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【消えた偉人・物語】神武天皇 古代史学の進展で実在確かに
戦後の古代史学界では古事記・日本書紀の伝承が疑われ、その中で「消された」人物の一人として神武天皇がいらっしゃる。「神武天皇は実在しない」「記紀による創作」とする歴史学者の学説がはやったからである。
しかし、それに対して厳密な史料批判に基づいた実証史学の碩学(せきがく)・坂本太郎博士は「神武天皇以後九代の天皇は実在の人ではないという説は、かなり多くの学者によって説かれるが、それは一つの臆説にすぎず、なんら実証されたものではない」(『坂本太郎著作集』第1巻)としていたし、日本法制史の大家・瀧川政次郎博士も「神武天皇紀の大筋の事実は、終(つい)にこれを否定することができない」(『神武天皇紀の信憑(しんぴょう)性について』)と神武天皇架空説を批判していた。
そして、近年の古代史学界の流れも記紀の記述を裏付ける考古学的発見によって変化してきており、記紀の記載を検証した角林文雄氏は「日本資料は不思議なほど中国資料とうまく合ってくる」とし、さらに次のように述べている。「記紀は神武天皇を東南アジアに出自をもつ熊襲族の人として描いた。そんなことは後の皇室・貴族にとってなにか素晴らしいこと、誇るべきこととはとうてい考えられない。しかるにそのことを明確に、紛れもなく記述しているのだからそれが真実と考えるのが常識ではなかろうか」(『日本国誕生の風景』)
このように考古学や古代史学の進展によって、記紀の記述の信憑性は高まり神武天皇のご存在も確かなものになってきている。神武天皇を「初代」の天皇として記す中学歴史教科書が登場してきたこともそれをよく証しているといえよう。「とほつおやの すめらの神が 御位に つかす日かしこみ 梅いけにけり」
正岡子規は神武天皇に思いを馳(は)せこのように詠(うた)ったが、私たちも11日の建国記念の日には建国の理想というものを改めて思い起こし、神武天皇のご苦労・ご尽力をお偲(しの)びしたいものである。(皇學館大学准教授 渡邊毅)
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