●そのシンポジウムは、去る2003年9月26日に行われた日本建築学会・司法支援建築会議の主催の催しで『都市居住を巡る建築紛争』と題されたものでした(会場:建築会館ホール 午後1時〜午後5時)。約120名が参加し、本講演とパネルディスカッションが行われました。 ●そのパネルディスカッションにおいて、ひとりのパネラーが「紛争の具体例」として、鷺沼ヴァンガートンヒルズの例を紹介しました。その発言要旨は次の通りです。
●建築界でも権威ある学会で、鷺沼ヴァンガートンヒルズ(固有名は伏せられていましたが)の建築計画内容が明示され、上記のように批判されたという点に、当守る会は注目をしています。 ●川崎市が高度地区の適用除外を認める旧許可基準では、たしかに中庭も「準公開空地」として算出数値に組みこむことが認められていました。が、鷺沼ヴァンガートンヒルズにおいては「公開空地」であるはずの中庭が、事実上、マンション居住者の専用庭として設計されているという現実に、専門家であるパネラーが驚き、建築学会の場で「これは公開空地とは言えない」と評したのです。 まがりなりにも「建築界」でプロとして仕事をされているはずの設計会社「アーバンライフ建築事務所」は、このことをどのようにとらえるでしょうか。 ●「中庭状の公開空地は“不当”である」という意見は、 以前だったら(この鷺沼ヴァンガートン紛争の初期だったら)“近隣住民の主観にすぎない”と却下されがちでした。しかし、建築学会でのこうした批判発言や、川崎市が許可基準を改正したこと(※)からしても、いまや、明らかに法の網をくぐり抜けた正当性のない設計であったと断言して構わないと思われます。
●この鷺沼ヴァンガートンヒルズの設計を担当した「株式会社アーバンライフ建築事務所」で実際に設計を担当した建築士はいったいどのような考え方を持ってこのマンションを設計したのかお尋ねしたい。 ●そもそも事業者は、裁判の準備書面の中で、コの字型の計画は「近年ごく通常の」配棟計画であると弁明していました ●中庭が公開空地でもなんでもない通常のマンション共有地ならば、その主張は可能かもしれません。が、事業者は鷺沼ヴァンガートンヒルズの中庭は「公開空地」だと主張をし、その主旨からしてこれを「通常の」配棟計画と主張する道理は通りません。 ●しかもヴァンガートンヒルズの設計は巾着型に入り口が細く閉じて、コの字形ですらありません(参照イメージ図)。“巾着”の入り口部分にはさらにゲートまで据えられており、この中庭を「日常一般に開放された」「公開空地」と称するのは、あまりに一般常識の範囲を超えた主張であると考えられます。 ●このようなものを、建築設計者が(事業者と同様に)「ごく通常の配棟計画」であると言い張るのなら、この設計者は公開空地の概念をまったく理解していない職能不適格者であると批判されてもやむを得ないと考えます。 ●「中庭状の公開空地」はそのマンションを購入して住む居住者から見ても、不利益このうえない構造です。 ●不特定多数の人々が昼夜を問わず敷地内に入りこみ、飲食から宴会・花火・演奏活動等で騒がしくしても、追い出すことが不可能。かつ公道ではないので警察も犯罪性がない限り民事不介入の建前から踏み込めない。そのうえ、居住者は「公開空地」の管理費まで負担させられる。 ●お金はとられるのに自分たちで占有することもできない。結局、事業者のみが利益を得る建築計画でしかない、という実状をマンション購入者自身がしっかり認識しておくべきです。
●利益追求にしか眼を向けない事業者が中庭を公開空地にしてより多くの戸数を確保しようとするのは、百歩譲って“しかたのないこと”と考えても、設計者は「高度地区適用除外」の法の精神をないがしろにする設計を慎むべきであると私達は考えます。 ●近隣住民にとっても、マンション購入者にとっても不利益きわまる構造のマンション計画を設計したこの設計者は、すでに建築学会でのシンポジウムという公の席で「中庭状の公開空地」が批判されました。川崎市行政が「中庭状の公開空地を禁止する決まり」へ許可基準改正に踏み切った事実を考えあわせても、この設計内容が「高度地区適用除外の法の精神」に反し、良識ある建築界職能人としての認識に欠ける行為であると弾じます。 ●これらの点において、当守る会は「株式会社アーバンライフ建築事務所」の所作を改めて強く批判するものです。 |
もう一点。行政のあり方にも疑義を呈します。 ●今回のこの計画については、川崎市環境アセス審議会、建築審査会、川崎市議まちづくり委員会でもそれぞれ少なからぬ批判がなされました。が、それらの機関が十分に機能することなく、「高度地区適用除外」の許可に至ってしまいました。この点について、行政庁たる川崎市にも猛省を促したい。 ●特に、環境アセス委員長は、その任をうけることによってしかるべき額の報酬を川崎市税から得ている以上、この委員会の目的趣旨に沿って誠意ある態度で臨み、職務をまっとうする義務があると考えられます。 ●しかし、委員会の傍聴に参加した多数の住民は、この人物が【計画内容に疑義を呈した他の委員の発言をさえぎり】あるいは【そうした委員の発言を無視するように感じられる態度をとって】アセス委員会の議事を強圧的に進行させていた場面を目の当たりに目撃しております。(この人物は、別の計画でのアセス委員会でも同様な姿勢をとりつづけていました) ●この人物は、委員長の任に適性のないものとして辞任を要求することを、当守る会はここに表明いたします。 |
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