雑感340-2006.3.28「まだ解決していないのか?−県と国のどちらが責任?神栖、井戸水ヒ素汚染−」
今回の雑感目次 A. 神栖ヒ素問題のその後 B. 化学物質リスク管理研究センターの詳細リスク評価書 C. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる): 実名公表のための戦い(2) A. 神栖ヒ素問題のその後
茨城県神栖市の井戸水ヒ素汚染事件のことが3月中旬から下旬に報道された。それは、汚染されたコンクリート塊を焼却処理することが決まったからであるが、あらためて国と県のどちらに責任があるかの問題が片づいていないことを知った。
朝日は「国と県、対立深まる」(3月17日)、読売は「真相も闇の中」(3月20日)の見出し。以前私が神栖問題を書いた雑感299(2005.04.12)から一年経っているのだが、その雑感にも、朝日新聞の記事が紹介されていて見出しは「国と県、責任めぐり溝」とあるから状況は変わっていないように見える。ただ現実には、この1年間に、神栖のヒ素汚染問題は急展開をした。
・ 汚染原因が旧国軍の毒ガス弾ではなく、(廃棄物の)不法投棄によるものであることを環境省も茨城県も認めた。同時に発見された空き缶は平成5年(1993年)製造のものがあり、投棄は1993年以後と推定できる。
・ ジフェニルアルシン酸(DAPP)は、当初は毒ガス弾の成分ジフェニルシアノアルシンの分解物と言われたが、今では毒ガス成分の原料とされている(*)
・ 神栖町は平成17年8月1日神栖市になった
・ 井戸水のヒ素で健康被害を受けた住民5人が2005年8月3日、被疑者不詳のまま、汚染源と見られるコンクリート塊の投棄を指示した人物を殺人未遂容疑、現場の土地を埋め戻した市内の業者を業務上過失傷害容疑で告訴した。
・ 埋め戻した市内の業者はすでに特定され事情聴取などが行われているらしいが、どうも迷宮入りの様相
・ やや遡るが、2004年12月に神栖内で作られた米の一部に、DPAAとPMAA(フェニルメチルアルシン酸)で汚染されたものがあるとの発表があった。その米を常食していた人の爪や毛髪の検査が行われPMAAは検出されたが、DPAAは検出されなかった。PMAAはDPAAの代謝体と考えられる。さらに診断が行われたが、特に異常は見つからなかった。
(*)あくまでも旧国軍の製造によるとされているが、それほど確かなこととも受け取れなかった(中西の感想)
悪例を残すな!
ここまで明らかになっているにも拘わらず、不法投棄の関係者、経緯、DAPPなどを出した人物が明らかにされないのは不思議だ。
それはおくとしても、ことここに至っても茨城県が国に責任を転嫁し、環境省がずるずるとそれに巻き込まれていることもまた理解に苦しむ。
こうなったのは、最初にきちんとした検討をせず、旧国軍の毒ガス弾という思いこみで環境省が請負ってしまい、レーダーとか使っての調査を行ったという大失敗があったからだが、それにしても、廃棄物の不法投棄とはっきり分かった今でも、茨城県が責任を認めないのはどうしても納得できない。
こういう悪例を残すと、結局被害者の早期救済ができなくなると思う。今回は間違いだったとはいえ、環境省が早期に被害者救済に乗り出した。それは被害者救済の点では良かった。
その後原因が明らかになった段階で、環境省に全責任があるわけではないとなったので、当然責任をとるべき者がそれを負担するのは当たり前である。そういう前例をきちんと作っておかないと、誰も早期救済に乗り出さなくなってしまう。
時効?
埋め戻しの業者はすでに分かっていると新聞には書かれている。それで、時効だからもう追跡できないと言っているが、これはおかしい。時効かどうかもまだはっきりしない筈だし、少なくとも原因追究、ルート追究はできる筈である。
地下水浄化
地下水を浄化すべしという声が挙がっている。現場の様子はよく知らないが、一般的にはこれは難しい。地下水の汚染源は、土壌の汚染である(この場合には廃棄物のコンクリート塊)。それを取り除くことは必須だが、汚染された地下水そのもの浄化は、それを飲料水に用いる場合以外はあり得ないというのが常識である。
汚染除去の立場からは、徹底的に環境浄化をしたいところだが、それは経済的な見地から、環境保全費用の適切な分配の点から、まず不可能だろう。そういう前提で、次善の策として何ができるかを考えるのが知恵だと思う。
付け足し
神栖の問題を調べていたら、以下のブログにぶつかった。
http://blog.kansai.com/gasp/294
私が書きたいようなことが書いてあったので、勝手に引用する。
<マスコミの報道>(小見出しは中西)
朝日新聞 04/15 01:02 「旧日本軍の毒ガス成分検出 茨城県・神栖町の井戸水」
読売新聞 04/15 00:39 「旧日本軍の毒ガス成分?井戸水から検出…茨城・神栖町」
NHK 04/15 12:26 「井戸水ヒ素汚染 旧日本軍製造の化学兵器成分と同じ物質検出」
時事通信 04/15 21:23 「『旧日本軍に由来』と茨城知事=井戸水汚染、国に原因究明」
<茨城県の対応>
橋本まさる茨城県知事なんて「旧日本軍の毒ガスが原因であることはほぼ間違いない。国には製造者責任があるのだから支援であれ補償であれ、過去の医療費、通院費を含め、将来についても支援すべきだ」って言いたい放題言っておきながら、軍の関与が無かった事が証明されたのに、「あくまで国の責任で汚染原因者の究明を」と、この期に及んで県は責任逃れするつもりか?
