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2012年1月16日 (月)

最良の斧の柄とは?

ネットで薪ストーブ店のホームページを検索し、斧(欧米製)の紹介記事に目を通す。

西洋斧の最大の特徴といえば曲線美を誇る柄。その柄の材質は、大抵の場合「ヒッコリー材」を詠っている。

アメリカ原産の落葉広葉樹・ヒッコリー。団塊ジュニアなつかしの「シートン動物記」では、その実がリスの大好物として記されているクルミ科の樹木。わが国でもクルミ材は高級家具材として珍重されるが、欧米でもクルミ材、そしてヒッコリー材は強靭さを買われ、酷使される斧の柄に使われているのだ。

斧の柄に用いるヒッコリー材は、「二次林育ち」。つまり元の原生林が伐採されるか山火事に遭うかして消失したのち、自然に再生した「新しい森」で育った木のものがよろしい。

そして、丸太の中心の赤い部分「心材」ではなくて、周囲の白い部分「辺材」を選ぶこと。

Fig035

「ヒッコリー」 「二次林産」 「辺材」。

これが「素材」の鉄則。なおかつ、年輪が詰まったきめ細かいものがよろしいが、1インチ(訳3cm)の間に

材料を手に入れたら、次は「木取り」。木目の流れをよく読んだ上で、最良の形に柄を切り出す。木取りを誤った作られた柄は過激な使用に耐えられず、折れて大事故につながってしまうから恐ろしい。

Fig036

柄は必ず、一番上の図のように「木目が柄の流れと平行」な木取りにすること。下図のような柄と木目が直角な木取りにすれば激務に耐え切れずポッキリと折れてしまう。もっともこんな「贅沢」な木取りを許されるヒッコリーの巨木を手に入れられるはずも無いのだが。

そして、断面の木目は左図のように、刃の流れと木目が平行であること。逆ならば柄は脆く、やはり事故につながりかねない。

Fig037

左側が好ましい木取りの柄。右は木目が刃と直角になるため、使用に耐え切れず折れる恐れがある。

さて、上記の如く木目の配置に気を配って「最良の柄を持つ斧」を探し出そうとしても、重大な障害が待ち構えている。それは「塗装」だ。斧の柄を水や汚れから守るためにニスを塗り、あるいは緑一色の山中で無くした際でも目立つように、赤い塗装をほどこす。実際、真っ赤に塗られた斧の柄は山中ではおもいっきり自己主張してなくし物を避けるが、斧の木目を隠してしまう。

見つけ出しやすい斧は、柄にどんな材が使われているのか…

重さ6ポンドの刃に見合った柄の長さは32から36インチ(90cmほど)。もっとも細かい作業に使う手斧は柄が短く、伐採や薪割用の斧は柄が長い。

伐採用のシングルビットアックス(片刃斧)はfawn's foot(小鹿の脚)とも称される曲線美を描き、両側から力が加えられるダブルビットアックス(両刃斧)か薪割り専用の刃の厚い斧は直線的な柄を描いている。

柄の断面は、八角形か楕円形が握りやすくて使い良い。

Fig038

軽い斧は柄が短く、重い斧は柄が長い。

昨今、幅を利かせているグラスファイバー製の柄は強靭で、まず折れることが無い。

しかし手に伝わる温かみ、汗など余計な水気を吸い取る長所、そして自製できるという汎用性を考えれば、木製の柄に軍配が上がるだろう。

現在、日本に流通している西洋斧のヒッコリー柄では、やはりグレンスフォシュ社の製品が白眉だろうか。握った手に伝わる感触はサラリと優しく、手袋を嵌めようと思いつかないほど。なじみよく、充分に仕事をこなしてくれる。

2012年1月10日 (火)

斧の柄を選ぶ。

どんなに切れ味の良い斧の刃を手に入れても、それに「柄」がついていないことには何もできない。そこで、「斧の良い柄」の話とまいりましょう。

好ましい材料で柄を作り、最良の具合に取り付けてこそ仕事がはかどるものです。

Fig031

斧の刃を上に向けて地面に置いた際。刃と柄の中心線が一直線になっている。

これこそが最良の取り付け方。

Fig032

そして、一般的なシングルビットアックス(片刃斧)ならば刃を水平な地面に当てたとき、刃の前部が地面に接すること。

パルプウッドアックス(パルプ材用の斧?)ならば刃の正中線が地面に当たること。

Fig034b

丸太の側面を剥ぐ際に用いられるブロードアックスならば、柄が木に引っかからないように湾曲させること。

いずれにせよ、かつて斧は刃のみで売られておりました。それを買った人々は自分で木を削り、自身の体格や体力に見合った柄を作り、刃に嵌めて使っておりました。しかし1920年代以降は大量生産の柄が広まり、斧は出来合いの柄をはめた上で売られるようなります。

