つなぐ 希望の木
災難を乗り越えてきた木々を、都内に訪ねた。
【社会】「津波に強い浮く車」 自身も被災 メカニズム研究2012年2月10日 13時54分
東日本大震災で車ごと津波に流された経験を持つ、元トヨタ技術者で石巻専修大学(宮城県石巻市)理工学部教授山本憲一さん(62)=愛知県岡崎市=が「津波に強い自動車」づくりに取り組んでいる。自動車の水中浮力に着目した珍しい研究で、自らのキャリアと被災体験を生かそうと意気込んでいる。 (中山高志) 山本さんは昨年三月十一日午後三時ごろ、宮城県多賀城市の国道で乗用車を運転中、津波にのみ込まれた。車は回転しながら押し流された。開かなくなった窓ガラスを手で割って脱出。木にしがみつき、泳いで近くの店に逃れた。 かつてトヨタで、三十年近くエンジン開発などに従事した。「津波時にもっと人を救える車はできないのか」。四月に大学に戻り、同僚教員と研究に取り組むことを決めた。 石巻市と共同で八月から、自動車ごと津波に流された経験を持つ十五人を調査。その結果、自動車が想像以上に長い間水に浮き続け、人命救助の一因となった傾向が確認された。中には、夫婦が水に浮いた車を木に縛り付け、水をかきだしながら車内で一晩を過ごした事例もあった。 ただ、自動車は従来「浸水時は数分で沈む」ことが常識とされており、今回も、二分程度で沈没したケースもあった。このため、車が長時間浮力を保つ詳しいメカニズムは分かっていないという。 警察庁によると、道路交通法や交通教則では、自動車が水没した際に運転者が取るべき行動についての規定はない。日本自動車連盟では、自動車が冠水して車内に閉じこめられた場合は「窓ガラスを割って脱出を試みる」などの対処法を示しているが、津波を想定した注意喚起は実施していない。 山本さんが四月から始める実験は、窓を閉め切った古い自動車を洪水調整用の池の底に置いて水を流し込み、津波を再現する取り組み。車が浮き始める時間や車内への浸水経路などを調べ、長時間浮力を確保する構造や機能を探る。また水中での脱出を容易にするため、水没時でも機能する電源のあり方も調べる予定。研究結果はメーカーに提供するなどして役立てる。 山本さんは「水没した車が浮く点に着目した研究は例がない。元自動車エンジニアとしても、被災者としても役に立ちたい」と話している。 (東京新聞) PR情報
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