B. 化学物質リスク管理研究センターの詳細リスク評価書
リスク評価書がつぎつぎと刊行されています。先週「トリブチルスズ」が出ました。
ジュンク堂池袋店は10冊入荷とありました。かなり売れると見込んでいるのですね。
できるだけ早くに、それぞれの詳細リスク評価書のポイントを書いていこうと思います。
少し前に出たビスフェノールAもまだ書くべきことが残っているのです。
C. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる): 実名公表のための戦い(2)−批判と批評を育てるために−
私が下水道の仕事をしていたとき、まず最初の関門は、処理場調査の許可を得ることだった。
当時、今もまだ続いているが、下水処理場の調査をしても、その結果はA下水処理場として発表されることが普通だった。名前を出すというとなかなか許可が下りなかった。
さらに、調査の許可を得る時に「結果公表の前に許可を得ます」という意味の誓約書を求められた(文言そのものははっきり覚えていない)。私はこの誓約書に署名せず、しかし、調査の許可を求め、東京都と長い長い戦いを続けた。
この誓約書の文書は、今は「公表の前に連絡します」というように変化しているが、当初は、許可を頂くという内容だった。
誓約書が用意されていて、それに署名しないまま、調査をしたいと主張しているので、交渉に時間がかかった。時間はかかったが、必ず誰かが仲介を申し出てきてくれて調査が可能になった。その際は、私のためだけの誓約書のようなものが作られ、仲介者が担保してくれた。発表に際して何ら制限はつけられなかった。
浮間下水処理場、落合下水処理場、小台下水処理場の調査と固有名詞入りの結果発表はこのようにして可能になった。
そして、下水処理場の様々な問題を世に出していった。小台処理場では、長きにわたって水質が書き換えられて報告されていたことを見つけ、発表した。
固有名詞を出すこと、これが私が最初からこだわり続けたことである。この時、仲介を申し出てくれた方には本当に感謝しているが、個人的には恩を返すことはできなかった。
そういう方は、不正や問題点が明らかになれば、責任を追及される立場にいるのだから、保証した私の論文のために責任を問われることになった。苦しいことだが、そうならざるを得なかった。固有名詞を出した調査研究には、こういう問題がいつもあった。今でも重く心に残っている。
次回口頭弁論 4月14日 10:30
皆様から頂いた「ご意見」100通を超えていますが、14日までに裁判所に出すべく整理中です。
今回の雑感目次 A. 「リスク評価と予防的配慮」(「環境管理」*)に書いた原稿) B. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる):実名を挙げた批判 A. 「リスク評価と予防的配慮」
RoHSとサプライチェーンの物質管理
多くの事業者が化学物質のリスク管理・リスク削減に取り組み、中には神経をすり減らしている方もあると聞くが、冷静に見ると、本来の意味のリスク、つまり生態系や人の健康への負の影響によるリスク(生態系も含めて健康リスクと呼んでおこう)を考えているのではなく、違法とされ事業活動が大きな打撃を受けるリスク、つまり企業経営リスクの場合が多い。しかも、その法律を守ること、つまり企業経営リスク回避が、ここで言う健康リスクの削減と結びついていないようにさえ見える。
その動きを拡大させているのは欧州連合が出し、06年7月から施行される予定のRoHS(電気・電子機器に含まれる特定物質の使用制限に関する)指令である。この指令により、欧州に輸出する電気電子製品では、すべての部材(部品ひとつひとつ)に鉛、水銀など6物質群が一定量含まれてはならないというものだが、サプライチェーン全体での含有量の証明と管理が必要になっている。
部品の数が多いこと、外国製や零細企業での製品も多いことから、末端では異常なコストが発生している。また、欧州指令が求めていたのは6物質群であったが、わが国の大企業が環境保全的であろうとして、さらに数物質上乗せし、しかも、その上乗せ物質の種類が企業毎に異なることから、素材や部品を提供する事業者からの悲鳴が私の所にまで届く。
リスクは削減されるか?