人々は何の疑いも無くそれら柄つきの斧を購入し、手の大きさや腕の長さ、あるいは体力と齟齬があったとて、疑いも無く使用している。そして柄が折れてしまえば、まだ使える刃を物置に放り出してホームセンターで新たな斧を買い求める。

これではいけない。

折れた柄の先に残された古い刃は、鍛冶職人が丹念に鍛えた自慢の1品。柄を新たにすげなおしさえすれば、ホームセンター斧よりよほど立派な働きをするだろう。

斧の刃に新たな柄をすげなおす奇特な方は、西洋斧の本場アメリカでも本職の樵くらいだというのが悲しい。

実際、このブログをいま書いている私も古道具市にて古い斧を購入した経験がある。4000円の斧は、刃は錆びてガサガサ。柄はヒツの中で腐ってボロボロ。

そこで刃を磨ぎなおし、腐った柄を取り外す。そこに2000円で買ったタモ材を削り上げて作った「西洋式」の柄をすげてみれば…

見事に甦りました。

新聞紙の上に載せて刃を引けば一気に5枚は切れ、太い孟宗竹に半分切り込めるほどの切れ味を誇る。

下手にホームセンターで中国製の安物を買うより、ヤフオクで古斧を手に入れて再生すべきか…

2011年10月 3日 (月)

斧の時代の終焉

アメリカにおいて斧を大量生産しているメーカーは、コリンズ社、やマンエッジツール、ケリー、アメリカンツールカンパニーなど。いずれも鍛冶職人の手工業だった斧作りが、大規模な生産ラインへと発展した。鍛冶屋の親父がごつい腕で握る鎚の一打ち一打ちが、巨大な動力ハンマーの連打へと様変わりする。

アメリカにおける斧の研究と製作技術は19世紀に最盛期を迎え、全米の風土やそれに伴う植生、さらに使用目的に応じて数百種類もの斧が生み出された。

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http://www.youtube.com/watch?v=PcEto_Q8MlY&feature=related

(1947年、カリフォルニアにおけるセコイアの巨木の伐採風景。斧や手挽き鋸作業の中に、動力鋸が一部で使われている。)

1850年代から1950年代の100年間にわたり、製造と使用のピークにあったアメリカ斧。その一方で1870年頃に伐採用の鋸が開発され、伐採時における斧の役目は「受け」を切り込むのみとなる。

さらに1960年代になれば本格的に「チェンソー」が普及し、旧石器時代より約1万年、人類の生活とともにあった由緒ただしき道具・斧は完全にお株を奪われた格好となってしまった。

仮に今現在、英語圏におけるインターネット検索で「ax」「axe」「axes」と打ち込もうものならば、斧よりもギターに関するページがヒットするとか。

しかしながら、今なお少数の職人や好事家に愛好されるのが斧である。排気ガスにまみれた唸り声よりも、はるかに軽快な音を立てて木を刻みこむ。なおかつ、環境に与える負荷が少ない。それを持ち上げる人力さえあれば、人力そのままのスピードながら役割を果たしてくれる。

人類が宇宙にコロニーを築く時代になろうとも、人間の装備に含まれるだろう斧。

斧が滅ぶ時は、人類が消滅するときだろうか。

Fig030

現代の鍛冶屋が復元した、原住民との交易用斧。ハート型の透かしは、バレンタインデーの贈り物に最適?

2011年9月27日 (火)

アメリカ斧の歴史 その7 ちょうな

ちょうな

漢字では「手斧」あるいは「釿」と表記される日本古来の大工道具であります。鍬に似た形状で、主に木材の表面を削って形を整えるのに用いられます。鋸が無かった飛鳥時代~鎌倉時代においては、角材を仕上げるのに欠かせない道具、この時代における大工仕事の象徴でありました。

さて、ちょうなに類する木工用具は、古代エジプトにおいてすでに存在し、西洋文化でも連綿と使用されつつ北米大陸に伝来したのでありました。

それが西洋式のちょうな、アッズ(Adz)であります。

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船大工用のちょうな

Fig027b

鉄道工夫用のちょうな

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現代彫刻家のちょうな

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ダグラスの大工のちょうな

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2011年9月 6日 (火)

