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 この1年で住みたい町の基準が変わった人が多いはずだ。これまで想定していなかった「原発からの距離」「大地震の可能性」が、選定の際の大きな要素に浮上した。「安心」「安全」が何より優先される。

原発リスクが低い町

「私の老後は原発によって破壊されました。今後、自分が『安心して幸せに暮らせる町』を探すにしても、原発リスクを考えなければ、『砂上の楼閣』となってしまうかもしれません」

 そう語るのはTBSの元社員で、日本人初の宇宙飛行士となった秋山豊寛氏(69歳)だ。同局を'95年に早期退職した秋山氏は、福島県田村市に移住。無農薬農業に従事する第二の人生を送っていた。だが、福島第一原発の事故により、県外への避難を余儀なくされた。心ならずも「終の棲家」を追われたショックと怒りは、今も消えることはない。

「まるで、強盗にあって身ぐるみはがれたような気持ちです。国内に54基もの原発を抱えている日本のような国は世界でもまれでしょう。そう考えると、本当の意味で持続可能な幸福を保証する場所は、日本にはないのかもしれません」

 秋山氏は今年4月から京都造形芸術大学教授に着任予定で、新たな生活基盤を手に入れることができたが、不安は尽きない。

「京都は、若狭湾にある原発から60~70kmしか離れておらず、ちょうど福島原発から郡山市や福島市までと同じ距離感覚です。私は、原発を拒否する住民が多いところが一番いい場所だと考えていますので、若狭湾の原発全廃のために市民が立ち上がれば、京都も幸せな町になるでしょう」

 原発事故を機に、安心して幸せに暮らせる場所について真剣に考えるようになった人も多いのではないか。

「政府や東電の無反省ぶりを見る限り、原発は今後も危険。私なら、たとえ原発事故が起きても安全な場所に住みたい」

 というのは元内閣府原子力委員会の専門委員で、中部大学教授の武田邦彦氏(68歳)。原発事故発生以来、原発批判を続けている武田氏は、住みたい場所を選ぶ際の注意点をこう述べる。

「事故に備えて原発からの距離を心配する方がいるかもしれません。しかし重視すべきは、距離ではなく、地形や山の高低、風向きなのです。私が住みたいと思っている富山市は、60km離れたところに志賀原発がありますが、事故が起きても放射性物質は風の影響で日本海を通過して新潟方面に抜けるので、大きな問題には発展しない可能性が高い。

 周囲を山が囲む長野県松本市も、隣接県の新潟や静岡にある原発で事故が起きても、比較的安全です。

 これに対し、たとえば福井県内には14基の原発がありますが、2月や9月に事故が発生すれば、風によって放射性物質は100km以上離れた名古屋市まで飛散する可能性が高いのです」

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