エンチャンテッド・アイランド


物語の考案ならびに台本:ジェレミー・サムス
(ウィリアム・シェイクスピア作『テンペスト』と『真夏の夜の夢』に着想。)
音楽:ゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデル、アントニオ・ヴィヴァルディ、ジャン・フィリップ・ラモー、アンドレ・カンプラ、ジャン=マリー・ルクレア
初演:2011年12月31日、ニューヨーク、メトロポリタンオペラ

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プロスペロー:失脚したミラノ大公
ミランダ:プロスペローの娘
シコラクス:島の主だった魔法使い
キャリバン:シコラクスの息子
アリエル:妖精
ファーディナンド:ナポリ王子
ハーミアとライサンダー:新婚カップルその1
ヘレナとディミートリアス:新婚カップルその2
ネプチューン:海神

第一幕
追放されたミラノ大公プロスペローは、本や薬、魔術の道具に囲まれて、娘ミランダと共に離れ小島で暮らしている。初めはこの島の主だった魔女のシコラクスと親密になったが、愛し合ったあと、彼女を捨てて島の暗い一角に追いやってしまう。その上、彼女の召使いだった妖精のアリエルを取り上げ、息子のキャリバンを奴隷として自分に仕えさせている。

この話はそれから約16年後、老いたプロスペローが娘ミランダの幸福な将来を確かなものとし、自らの流刑生活にも終止符を打つべく、最後の策を練るところから始まる。プロスペローは、ナポリ王と王子のファーディナンドを乗せた船が近くを通ることを予知する。王子に娘を嫁がせようと考えたプロスペローは、アリエルを呼び、魔法を使って嵐を起こし、王家の船をこの島に座礁させるよう命じ、引き換えに自由を与えることを約束する。

この会話を盗み聞いたキャリバンは、シコラクスに知らせに走る。プロスペローの衰えを察知したシコラクスは、プロスペローの小部屋からドラゴンの血が入った薬瓶を盗み出して来るよう息子に命じる。その薬で弱った体力を回復し、この島を再び自分たち親子の手に取り戻そうという算段だ。

プロスペローは、娘のミランダが最近ふしぎな夢を見て不可解な感情に悩まされていることに気づく。一方、薬瓶を盗み出したキャリバンは、いつの日かミランダを自分の妃に迎えて島を支配することを心に誓う。彼は盗んだ瓶の代わりに、何の効果もないトカゲの血を入れた薬瓶を置いて立ち去る。しかし何も知らないアリエルが、嵐を起こす魔法をかけるためにその薬瓶を持って行ったため、事態はとんでもない方向に発展する。新婚旅行を楽しんでいたカップルたち(ヘレナとディミートリアス、ハーミアとライサンダー)を乗せた船が難破し、4人はばらばらに島の浜に打ち上げられてしまったのだ。

次にプロスペローは、「ファーディナンド王子を見つけて、彼とミランダが互いに一目惚れするよう魔法をかけろ」とアリエルに命じる。しかし、アリエルが最初に出会ったのは王子ではなく、ディミートリアスだった。アリエルは言われた通り彼に魔法をかけて、ミランダのもとへ連れて行く。二人は恋に落ち、それを知ったプロスペローは激怒する。

一方、ライサンダーは浜辺にやって来て、愛するハーミアを連れ去った(と彼が思いこんでいる)海の神ネプチューンに向かって悪態をついていた。今度こそ王子を見つけたと思ったアリエルは、ライサンダーに魔法をかける。するとミランダとライサンダーが恋に落ちて、今度はディミートリアスが激怒する。

へとへとになって島の反対側を歩いているヘレナ。その姿を見たシコラクスは、息子の嫁には、宿敵の娘であるミランダよりも、ヘレナの方がふさわしいと考え、盗んだ薬を使って、ヘレナとキャリバンが恋に落ちるよう魔法をかける。キャリバンは大喜びだ。シコラクスは魔法の効き目が切れないことを願う。

二度までも間違った男に魔法をかけてしまったアリエルは、本物のファーディナンド王子が今も航海中であるに違いないと気づく。こうなったら一番の有力者の力を借りるしかないと考え、海神ネプチューンに助けを求める。ネプチューンは姿を現すが、人間の分際で自分を冒涜するライサンダーと、静かな暮らしを邪魔したアリエルに腹を立てている。アリエルは王子を見つけてくれるよう懇願し、ネプチューンも最後には願いを聞き届ける。

プロスペローは、自分が大騒動を引き起こしてしまったことに気づく。間違った相手と組み合わされた恋人たち、てんてこ舞いのアリエル、やりたい放題のキャリバン、しかも当のファーディナンド王子はどこにも見当たらない。夢はとても叶いそうもないと、プロスペローは失望する。

第二幕
悪夢から目覚めたハーミアは、新婚の夫ライサンダーが嵐によって連れ去られたのは現実であったことに気づく。夫を捜し求める妻が目にしたのは、新妻である彼女のことは何ひとつ覚えていない、ミランダとの恋に溺れる夫の姿だった。。

その頃シコラクスは、魔力が甦った喜びをかみしめ、いよいよプロスペローに復讐を果たして息子のために島を取り戻すことができると歓喜に浸っていた。

ハーミアとヘレナが再会する。ヘレナの夫ディミートリアスはミランダに夢中で、ヘレナのことが誰かもわからないというのに、彼の姿を見るとヘレナの記憶と気持ちは掻き乱された。ハーミアとヘレナは男の移り気を嘆き合う。ヘレナはキャリバンを冷たくあしらい、ディミートリアスの後を追って行ってしまう。傷心のキャリバンは、母親の元へ慰めを求めに行く。しかし母は、愛はつねに裏切られる可能性があるものなのだと諭す。

頭にきたキャリバンは、プロスペローの部屋から魔術の本を盗み出すと、世界の支配者となって臣民にかしずかれるという自分の夢を魔法で実現する。しかしその妄想はやがて収拾がつかなくなり、想像上の生き物たちがキャリバンに襲いかかってくる。そこへプロスペローが割って入り、彼らを追い払う。

一方、ネプチューンはファーディナンド王子が乗った船を見つけ、島へと運んだ。王子の胸は期待に満ちていた。ミランダ同様、彼もこのところ見知らぬ相手の夢を見ていたのだ。

アリエルが事態の正常化に取りかかる。まず、相手を取り違えている5人の男女を森の迷路に誘い込み、並べて眠りにつかせた。そして目を覚ましたときには、元の正しい組み合わせに戻っているよう魔法をかけた。ファーディナンド王子と王が、浜辺でプロスペローの迎えを受けているところへ、5人もやってくる。王子がプロスペローの追放処分を解除する恩赦を読み上げる。ミランダに会った王子は一目で深く恋に落ちた。魔法をかけるまでもなかった。

シコラクスが現れてプロスペローに勝負を挑む。彼がシコラクスを撃退すると、ネプチューンが現れてシコラクスに加勢する。そしてプロスペローに向かい、「お前のしていることは、かつてお前をひどい目に遭わせた連中のしていることと同じではないか」と叱責する。プロスペローは己を恥じてシコラクスに謝罪し、シコラクス親子に島を返還する。ネプチューンは慈悲の尊さを説き、シコラクスはプロスペローを許す。一同は喜びと平和と愛に満ちた日が訪れたことを喜ぶ。