アメリカ斧の歴史 その6  木工以外の斧

斧の主要な使い道といえば、伐採、薪割り、製材。

あるいは武器。平たく言えば殺人用具。

しかし、それ以外の目的で使われる斧というのもございます。

まず挙げられるのが、「アイスアックス」。

Fig023

19世紀のアイスアックス。

文字通り、氷用の斧。ジャマな氷を打ち割り、あるいは大切な氷を切り出すために用いられます。そういえば冬山登山には欠かせない手道具「ピッケル」もアイスアックスと申しますね。思い出せば、北海道の生活には欠かせない「氷割り用のツルハシ」。これも片側を斧の刃のように削ってありました。素性のいい廃材なら、これを使って割ることも可能です。

木を切り、水(氷)を削る斧。お次は土

これは、庭師さんが芝土を切り出すのに用いた斧。

Fig024

根が絡みいって固まった土。あるいは泥炭をスパスパと切り出す。

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現在でも南米ボリビアの巨大塩湖・ウユニでは、斧を使っての岩塩切り出しが行われております。

土とくれば、今度は火。

Fig025

刃の反対側が鍬形になったブラスキー斧は、燃え上がる木々を切り払い、土を掛けて山火事を消す作業に使われます。

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消防用の斧といえば、ピッケル方の方がポピュラーですが。それにしてもいい体。

最後に屠殺用の斧。

Fig026

今現在、屠殺作業といえば豚は電気ショック、牛は屠殺銃で額を撃った後、脊髄にワイヤーを通してからの放血。ある程度は機械化されております。

しかしそれ以前は、牛の額に手作業で一撃を加え、昏倒させた後に喉を裂いて止めをさしておりました。

この斧の形状から推理するに、まず刃の峰の出っ張りで牛を殴って昏倒させた後に、刃で止めをさしてしたのでありましょうか。

ただ、このような「曲線柄」は両側から力がかかる用途に向かないのですね。

そこがまた疑問であります。

世界各国の「屠殺」の現状を追ったルポタージュ。まさに名著です。

2011年8月16日 (火)

高田松原の松の薪

津波で倒された陸前高田の松原を、京都五山の送り火として焚き上げる。

しかし市民側から不安の声が上がり、一度は中止。

全国的な非難を浴びて再度実行の手はずを整えれば、結局セシウム検出でおじゃん。

成田山が引き取ればまた苦情の山。

放射能が、日本人の暗部を一気に透かし出した格好であります。

さて、「高田の松を送り火に」と発案したのは岩手県民でも府民でもなく、被災地から遠く離れた大分県の陶芸家。

その彼のツイッターが存在しております。

http://twitvideo.jp/05qAJ

これを見る限りでは、彼が使っていた薪割り斧は

「グレンスフォシュ 大型薪割り」

「グレンスフォシュ 小型薪割り」

このいずれかであると思われますね。

被災地で振られた薪割り斧の心は通じなかった。

断ち割られた丸太から湧き出したのは、人間不信だった。

そんな日本の夏。

2011年8月 9日 (火)

アメリカ斧の歴史 その5 ハチェット(手斧)

大は小を兼ねると申します。しかしながら渾身の力を込めて大木に叩きつける巨大な伐採斧や、刃渡り20cmで大木の側面をガバッと掻き取る製材用マサカリを、繊細な作業にまで持ち込んだらどうなるか。

仕上がりはガタガタのガサツ。下手をすれば身体も損なってしまいます。さまざまな意味において。

小さな作業のときにこそ使いたいのが、片手で扱える手斧。英語ではハチェット(Hatchet)であります。

Fig019

かまどの片隅に常備して、大きな薪を割り裂いての焚き付け作り。

狩りに持ち込んでの、獲物の解体。

あるいは丸太小屋建設時の、ノッチ削り。手斧の中には刃の反対側をハンマー状に加工しているものもあり、一層使いでが増す。

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手ごろな大きさだからこそ、手ごろに働いてくれる手斧。

薪が燃料の中心を占めていた時代には、一家に一本だった手斧。

だから…

明治大正昭和初期に起こった殺人事件において、出刃包丁や細引きとともに凶器の上位を〆ていたりするのだこれがw

良い子はそのような目的で使わないように!

