2001年4月9日 作成
《これまでの経過》
訴訟の内容
(原告)東京都江東区の住民76名(岡島秀子他)
(被告)東京都江東区長・日本化学工業株式会社(本社 東京都江東区亀戸)
(裁判所)東京地方裁判所民事3部(裁判長藤山雅行)
(請求内容)東京都江東区が購入した土地から大量の六価クロム鉱さいがみつかり、東京都江東区が1995年に1億4000万円かけて六価クロム鉱さいを処理した件について、その費用の支払いをその六価クロム鉱さいを排出した日本化学工業に対し、江東区が求めるべきだとして、地方自治法242条の住民監査請求を行ったところ、それが棄却されたので、地方自治法242条の2に基づく住民訴訟として、
- 日本化学工業に対し、江東区への1億4000万円|の支払いを
- 東京都江東区長に対し、日本化学工業への支払いを請求しないことが違法であることの確認を
それぞれ求め、 1996年10月に提訴。
和解成立
いままで、2人の証人尋問等を行ってきたが、日本化学工業が江東区にいくらかの和解金を支払う方向で和解協議が進み、以下の内容で、平成13年3月21日に和解が成立。
(和解当事者)
原告 江東区の住民岡島秀子他合計76名
被告 日本化学工業株式会社
利害関係人 東京都江東区 (東京都江東区長に対する訴えは取下げ)
(和解内容)
- 日本化学工業は、東京都江東区に対し、本件和解金として金1650万円を支払う。
- 東京都江東区は、今後も六価クロム対策等の環境対策に尽力する。
- 本件訴訟関係費用のうち、原告らが支出した金50万円は、日本化学工業が支払う。
- 原告はその余の請求放棄。
本件和解の意味
- 本件訴訟は、六価クロム鉱さいの排出が1972年以前であり、すでに、民法上の時効期間の20年を経過しているとも考えられること、六価クロム鉱さいが本件土地に投棄または埋設された経過が必ずしも判然とせず、不法行為の態様の特定が容易でないこと等の法的な問題点があったが、日本化学工業が、排出者(汚染者)として、汚染者負担の原則等を考慮し、処理費用の一部といえ、その費用負担をした。 |
- 日本では、市街地の上壌汚染についての法律が存在しなかったが、近時、市街地での土壌汚染が大きく問題となってきており(環境庁作成資料参照)、国でも市街地の土壌汚染対策のための法制定に向けた動きがはじまっている。東京都では、平成13年4月から施行される新条例(従来の東京都公害防止条例の改正による東京都環境確保条例)で、土壊汚染対策を対象とした。
いずれにおいても、過去になされた土壌汚染について原因者の負担をどう求めていくかが大きな問題であり、その点で、本件和解が今後の解決のひとつの先例となる意味は大きい。
東砂クロム裁判の和解について
公園のクロムを考える会
▼1994年、江東区が東砂3丁目に心身障害者施設の建設を始めたところ、地中から六価クロム鉱滓が見つかり工事が中断した。ここは1990年区が所有者から14億7000万円で購入した土地だった。翌95年区は約1億4000万円を投じて処理したが、私たち「公園のクロムを考える会」は「汚染者である日本化学工業梶i日化工)が処理費用を負担すべきであり、区が負担するのは不当な公金の支出である」と考え、96年住民監査請求を行った。それが棄却され同年10月提訴に至った。
▼ 区は日化工に処理費用の負担を要求したが、ここがクロム処理協定(79年、都と日化工が結んだ)の対象外の土地ということで拒絶されていた。
▼この5年間、地元住民や日化工の旧社員や関係者に会い六価クロムを廃棄した当時の状況を聞き取り調査をしたが、この土地への廃棄時期や状況は明らかに出来なかった。一時は取り下げも検討したが、「土壌汚染処理は汚染者負担が原則であること」、「それが実現しないのは法が不備であること」を訴えるために訴訟を継続することにした。
▼ ここ1年裁判所のすすめで和解協議を続けて来たが、この3月別紙の内容で和解が成立した。1億4000万円の支出に対して1650万円と、和解金額は十分とは言えないが、これは日化工が自社で処理した場合の金額ということだった。私たちは「汚染者負担の原則」が不十分にせよここに実現したと考えている。この和解で、今後続発する市街地土壌汚染問題の「汚染者負担による解決」の一つのあり方を示すことができた。
▼また少なくとも公有地の土壌汚染について自治体は、事前の調査・把握、原因者による処理の実現などに努め、安易な公金の投入は厳に戒めることが求められることになった。
▼「公園のクロムを考える会」は今後も江東・江戸川地区の土壌汚染問題に取り組み、現在検討されている土壌汚染に関する法律も視野にいれた活動を続けていきたい。
和解を報道する毎日新聞の記事
和解条項