末端ではなく、できるだけ上流でリスク管理を行うことは一般的に言えば合理的で、より本質的な対策と言えるのだが、今、行われていることは本当に環境をまもるために必要なことなのだろうか?
RoHS指令が表に出てきた当時、その根拠となる事実や説明を探したが、どこにも見つけることはできなかった。ヒントになるのは「人の健康の保護と環境に配慮した電気・電子機器の回収と処分に貢献」するためという説明と、RoHSの中に書かれた「2000年12月7〜9日ニースで開かれた欧州理事会において、2000年12月4日の予防原則に関する理事会決議を承認したがゆえに、(中略)、重金属やPBDE及びPBBなどを使用しない電気・電子機器の技術開発を考慮すべきである」という件である。つまり、強いて読みとるとすれば、(1)人健康リスク、(2)リサイクル、(3)廃棄の三つだろう。
私の職場である産総研化学物質リスク管理研究センターでは、鉛についての詳細リスク評価を行っている。まだ、公開されていないが、結論は確定していて、それによれば鉛による人と生態系に対する健康リスクはきわめて小さい。
リサイクルの容易さと再生品の品質を保つためには、例えば鉄製の本体のあちこちに鉛はんだが使われているような状態は好ましくない。その意味で、成分が分かっていること、できれば、一塊りで取り出せるように最初から設計することは大切である。
しかし、こういう理由なら、鉛はダメだが、ビスマス、インジウムは良いということにはならない。その場合には有害性は関係ない。しかし、リサイクル過程での労働者へ健康リスクが問題だというなら、確かにその材料の有害性に関係するが、その管理はそれほど難しいものではない。
使用済み製品を廃棄物として埋め立ててしまう場合には、有害性は問題になる。そのために含量を規制するのは当然だが、その場合でも、使用済み製品全体の中での有害物質の含有量を規制すればいいのであって、重量比で言えばとるに足らないような部品一つひとつの中の含量を規制する必要はない筈である。
廃棄物投棄で本当に問題を起こしているならいざ知らず、そうではなくて予防的措置として行うならば、むしろ緩やかな規制をかけつつ、使用済み製品の産業廃棄物としての処理やリサイクルのシステムこそ構築すべきではなかろうか。
予防的措置への姿勢
規制は、厳しければ厳しいほど良いというものではない。その措置によって削減されるリスクの大きさとかかる費用とを算出し、削減される単位量のリスク当たりの費用を計算し、効率的な対策かどうか確かめつつ実施すべきなのである。
では、予防的な対策はどうか?まだ何も被害が出ていないが、将来問題がおきることが危惧される場合には、どうすればいいか? そういう場合にも、将来問題がおきた時に修復する場合と、今、対策をとる場合とで、どちらが効率が高いかを比較しつつ、対策を選ぶのがいい。
予防的措置なら何でも採用すればいいというものではない。また、それが良い対策であっても、費用がかかる場合には、実施の速度を抑えることも重要である。
化学物質リスク管理研究センターは今、ナノ材料のリスク評価研究に取り組んでいる。ナノサイズに起因するリスクがあるとの実験結果や考察が出されているが、それらの実験結果をつぶさに見ると必ずしもはっきりしない。
ナノ材料の機能が新しいだけに、有害影響も新しい可能性があり、そのリスク評価にはかなりの時間と労力を要すると思われる。できれば、リスクについての科学的知見が集まってから規制を考えたい。使われている量も多くはないし、少なくとも猛毒というようなものではないので、尚更そのように考える。
しかし、予防的対策が必要という声も大きく、簡単に無視もできない。また、他国が予防的対策としての規制をかけてきた場合には、そこに商品を輸出するのであれば従わざるを得ない。
もし、わが国が何もせずにいると、結局他国の規制が日本の規制になってしまうのである。それはRoHSの経過を見ればよく分かる。しかも、他国の規制はしばしばその国の産業に有利なものになっている。科学的な知見がはっきりしていないだけに、恣意的になりがちなのである。
それに対抗するには、わが国もなるべく早く管理の仕組みを提案するしか方法がない。そこにできるだけ合理的な仕組みを作り、それを外国にも認めさせることが大切である。
重要な科学的知見がない時に提案する予防的な措置が過剰規制にならず、合理的でありうるかと疑問を持たれる方もあると思うが、私はありうると考えている。ここ1〜2年考えていることだが、これまでのリスク評価とは逆の進め方でいけば、ある程度可能と考えているのである。
これまでのリスク評価では、有害性評価があって、そこに暴露評価がついていく感じであった。逆というのは、暴露評価による仕分けを優先して、そこに必要な有害性情報を加える考え方である。
なぜ、こういう方法をとるべきと考えるかと言えば、何も分からない新規物質であっても、暴露量の予測は、少なくとも有害影響の予測よりずっと確度が高いからである。この考えを生かして、ナノ材料の管理や規制で、予防的であってかつ合理的な提案をしたいと今意気込んでいる。
*)(社)産業環境管理協会機関誌「環境管理」3月号に掲載された。
B. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる):実名を挙げた批判
このHPを書いていて、しばしば注意されることがある。それが、また、今回の裁判とも関連するのだが、もちろん好意から、親切心からだが、こういう注意を受ける。「批判はいいが、個人名は挙げない方がいい」と。
もし、個人名を挙げて批判するということを止めれば、私はひどく楽になる。まず、攻撃されることも批判されることもないし、内容が甘く間違いがあっても多分問題にならない。何故なら、抗議があれば、それはあなたのことではありませんと言って逃げることができるからである。
決して得なことはないが、いやそれだけではない、かなり大きなリスクを負っているが、個人名や具体的な場所の名前を挙げて書くべきだと思っているのである。そうでなければ、本人に届かないし、それだけではなく、読む人に状況を伝えることができないのである。
Aさんは、かくかくしかじかのことを言ったと私が書いたとしよう。しかし、そのかくかくしかじかは、どうしても一部の引用になる。引用が適当か否かは重要な問題だが、その引用文からは読者はその適否の判断ができない。例え、全文引用したとしても背景や、その人がこれまで行ってきたことも考えつつ判断しなければならないが、実名があれば読者はそれを自分で集め判断の材料にすることができる。
また、私が批判されたとしよう。しかし、中西とは書かれていない、とすれば、どうもそうらしいが、抗議もできない。こんなに不愉快なことはないし、多くの人があれは中西のことだと思うとすれば、その批判はそのまま皆の心に焼き付いてしまう。これも困ったことだ。
昨年の夏だが、日経BPが管理しているブログ(Tech ON!)に、「アスベストが体内に残るなら、あの新素材だって・・」というタイトルの記事を見た時は、非常に不快に思った。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL_LEAF/20050713/106699/
この素材の名前を書くべきだと思ったのである。名前を書けば、きちんと批判もできる。しかし、書かなければ「この記事は、多分カーボンナノチューブか、カーボンナノホーンかそういうのを言っているのだろうな。それにしてもおかしいな、脳まで運ばれたと言われている実験が、この二つの物質であったかな?」と思っても確かめることもできない。
はっきりしないから名前を挙げることができないのだろうという誉めるコメントもあったが、それはひどい。翌週には物質名が出て、脳まで到達は否定されていたように記憶しているが、もしこれが人だったら、こういう書き方をされたらたまらない。名前を書いてもらった方が、反論もできる。実名、場所名、その他名前を出して書く、これはお互いに批判しながら切磋琢磨するために必須の条件だと思う。
次回口頭弁論 4月14日(金)午前10:30
雑感338-2006.3.14「アガリクス茸の発がん性の強さ」
今回の雑感目次 A. アガリクス茸の発がん性の強さ B. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる):1周年 A. アガリクス茸の発がん性の強さ
2006年2月14日の各紙は、キリンウエルフーズ社の「キリン細胞壁破砕アガリスク顆粒」に発がん促進作用があるという結果がでたので、食品安全委員会に対し評価を依頼すること、および、念のためこの商品の安全性が確認されるまで摂取を控えるようにという厚労省による前日のプレスリリースの内容を大きく報じた。
そもそも、がんの予防または治療に効果があるとされていたこと、アガリクス茸製品の売上高がかなり高いこと(キリンのみでも4種のアガリクス製品を出しているが、それら4種のアガリクス製品の売上高は年間約2億5000万円、わが国全体で300億円程度とのことである)から、この発表は大きな衝撃を与えた。
厚労省の発表
厚労省発表の内容の要点を書くと以下のとおり。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/02/h0213-3.html
1) サンドリーとサンヘルス社のアガリクス含有製品についても調べたが、まだ最終結果は出ていない。
2) キリンの製品については、3方法による遺伝毒性試験で、2方法で陽性、1方法で陰性と出ている。アガリクス顆粒を餌に混ぜて24週間与えた場合の腫瘍性病変との関連は表に示すようなものであった。
アガリクス顆粒の添加量(%) 餌+アガリクス 餌+イニシエーター+アガリクス アガリクス添加量の意味(通常の摂取量の倍数) 0 − − 0.5 − − 1.5 − + 平均 6.9 倍 5.0 試験せず + 平均 23.2 倍 3) この結果をもって厚労省は「今回の試験結果は、ラットにおいて発がんプロモーション作用が認められたというものであり、ヒトに対してただちにがんを引き起こすという結果ではありませんが、ヒトへの健康被害を未然に防ぐため」と発表している。
社長の弁
