
東電の計画停電
東京電力の計画停電は、福島第1原発事故を受け、東電管内で昨年3月14―28日に実施された。原発停止で供給力が需要を下回ることが見込まれ、不測の大規模停電を回避する目的だった。
実施方法は、管内1都8県を五つのグループに分割。グループごとに停電する時間帯を割り当て、順番に停電させた。停電時間は1回につき3時間程度だった。
ただ、その時間帯の需給状況などで直前に停電が回避されることがあったほか、同じグループ内でも停電する地域と、しない地域が出るなど混乱した。東電のコールセンターには「うちは停電するのか」などの問い合わせや苦情が殺到しパンクした。
停電で、鉄道の運休や店舗の臨時休業などが出たほか、信号機も消え、エレベーターに閉じこめられる人が相次ぐなど、市民生活に大きな影響があった。
(2012年2月11日掲載)
計画停電 現場は準備 九電新大分 停止の裏側 融通へ手続き後回し 幹部通さず節電要請 制御所へ社員が急行
●行政との連携 課題残す
3日に起きた九州電力新大分発電所(大分市、総出力229万5千キロワット)の停止。水面下では、現場の社員が「計画停電」の準備を進めるほど切迫していた。異例の需給対策で乗り切ったものの、危機管理や情報公開のあり方に課題も残した。同日未明の動きを時系列で検証する。
▼午前2時45分 「(凍結した)配管内の空気圧力低下を示す警報が鳴った」。九電子会社から新大分発電所へ第一報。その後も、燃料の液化天然ガス(LNG)を流す弁を開閉する空気の圧力低下が続く。
▼3時13分 発電所が、九電本店(福岡市)内にある中央給電指令所に「発電停止しなければいけないかもしれない」。3時15分ごろ、「LNG供給が困難」と連絡。
▼3時55分―4時19分 13基ある発電設備が全て停止。
▼3時55分 九電役員や社員に招集連絡。本店では深堀慶憲副社長をトップとする「緊急需給対策総本部」が、全支社にも同様の「本部」が立ち上がる。
総本部で深堀副社長が「指揮系統が混乱して烏合(うごう)の衆にならないよう、対応しろ」と呼び掛け。出席した幹部によると「非常時は情報共有が大事。発言者は皆、大声で説明していた」。
▼4時30分ごろ 「後で正式に申し込むから、とにかく早く(電気を)送ってほしい」。中央給電指令所の当直が専用回線で、電力各社の融通を仲介する電力系統利用協議会に打診する。
復旧の見通しは立たず、大幅な電力不足は確実。同協議会への融通要請は本来、融通の1時間前に30分単位の必要量を書式に入力し申し込むが、需要が200万キロワット程度急増する6時に間に合わせるには手続きは二の次。上層部の指示を仰がない現場の判断だった。
▼4時42分 事前に契約していた大口の46事業所に対し、電力使用の抑制を要請する。これも同指令所の判断。指令所に詰めた幹部は「時間との勝負では現場に任せる。仮に(真部利応)社長が詰めていても口を出さない」。
▼4―5時ごろ 支社や営業所でも自治体や大口利用者への連絡準備などの対応に追われる。
電力系統は本店の同指令所が統括しているが、家庭など末端への配電は九州各県支社が管轄する制御所が担当。複数の関係者によると、各支社の配電担当社員は変電所などに急行し、あらかじめ決めていた地域の停電準備も進めた。
最悪の事態はブラックアウトという連鎖的な広域停電。これを防ぐ手段が、事前に時間や場所を決めて輪番で電力供給を止める「計画停電」だ。幹部は「指令所からの正式な指示ではないが、最悪の事態を避けるための準備を現場が行っていたのは事実」と明かす。緊急時のマニュアルに沿った対応だという。
▼5―6時ごろ 東京電力を含む電力6社からの融通協力が伝えられ、6時前には計240万キロワットの供給力追加にめどがつく。凍結した配管に熱湯をかけていた新大分発電所でも、6時6分に設備1基の発電が再開し、少しずつ復旧が進む。
▼7時すぎ 九電がマスコミや自治体などにトラブルの第一報。
▼8時 深堀副社長が本店で会見し、「計画停電は回避の見通し」と説明。会見中の8時30分には総本部の決定として、大口への電力使用抑制の要請を解除する。
午前中に約8割の設備が、夕方までに13基全てが全面復旧し、午後6―7時のピークも乗り切った。「このときの安堵(あんど)感は、何とも表現しようがない」と幹部。
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危機のピークは午前4―6時の約2時間。全基停止や「計画停電」の可能性が浮上していたが、この時点で九電は自治体や警察、マスコミに連絡していない。
昨年12月22日、全社で「発電所トラブルで供給予備率が3%を切る」との想定で行った訓練通りの対応というが、「計画停電」になれば信号機などの停止が想定され、行政や警察の協力は不可欠。幹部は「危ないかもしれない、という段階で連絡すれば無用の混乱を生む。まずは絶対に停電させないようにするのが前提だった」と説明する。
九電は警察から、計画停電を行うエリアを定めた図面の事前提供を求められているが、拒否している。九電幹部は「事前にどこまで情報開示するかは難しい問題で、議論が必要」と認める。九電は近く、今回の指揮系統や連絡対応を総括する反省会を開くという。
