300年以上の歴史を持つ豊中市の上新田天神社。
本殿は豊中市の有形文化財にも指定されていて、今年も初詣には大勢の参拝者が訪れました。
(Q.どんな願いを?)
<参拝者の男性>
「家内安全と娘の縁談」
<参拝者の男性>
「景気の回復ですね。それと東北の早い復興をお願いしました」
ところが、今年の初詣の風景はいつもとは違うようです。
境内の脇では、署名集めが行われていました。
<上新田天神社 氏子総代会 山田昭治会長>
「『見えないようにしてくれ』と言っているが、あきませんわ。なかなか(業者が)『うん』と言わない。頑張るだけ頑張るということで、後は神頼み、まさしく」
署名活動を行っているのは、神社の神事などをとりまとめる氏子総代会の会長、山田昭治さん。
実は、神社のすぐ裏に計画されているマンション建設に疑問を抱いています。
<氏子総代会 山田昭治会長>
「先人がずっと守ってきたこの景観、この森を、ニュータウンの憩いの場でもあったので、その景観を次の世代になんとしても残したい」
山田さんの説明によると、上新田天神社の北側には、もともと広大な竹林が広がっていました。
所有者は地元の住民ら13人でしたが去年6月、共同で宅地造成することになり、一部を業者に売却。
その場所に業者側は、13階建てのマンションを建設することになったのです。
<氏子総代会 山田昭治会長>
「半年でこれだけ進んでいます」
去年、夏頃から造成工事が始まり、すでにおよそ4ヘクタールが更地になっています。
では、この場所にマンションが建つと、神社の景観はどのように変わるのでしょうか。
業者が市に提出した資料をもとに再現してみると・・・
神社の本殿のすぐ真上に、マンションのベランダ部分が丸見えとなります。
宮司の中村暢晃さんも困惑を隠せません。
<上新田天神社 中村暢晃宮司>
「天神社の原風景、癒しを求めてくる人、信仰を持ってくる人に対して、本殿の裏にマンションを建ててそれを拝む形は誰も望んでいないと思う」
参拝者らの反応は―
<参拝者の女性>
「威圧感がある」
<参拝者の女性>
「神社の上に高いものがあるのは感じがよくない」
<参拝者の女性>
「時代の流れでやむを得ないのかなと思う」
と意見は様々ですが、中村さんは業者側の対応に強い不信感を抱いています。
造成工事が始まると直接聞いたのは去年7月。
業者が安全祈願して欲しいと伝えてきたのです。
<記者>
「マンション建設でもめている神社に、安全祈願はお願いしないと思うが?」
<上新田天神社 中村暢晃宮司>
「行政に許可をもらえばなんとでもできる、という意識があったと思う。そこを我々は問題視している」
さらに・・・
<上新田天神社 中村暢晃宮司>
「ありました、これですね」
「(去年)1月25日に『環境保全審査会』というのがあった」
「環境保全審査会」とは、豊中市の条例に定められた委員会で、大規模な事業を行う際に専門家を交えて環境への影響を検証する場所です。
その結論をもとに市長が業者に対して、計画の変更などを要請することができます。
ところが、造成に際して業者側が専門家に説明した議事録には、次のような内容が残されていたのです。
「出てきた話は水の処理と交通の問題で、景観についてのご意見はありませんでした」(議事録から)
これについて、造成を行った業者に問い合わせると・・・
<土地造成関係業者・電話>
「基本的には事業主体が全く違う。(我々)区画整理事業は土地しかいじれません。(景観などを)答える権限もないし、立場にもない」
建設予定地を造成する会社とマンションを建てる会社は別々で、答える立場にはないというのです。
<上新田天神社 中村暢晃宮司>
「造成工事と建築は一体感を持ってやって、はじめて造成を許可するのが大切。造成終わった後は、マンションの建築確認がおりてしまう。造成工事を許可する前に、建築のことも一緒に考えて議論して欲しかった」
しかも、マンション建設の予定地となった竹林は豊中市が貴重な原風景で、後世に残したい景観として「とよなか百景」に選定していた場所だったのです。
では豊中市は、どのように考えているのでしょうか。
<豊中市環境政策室 滑田悦子さん>
「別に違法ではない 豊中市としてもできるだけ残してほしい。『雰囲気を残せるようなものを作ってほしい』というお願いはしている」
実は、隣の吹田市でもマンション建設をめぐって、業者と神社側が激しく火花を散らしていました。
以前、「VOICE」で取り上げた垂水神社では、境内のすぐ横にマンションが計画されています。
反対署名は1万人を超えていますが、業者は市に建築確認の申請を進めています。
景観を巡る神社側とマンション業者の争い。
それは、裁判にまで発展したケースもありました。
<宇都宮二荒山神社 助川通泰宮司>
「今にも倒れて来そうな雰囲気…」
豊中市の神社のすぐ裏に計画されたマンション建設。
神社側は本殿を見下ろすのは景観を損ねるとして、業者側に高さを抑えるよう求めていますが、解決には至っていません。
同じような景観論争が、裁判に発展したケースが栃木県宇都宮市にありました。
創建は古墳時代にまで遡るという宇都宮二荒山(うつのみやふたあらやま)神社。
この神社の名前をとって、宇都宮市が誕生したという由緒ある神社なのですが・・・
<記者リポート>
「たくさんの参拝者で賑わう神社ですが、そのすぐ真上にはマンションが建っています」
おととし完成したこのマンションは、高さ82メートル、24階まであり、神社の敷地のすぐ隣に建っています。
上の階のベランダから外を見てみると―
境内を見下ろすことができます。
宮司は、この高層マンションを見る度に胸が痛むといいます。
<宇都宮二荒山神社 助川通泰宮司>
「我々市民の立場は弱いものだなと。もう歯がたちませんでしたからね」
実はマンション計画を巡っては6年前、周辺住民らが景観を損ねるとして建築を許可した県を相手取り、建築差し止めを求める裁判を起こしました。
ところが、宇都地裁は住民側の訴えを退けました。
「二荒山神社は歴史的にも景観的にも、重要な価値を有する神社である。しかし、条例等、高さを制限する基準がないため、市民の利益を侵害しているとは言えない」(宇都宮地裁判決)
その後、判決は確定、マンションが建設された後、新たな問題が出てきました。
<参拝者の2人連れ夫婦>
「前はもっと日当たりがよかった」
「前は建物が低かった。日当たりがよかった」
マンションの影響で、境内は時間帯によってすっぽりと影に覆われるようになったのです。
<宇都宮二荒山神社 宮司>
「場違いでなかったかなぁと。先人がこういうところが神社に一番ふさわしいところで神社を建てたんですから、そういう歴史や先人たちの考えを全て潰してしまった」
同じように、法的には問題がないとされる、豊中市の上新田天神社のマンション計画。
造成工事は着々と進み、神事に使っていた松も伐採されました。
「VOICE」の取材に対し、マンション建築業者は「神社の要望に答えることは難しいが、今後は協議もしながら計画を推進していく」としています。
<上新田天神社 中村暢晃宮司>
「開発とか経営はいいけど、皆さんに合意をえた上で立派な建物が建って、地域の人に受け入れられる環境作りを事業主にのぞんでいきたい」
双方が納得する妥協点を見い出すのは容易ではありませんが、ひとたび失われた景観は戻らないだけに、行政も含めた慎重な話し合いが求められます。
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