一級建築士で紀行作家の稲葉なおと氏(52歳)は、住みたい町として京都市左京区、鳥取県三朝町、沖縄県渡嘉敷村の三つを挙げた。
「建築を題材に執筆と撮影という仕事柄、時間によって見え方が異なる名庭や名建築のあるところに身を置きたいですね。建物が非常に美しく見える瞬間というのは、夕暮れ時や明け方だったりするのですが、そうした時間帯に建物や庭を見ることを、僕は楽しみにしています。名庭や名建築が集まる町に住み、日々散歩がてら顔を出させていただき、四季折々の大きな変化だけでなく、昨日と今日とではまったく違う建物や庭の表情を見ながら暮らせたらどんなに贅沢でしょう。
そこで考えたのが、七代目小川治兵衛さんが手がけた『無鄰菴』(山縣有朋別邸)や『真々庵』(松下幸之助別邸)など名庭が点在する京都市左京区。『大橋』『後楽』などの名建築の宿があって、名湯の穴場でもある三朝町。渡嘉敷村は、海外の友人に誇れるほど澄んだ海がある場所です。普段は海亀と泳ぎ、たまに本島に出かけるという生活が魅力ですね」
千駄木、竹田、仙台、茅野
哲学者で大阪大学前総長の鷲田清一氏(62歳)は、商店街のある町を好む。
「僕は田舎ではなく、町に住まないと生きていけない人間。たとえば、京都市中京区にある錦市場のような、商店街の近くに住むのが理想です。上等のさば寿司や京都らしい出し巻きなどのお惣菜とか、昆布、魚などを売っていて、プラッと買いに行ける。東京なら『谷根千』の名称で知られる商店街のある文京区千駄木も好きですね。
小泉政権以降、なんでも自己責任、自己決定の論理でとにかく自分のことは自分でするというイメージが強くなりましたが、やはり昼間、働いている人が近くにいれば、いざというとき頼れるし、助けてもらいやすい。おいしいものがすぐ食べられるだけでなく、介護や教育の面でもお互いに依存しあうネットワークが作りやすい場所こそ、僕の考える好きな町なんです」
グルメ番組の取材で日本全国47都道府県を制覇したという落語家の立川談笑氏(46歳)は、住みたい場所として青森市に白羽の矢を立てた。理由はずばり、食べ物が美味しいから。
「なにしろ、魚が抜群にうまい。北海道も北陸も九州もいいけど、やはり青森市が一番。なぜなら、『えーっ、こんな値段で食べていいの?』というくらい、青森市の物価は安い。その上、生ホッケの塩焼きに出会った時の衝撃は今でも忘れられません。『これまで食べてきたホッケは、いったい何だったのか』と。東京でホッケを食べようとすると、干してあるものしかありませんが、生ホッケは脂のノリも上品で、しかも口の中に入れると、深みのある味わいがジワーッと広がる。一杯やりながら生ホッケを食べる生活を毎日送れたら、最高です」
健康重視で住みたい場所を選んだのは、東京医科歯科大学名誉教授で免疫学者の藤田紘一郎氏(72歳)だ。
「都会で文明的な暮らしをしていると、どうしても細胞を老化させたり免疫力を落としたりする活性酸素に触れる機会が多い。電車に乗る時に使うスイカなどの磁気カードは便利ですが、そうした文明の利器からは活性酸素が出ている。そこで、活性酸素がなるべく少ない場所として、大分県竹田市を選びました。
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