警察に見つからないために、郊外の牛舎やビルの屋上の小屋でのバンド練習。電気が足りないから、客にキャンドルを配って照明代わりにする、地下室でのライブ。密輸したNMEをみんなで回し読み、「いつかSigur Rosのライブを見に行きたい」と夢を語り合う。マンションの一室でのDJパーティーに、警官が突入してくる。
イランじゃバンドをやるのも見るのも大変だなぁと思ったけど、同時に彼らが羨ましくもあった。
バンドの練習スタジオも、設備の整ったライブハウスも、パーティーが出来るクラブも、ロック雑誌も、日本なら当たり前のようにある。新作が出ればSigur Rosもライブしに来てくれる。イランじゃ夢のようなものばかりだ。
でも、だからこそイランの若者は、ライブやパーティーに行くだけですごく気分が上がるんだろう。ロック雑誌を読んだりSigur RosのMP3を聴くことは、どこか違う世界に行くような感じなんだろう。彼らが味わえる体験と同じものを、2012年の東京の、どこで何をしたら手に入れられるんだろう?
日本の若者にとって最も幸せなことは、お金さえあれば何でも出来ることだ。そして日本の若者にとっても最も不幸せなことは、お金さえあれば何でも出来ちゃうことだ。そのお金だって、バイトだけでも充分に稼げる額で、職種を選ばなければバイト先はいくらでもある。
欲しいものはいつでも手の届く所にあるから、それが色褪せるのも早い。選択肢はいくらでもあるから、本当にやりたい事がなんなのか分からなくなる。夢への道はいつでも用意されているから、夢はあっという間に現実に塗り潰される。それは本当に幸せなことだし、本当に不幸なことでもあるよ。
たった1回のライブのために、テヘラン中を走りまわる主人公たちを見て、大変そうだとは思ったけど、そのライブは本当に楽しそうだなあとも思った。
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その映画の主人公たちのバンド、Take It Easy Hospital。今はロンドンで活動しているらしい。
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なあ、鬼になりたくないなら鬼ごっこには入ってくんなよ。