野田佳彦首相が、久しぶりに政治主導を国民の前で実践した。
内閣府が3月の自殺対策強化月間のキャッチフレーズに決めた「あなたもGKB47宣言!」。6日の参院予算委員会で撤回を求めた民主党の松浦大悟参院議員に対し、首相は「率直に言って違和感を感じた」と同調。撤回に道筋をつけたのだ。
GKBは自殺予防の門番を意味する「ゲートキーパー・ベーシック」の頭文字で、47は全国の都道府県数。だが、大半の人々が連想するのは人気アイドルグループだろう。内閣府の自殺対策推進会議でも異論が出されたが、「若者の関心を集めたい」「決まったこと」と押し切られた。
松浦氏はこの会議を傍聴していた。地元の秋田県は10万人当たりの自殺者数が47都道府県で最悪。「私が国会議員になった理由の一つ」と語るほど自殺問題に造詣が深い松浦氏は、この問題を予算委で質問しようと決断した。
担当の岡田克也副総理は「すでに動き出している」と最初は冷淡だったが、野田首相は「過ちを改めるにははばかることなかれと思う。どういう形で対応できるか研究したい」と引き取った。岡田副総理も翌日の記者会見で撤回を表明。「まさに君子豹変(ひょうへん)。関係者は大変喜んでいる」と、松浦氏も歓迎する。
もう一つは、日本チェーンストア協会・清水信次会長との5日夜の会談だ。
86年の衆参同日選で自民党を大勝に導いた中曽根康弘首相は、大型間接税である売上税の導入を目指したが、その時に反対運動の先頭に立ったのが清水会長だ。昨年暮れには、大手スーパーやデパート、食品メーカーなどで結成された国民生活産業・消費者団体連合会(生団連)の会長に就任。最近は「増税の前にやるべきことがある」と訴えている。
消費税率引き上げに政治生命をかける野田首相にとって、清水会長との会談は「鬼門」のはず。にもかかわらず応諾したのか。同席した藤井裕久党税調会長は「『一内閣一仕事』の難題に取り組む覚悟がよく見えた」と語る。さらなる君子豹変を求めたい。(専門編集委員、66歳)
毎日新聞 2012年2月11日 東京朝刊
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