厚労省の発表後直ちに販売停止を決めたキリンウエルフーズ社長 野中淳一さんは、以下のように述べている(日経ビジネス2006.03.06)。
プロモーション作用について「発がん物質と一緒にうちの商品を過剰摂取すると発がん作用を促進してしまう意味」だということ、「実験動物であるラットに通常摂取する量の5〜10倍を与え続けた結果だといういうことです。人間であれば、うちの商品を毎日それだけ過剰に食べ続けることはほとんどないと思います」と。
ここで言うプロモーション作用とは、それだけでは発がん作用がないが、がんを起こす物質(イニシエータ)と共に存在するとがんを促進する作用である。
それは、確かにイニシエータではないのだが、いま問題になっている多くの発がん性物質のほとんどはイニシエータではなくプロモータである。ダイオキシンも、発がん性があるとしてもプロモータであると考えられている(米国の一部に異論あり)。
また、通常の摂取量の5〜10倍も摂取しないというのもその通りであるが、他の化学物質の規制では、この比較で言うと通常の摂取量の100倍とか1000倍くらい摂取するという仮定をおいて基準値を決めているのである。
今回の結果で、ただちにがんが起きることを意味しないということは、そうかもしれないが、ここに書かれたことが、発がん性が規制されている他の化学物質と比べて、がんを促進する力が弱いことを意味するわけではない。
もし、合成の化学物質と同じルールを適用するなら、ここで示された量のさらに低い量でなければならないとなる。有害性だけでみると、自然物とはそういうものである。
発がん性は本当か?
では、アガリクス茸に発がん性があるというのは本当か?食べるのもあぶないのか?ということを検討してみよう。
その前に、茸に抗ガン作用がある、また、抗酸化作用があるというのは嘘か?
これは嘘ではない。すべての茸がそうかは分からないが、確かにそのような作用をもつ茸は多いのである。しかし、有害性を併せ持つことも多く、やはりその有害性には気をつけた方がいい。
茸を食事で食べるだけでなく、顆粒とか濃縮剤みたいなかたちで、通常の食事の量とはかけ離れた量を健康食品として毎日とるのはどうみても要注意である。
アガリクス茸の有害性については、米国での研究が多く、また、欧州でも気を付けるべきものとして広く知られている。しかし、このアガリクス茸は、いま日本で使われているものと違うとされている(本当に異なるかどうかは商品によると思う)。
以前から欧米で、とりすぎるなとして注意されているのは、マッシュルームのアガリクス ビスポラス(Agaricus bisporus)である。この中にはアガリチンという成分が含まれていて、体内で加水分解しメチルヒドラジンなどのヒドラジン類に変化する。
ヒドラジンは、少なくともマウスに発がん性があり、ヒトへの発がん性の可能性としては2Bと分類されている。
日本でアガリクス茸と言われているものは、ブラジル原産のAgaricus brazei (正しくは Agaricus blasiliensis) であり、これにどの程度のアガリチンが含まれているかについてのデータは今持っていないが、いずれにしろアガリチンが含まれている。したがって、それなりの発がん性はあるだろう。
キリンは中国産だからだとか、加工方法が悪いとか言う人がいるが、そういうことで多少の変化はあるとしても、それが本質的な要因ではないと思う。
アガリクスビスポラスの発がんポテンシアル
Agaricus bisporusについてのデータ(Amesによる)を示しておこう。Amesらは、その発がんポテンシアルをHERPという値で示しているが、その値を示す(この意味は、「演習 環境リスクを計算する」に詳しい)。
雑感266に図がある、それを再掲する。
この0.02というマッシュルームが、Agaricus bisporusで、一日に2.55 グラム食べる(米国の平均)として計算されている。
B. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる):1周年
松井さんに提訴されて1年経つことになった。今週は1周年記念ということになる。あれは3月16日でしたから。
前回の口頭弁論(1月27日)(第5回)で、
“原告代理人は、名誉毀損について、「事後の態度や反省も問題だ」と主張し、「訴訟提起後に被告がネット上でいろいろ書いたことについて、訴訟物の追加をしたい」と言った。裁判官は、「あまり広げない方がいいのでは?」と発言した。これに対して原告代理人は「別訴を提起するかどうかも含めて考える」と答えた。”(応援団掲示板582:リンク)
ということがあった。まあ、脅しでこう言うのだろうなと思っていたのだが、周囲の裁判に詳しい人達の話しでは、別件で提起しないとしても、訴訟理由の追加はあるだろうと言う。
こんなに根拠のない裁判に加えて、また、ホームページで書いていることが怪しからんとかで裁判に訴えるなんて考えられないと言うと、「根拠がないから、訴えるのだよ。覚悟しておいた方がいいよ」と激励された。
