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原発の低コスト定説にメス プロローグ(7)
(2011年10月14日午後2時52分)
関西電力美浜原発と、9月の定例記者会見で「原発の再稼働がなければ冬の電力需給は夏以上に厳しい」との見通しを示した八木誠社長(右)のコラージュ
現在も運転している関西電力の原発は4基。現状のままなら来年2月には全て停止する。関電は冬場の供給力確保に躍起だ。加えて、火力発電で代替できたとしても、燃料費の負担がかさんで収益を圧迫するだけに、幹部らの表情は曇りがちだ。
経済産業省は国内全ての原発を火力発電で代替した場合、燃料費の増加は年間3兆円を超えると試算。コストが大きく膨らめば電力料金の引き上げにつながり「産業空洞化、雇用不安のリスクが出てくる」と日本エネルギー経済研究所の十市勉顧問は指摘する。
ただ、東京電力福島第1原発事故を受けたエネルギー政策の見直しをめぐっては「原発の発電コストは安い」という“定説”に厳しい目が向けられようとしている。
政府はエネルギー・環境会議の下に電源別の発電コストを再計算する検証委員会を設置。7日に初会合を開いた。コスト論議は、原発の「素顔」「実力」を浮き彫りにする作業となる。
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経産省の2004年の試算では、1キロワット時当たりの発電コストは原子力5・3円。石炭火力5・7円、液化天然ガス(LNG)火力6・2円、石油火力10・7円、水力11・9円と比べて最も安く、原発推進の根拠の一つになってきた。
これに対し、地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾システム研究グループリーダーらは、原発の廃炉や放射性廃棄物処分などにかかる費用を含めると原子力のコストは経産省の試算の2倍近くなるとする。
立地自治体などに配分される電源三法交付金として電気料金に上乗せされている電源開発促進税や、夜間電力を使って水をくみ上げる揚水発電のコストを加味すべきだとの意見や、前提となる稼働率が高すぎるとの指摘もあり、そうした点を考慮すれば原子力のコストはさらに高くなる。
電源のベストミックス(最適の組み合わせ)を探る上で「コストや供給安定性などを定性的に議論していく必要がある」(京都大原子炉実験所の宇根崎博信教授)との声がある半面、どこまでをコストに含めるかなどで意見の相違があり、結論を導き出すのは容易ではない。
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地域経済に対する原発の貢献度の点でも「思われているほど効果は大きくない」との声はある。
4日の県会予算特別委員会で細川かをり県議は、財政面での自治体への寄与に比べて産業構造の強化にはつながっていないと提起した。
関電によると、協力会社として原子力産業に携わる県内出身者は平均2400〜3400人。原発の停止状態が長期化すれば、日常のメンテナンスや警備、飲食業などを除いて半分程度の雇用は失われるとしている。
「定検がなければ設備投資もない。機器類の納入業者や土建業、建築業などに大きく影響する」と危機感を示すのは、原発8基が立地する大飯郡選出の田中宏典県議。原発への依存度が強く、自立した産業とは言い難い現状を物語っている。
嶺南では雇用が電気・ガス、建設業に偏りがちで、製造業は伸びていないとのデータもある。
4日の同特別委で答弁に立った西川知事は、嶺南の有効求人倍率や上下水道の普及率、保育所の整備率などが県平均を上回っている点を強調する一方、「相対的なさまざまな評価が必要だし、一律なものの言い方はできない」と述べた。原発は地域の産業や暮らしを底上げしたが、リスクに見合う地域振興がもたらされたのか。全体評価を留保するような口ぶりだった。(原発取材班)