遺留分放棄許可の申請をさせることになるだろう。申請するのはドラ息子側だが、手切れ金だけもらって手続きしないケースもあるので、印鑑証明つきの委任状と交換で手切れ金を渡すといい。
ドラ息子が聞く耳を持たないなら、家庭裁判所に推定相続人廃除の申し立てをしてもいい。相続人廃除とは、相続人が被相続人に対して虐待や侮辱を行ったり、相続人に著しい非行があったとき、遺留分を含む相続権を相続人から剥奪することをいう。
ただ、相続人廃除の要件は厳しい。たとえば侮辱といっても、売り言葉に買い言葉で罵ったという程度ではダメ。廃除が認められるのは、通常の親子ゲンカの域を超えたときにかぎられる。
非行はどうか。単なる浪費では、著しい非行とまでは言えない。廃除が認められるのは、「親の財産を勝手に処分して売り払った」「親を勝手に保証人にして借金をつくり、債権者から訴訟を起こされた」といった悪質なケースだ。また、殺人や覚せい剤などの重大犯罪を犯した場合も著しい非行に該当する。明確な基準はないが、懲役数年以上の実刑判決を受けたケースなら、廃除事由に当たると考えてもらっていい。
相続人廃除にも弱点はある。ドラ息子に子供(被相続人から見て孫)がいる場合、剥奪された相続権が孫に移る「代襲相続」になるのだ。何も手を打たずにいると、ドラ息子が孫に渡った遺産を好き勝手に使ってしまう。これを防ぐには、財産管理権の喪失や親権喪失の申し立てをして、ドラ息子の親としての権利に制限をかけるしかない。相続人廃除と親権喪失は、合わせ技で一本と考えてほしい。
ドラ息子対策として法律で手当てできるのは、ここまでだ。かつてゲーテは、「子供をダメにするのは簡単だ。子供の欲しがるものすべてを与えればいい」と言った。法的手段に頼らなくてもいいように、教育の段階からケアをしておきたいところだ。
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弁護士
千賀修一
1943年、愛知県生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。早稲田大学大学院修士課程修了。虎ノ門法律経済事務所所長。東京家庭裁判所調停委員、東京弁護士会家族法部会委員、日弁連常務理事などを歴任。
村上 敬=構成
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最終更新:2月12日(日)10時30分
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