「いまや、中西さんがホームページに書いているのを止めさせるということが、彼らの主たる目標になっているんだよ」「よほど応えているのだろうね。書くのを止めたらダメだよ」。年度末忙しくて、書くのを休みたいと思うこともあるのだが、休んではいけないという忠告と受け止めた。
今回の雑感目次 A. 気になる“登院停止30日” B. 第1報の扱い方の重要さ C. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる): お休み A. 気になる“登院停止30日”
永田寿康衆院議員の懲罰動議は衆院懲罰委員会に付託され、30日の登院停止処分となるという見通しと報道されている。永田議員の懲罰の内容に特に関心はないが、30日の登院停止という言葉に引きつけられて、結局どうなるんだろうと熱心に行方を見守っている。
というのは、父が参議院議員の時に、30日の登院停止という懲罰を受けているからである。子どもの時に親から聞いた話なので、もしかしたら間違いもあるかもしれないが、予算審議の際、「こんな予算を通す野郎は」と言った、その「野郎」という言葉が議員としての品性を欠くということで懲罰にかけられたとのことだった。
父は、議員になって間もなく共産党から除名されるので、議員生活は短いのだが、その間に懲罰委員会にかけられたわけである。永田さんは、父と同じ懲罰の大きさかということで妙に気になるのである。
予算の議論は、故池田勇人氏(蔵相か?)と対決することが多かったと聞いている。池田勇人さんは数字に強く、つぎつぎと計算し数字を示して反論した。野人である父は、億とか兆とかの単位のお金に実感もないし、計算にも慣れておらず、帰宅すると悔しがっていた、数字に誤魔化されたと。
30日の登院停止という言葉を聞いて、様々なことを思い出す。それだけで100枚くらいになりそうな、様々なこと。
B. 第1報の扱い方の重要さ
最初の情報
以前にもどこかに書いたことがあるが、BSE牛が1頭見つかったというような情報から何を読みとり、どういう処置をとるべきかは、リスク管理の最も重要な課題である。上手なリスク管理には、最初の発生にどう対処するかというマニュアルが必須だと思う。
これとはやや異なるが、有害性情報もやはり第1報の扱いについて、我々はあるルールをもって臨むという態度が必要だと考えている。
環境ホルモン問題の過熱は間違いの論文からはじまった
以前にも書いたが、米国のEPAが、内分泌攪乱物質(環境ホルモン)問題が重大な危機だという判断をしたきっかけは、マクラクランらがScienceに発表した内容であると言われている。
エストロゲン作用を示すエンドサルファンとディルドリンの2種類を同時に添加すると100倍近くも活性が増強されるという結果、所謂相乗作用があると報告した。
しかし、マクラクランらの研究結果は再現できず、Scienceの論文は本人の要求で「引き下げ」られたが、一度大きくなった火はなかなか鎮火しなかった。(奇妙なことに、わが国では論文を取り下げた後も、このマクラクラン氏をシンポジウムなどに講師として招待していた。)
この例から考えても、研究者集団は第1報の正しさをどう担保するかをもっと考えなくてはいけないと思う。
ナノ材料の安全性議論
今、ナノ材料の安全性について問題になっていて、私もその研究に忙殺されているのだが、いまのナノの安全性の議論は、“まさに第1報の時代”で、論文は出てくるが、どういう方法で何を調べるべきかの議論も整理されていないから、どの結果が正しいのかが分からないという状況である。
2005年のEnviron.Sci.Technol. に掲載されたJ. D. Fortneb氏ら(V.L.Colvinを含む)の論文(論文Aとする)には、フラーレン(C60)は、水溶液中で一定濃度以上になると、大腸菌(E.coliの訳)の成長を阻害するという実験結果が報告されていた。
V.L.Colvinはこの分野では有力者であるから、この結果は正しいと思われていた。ところが、2006年のAdvanced Materials(電子版)で、海洋研究開発機構の出口茂氏らが、水溶液中に溶解したフラーレンが大腸菌の成長を阻害することはないと報告している(論文B)。
論文Aと論文Bとでは、フラーレンを水に溶かす方法が異なる。その方法が異なると、表面の電荷状態が違ってくるのだという報告もあり、そのせいではないかという解釈もある。
しかし、論文Aの方法で、試料を調製しても、大腸菌の成長阻害は見られないと言う人もいる。どちらが間違いというよりも、条件の設定が同一でないことによるものであろう。要するにまだ、こういう状態である。ナノの有害性についての研究報告は、今のところ、こういう時代のものだという認識が必要だと思う。
E.coliだから
論文Aの結果は、大腸菌の生育に関するものだから、それほど大きな社会現象を生んではいないし、また、大腸菌への影響だから、容易に追試ができる。
しかし、脳に影響を与えるとか、胎児に影響を与えるというような場合には、それで大騒ぎになり世論が形成されてしまいそうだ。
第1報には、こういう危なさがあるということ、それに対する注意が必要だと思う。
被害がでてしまう?
ただもう一方で、事実かどうか確かめるには時間がかかり、被害者が出てしまうのではないか、水俣はどうだったのかという意見があろう。これも分かる。
要は、その第1報を確かめるための時間がないと言えるほど、差し迫って大きな問題かという見極めが必要だと思う。その見極めの仕方を、ある程度整理して、知恵の箱のようなところに納めておくことができると思う。
人が直ぐに病気になるようなことかとか、有害性があるとしても、暴露量が問題だが、その暴露量はどうかとか、そういうことをまとめて判断するカテゴリーができるはずだ。それを蓄積していくことができれば、本当に知恵のある国民と言われるようになると思う。
C.損害賠償請求事件(松井三郎さんによる): お休み
余りにも忙しくて書く時間がとれません。すみません。1回休みます。
B.の記事でも出典の論文名など書きたいと思うのですが、これも後日とします。
雑感336-2006.2.28「永田議員のe-mail問題と逆解析」
今回の雑感目次 A. 永田議員のe-mail問題と逆解析 B. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる): 簡単に国家権力を使う傾向 C. 日経の記事「キャリアの軌跡」 A. 永田議員のe-mail問題と逆解析
国政調査権発動の議論が納得できない
民主党永田議員が国会でかざして武部幹事長を追及したe-mailが全く作り物だったということには呆れるが、もっと問題だと思うのは、根拠がないにも拘わらず国政調査権発動を主張する民主党幹部である。
根拠なしに、奇妙な噂とか手紙とかを持ち出して、「灰色だ」と言って、個人の資産や、金銭授受、私的事柄を国政調査権で調査するなんて、明らかに人権侵害だ。こういう前例ができることは非常に怖い。
私は、野党に対して持っているイメージがそもそも幻想なのかもしれないが、少なくとも政権党よりは人権擁護に熱心だと思っているのだが、むしろ自民党の方から、これでは人権侵害になる畏れがあると言われてしまっている。
個人の権利を守るというのは、思想信条や立場に関係なくある種のことを保護しようということだから、それはある形式をまもるということになる。
形式や約束事を無視して、あやしいとかけしからんと思う奴は、やっつけていいというのが、今回の国政調査権発動の議論。これって、別件逮捕以上にひどい。こういうことを野党の責任者が堂々と主張するなんてとんでもない。
外に現れた影響を基準に考える
私もささやかながらHPを開設し、一定の影響力を持っている。また、どこに行っても、憎まれても嫌がられても発言しようという姿勢なので、いろいろの方から情報を頂く。中には匿名のものもある。
企業がこういう排水を流しているとか、この事業はひどく環境破壊になるという予備実験の結果が隠されているとか、何々の食品に危ないものが含まれている、あの食品添加物は危ない、プラスティックには何かが含まれているというような情報である。
こういう情報は非常に役に立つ。しかし、それを直接このHPに書いたことはない。必ず確かめる。確かめると言っても、その情報提供者が信用できるかとかいうのではなく、公開されている情報や、外部での測定で確かめる。
つまり、そこで言われていることが外部に何か影響を与えているか、それは、この情報がなかったとしても証明できるかの視点で検討する。そして、外部への影響が確認されるときはじめて公表する。これが私のスタンスである。
今回のようなお金とか、汚職とかの情報はどう確かめるのか分からないが、環境や健康に関する情報は、このような方法で確かめる。
「確かめる」の上を狙う
そして、「確かめる」の上を狙う。つまり、内部情報がないところで同じような状況があれば、どういう方法で見つけることができるかを考えて、分析や解析の方法を考え、「式」にする。こうすれば、一つの内部情報がきっかけになって、内部情報が無い時や、無い所での推定ができるようになる。
このようにしてできてきたのが、私がよく言う「発生源解析」とか「逆解析」というものである。
この工場がA物質をXトン出しているという情報がある時、それでどういう影響があるかを予測するのが通常の解析、言ってみれば「順解析」である。
そうではなくて、ここにこういう自然破壊がある。ここにAと言う物質が x mg/L検出される。ということは、あの工場がXトン出しているだろうと予測をし対策を求める。これが、発生源解析であり「逆解析」である。こういう考え方で、ダイオキシンの発生源解析を行い、大気汚染や水汚染の解析を行ってきた。
内部告発を勧めるべきか?
環境問題などで内部告発は重要だし、内部告発者の身分や地位が保証されることは重要だが、これに対してもやや距離をおいている。
かつて、雑感43で以下の文章を書いた。
「このことで、故田尻宗昭さんと議論したことがある。田尻さんは、四日市公害などで、公害撲滅に辣腕を振るった、海上保安庁の役人だった。後に、東京都公害局で、やはり、公害撲滅に活躍した。
或る集会で、彼は内部告発の重要性を強調した。企業の内部の情報がなければ、公害をなくせないと彼は言い、参加者に内部告発に精を出せとはっぱをかけた。帰途、私は田尻さんに、内部告発は重要だが、それに頼ってしか公害摘発ができないのはおかしいのではないかと言った。
彼は、不思議なことをいう人だという顔をした。私は以下のように理由を説明した。
第一、内部告発は、それをする人を危険にさらす、第二に、その情報が本当に正しいか分からない、第三に、企業の中にいても、その情報がどの程度全体的な意味を持っているかは、告発者でも分からない、だから、内部告発に頼り始めると、結局自分で真実を掴むという方法を失い、誰とも分からぬ人の情報に踊らされることになるのではないか。
それに対して、田尻さんは「さすがですね」と同意を示したが、その後の田尻さんの話は、全く変わっていなかった。懐かしい思い出のひとつだけど。
ダイオキシンの発生源調査でも、私はこの方法にこだわっている。外から攻める、誰にも分かる情報から、中を推定する、だからこそ、科学が必要なのだ。
PRTRなどで、何か、企業が情報を出せば、それですべて解決というような雰囲気があるが、私はそうではないと思う。何が環境にとって重要かを知るためには、環境を、つまり外をじっくり見て、原因を探るということが不可欠である。
もちろん、これまでは、企業が隠している情報を知るために、すごい努力をしているので、そういう無駄は省けるだろう。その点はいい。しかし、その後にもっと難しい仕事が待っていることは、確かである。」
B. 損害賠償請求事件(松井三郎さんによる): 簡単に国家権力を使う傾向
◆A. の覧で永田議員のe-mailを取りあげたが、それと、この裁判の裏にある社会状況が似ているなと思う。
「事実」を重んじない。「敵」と目されれば、噂と権力を使って陥れる。そしてそれを支持するのが、人権を守る集まりである革新とか市民団体とか学会の中心的な人々という構図である。
この裁判でも、根拠もなく名誉毀損で訴えることによって、自由な言論活動が阻害されるような前例を作ってはいけないと主張するだろうなと思われる団体や集団が、あえてこのような裁判を支援する。
名誉毀損の理由として、原告(松井さん)が述べていた事実が全くなかったことが分かっても、平然としていて、法廷に現れると私に向かって、本人と弁護人が大声で「謝れ謝れ」の大合唱という事態には、ほとほと呆れるが、こういう個人はいつの時代にもいる。
しかし、それを「市民の声を聞け」とか「個人の権利を」とか主張している人々の集団が支持するという構図は、昔はなかったのではないか。従来の二極構造崩壊の象徴ではあるが、そう言っても何も解決しないし、怖いなと思う。
「噂」に頼って問題提起し、世論の支持を集め、そこで国家権力の出動というのは、そっくりだと思う。
◆平成17年9月21日付けの中西側反訴状に誤記があった。
「本件の場合、自らの発言内容は、発言した本人が一番承知しているはずである。特に反訴被告が主張するような詳細な説明をシンポジウムで行っていないことは、十分自覚しているはずである。
それにもかかわらず、反訴被告は、本訴原告準備書面1にあるように、事実とは全く違う発言内容を行ったものと偽って、反訴原告の批判が名誉毀損に当たるとして訴訟提起したものであって、反訴原告には主張する権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くことを知り、あるいは容易に知り得たのにあえて訴訟提起したものであるから、本訴提起は不法行為を構成すると言うべきである。」
赤字の反訴原告は、反訴被告の間違いである。本訴の原告は松井さん、反訴原告は中西である。あまりにもごちゃごちゃして間違ってしまった。正式には後日訂正予定であるが、とりあえずここでお知らせ。
C. 日経の記事「キャリアの軌跡」
日本経済新聞「キャリアの軌跡」(2006年2月6日夕刊)にインタビュー記事が掲載されました。
日経ナビのHP内で公開されています。リンクは下記です。
http://job.nikkei.co.jp/2007/contents/work/career/NIRKDB20060206NKE0352.html