2011年7月19日 (火)

アメリカ斧の歴史 その4 西洋式のまさかり「ブロードアックス」

斧に関する基本的な疑問として上げられる、

斧とマサカリは何処がどう違うのか

しかしこの質問に対する回答は難しい。

「大型の斧をマサカリという」場合もあれば、「丸太の側面を削って角材作りに使う、『はつり斧』のことをマサカリという」例も見られるからだ。これら回答の食い違いは、地域、方言としての差に由来する。

薪割り専用の刃が分厚く歯渡りが狭い斧であっても「大きいからマサカリ」と呼ぶ地域があれば、「小さいけれど、刃渡りがあるからマサカリ」と称する地方など全国百家共鳴状態。

しかし標準語的に回答するならば、「まさかり」とは「丸太の側面を削って角材を作るときに使う、大型の斧」と説明すれば間違いにはならないだろう。

さて、日本語では「はつりよき」「刃広」そして「まさかり」と呼ばれる、「丸太の側面を削って材木を作るための、刃渡りが大きな斧」をさす英単語は唯一つ。直訳すれば「広い斧」になる

「Broad ax 」(ブロードアックス)である。

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やはり日本においての用途と同じく、丸太からの角材削り出すなど建築において威力を発揮してきた。そもそも刃渡りは20センチ以上はあるゆえ、一振りで数十平方センチメートルの木肌をバッサリとそぎ落としてしまう。

Fig002

このブロードアックスをアメリカ大陸に持ち込んだのは、ドイツ人入植者である。彼らが持ち込んだブロードアックスは、その形から「The goose-wing broad axes」(ガチョウの翼型の斧)と呼ばれていた。東部のペンシルバニア州を嚆矢として、開拓の進展と共に北米大陸全土へと広まっていくのである。

下図 18世紀のガチョウの翼型斧

Fig016

中世ヨーロッパのガチョウの翼斧

Fig017

ところで、アメリカ式のまさかり「ブロードアックス」は「片刃」である。つまり刃がV字型なのではなく、日本の刺身包丁や鉈と同じく、r字の刃なのだ。片刃の刃物は木に対する食い込みがいいが、欠点がある。

「右利き」と「左利き」、使い手によって刃の向きを反対方向にしなければならない。つまり使い手を選ぶのだ。

そこで鍛冶屋は意外な工夫を凝らした。

柄を差し込む穴「ヒツ」を貫通型にして、どちらからも柄を差し込めるようにしておく。こうしておけば、買い手が自身の利き手を考えて調整してくれる。品物の少ない、人跡未踏の開拓地に合致した上手い考えではないか。

広いアメリカ大陸全土に伝わった、ブロードアックスは、それぞれの地方風土や産業に応じて進化を遂げていった。

18世紀 ペンシルバニア式

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19世紀、ダグラス・ニューオルレアン式

Fig018b

20世紀、枕木削り用のブロードアックス

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20世紀、カナダ式ブロードアックス

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19世紀、船大工用のブロードアックス

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製材所も材木商人もいない深い森の中、樵や開拓民たちは斧一本で木を伐り倒し、荒々しい丸太の側面を削りあげて柱や梁、板を作り上げ、家を立ち上げてきた。

開発が進み、製材所の大鋸で引き割られた木材や板が入手できるようになっても、その用途は失われていない。現在においても、森好きの好事家が「ログハウス」を造り上げる現場ではブロードアックスがまま見られる。その巨大な刃の大きな斧を手にしたログビルダー達が丸太にまたがり、手際よく側面を削り落として角材に加工していくのだ。

ブロードアックスは、人が製鉄技術を手にしたのちの2000年来に渡り使い続けられている歴史のある道具でなのであーる。

2011年7月11日 (月)

アメリカ斧の歴史 その3 「両刃斧」

アメリカ斧の典型例といえば、両側に刃を持つ「両刃斧」である。

ホラー映画では殺人鬼が操るメインウエポンとして親しまれている?この両刃斧は、西洋においては石器時代、さらにギリシャの青銅器時代より使用されている、大変歴史のある刃の型である。バタフライ型の大斧を操るゲルマン民族はローマを恐怖に追い落とし、騎士は宿敵を鎧ごと叩き斬る非常なる武器。

しかし伐採専用としての両刃斧は、意外にも新顔の道具である。はじめて「伐採用」としての両刃斧が成立したのは、1850年ころのアメリカ東部・ペンシルバニア州。その後、白人入植者によるアメリカ大陸蚕食にともない徐々にアメリカ北東部に普及し、西部開拓が本格的になった19世紀広範に至って太平洋岸地域にも持ち込まれた。

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樹齢数千年、直径数メートルの巨木が林立するアメリカ西海岸の温帯多雨林に至り、峰打ちの慈悲など持ち合わせない両刃斧はその本領を発揮するのであーる。

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ああ…どれだけの巨木神木が無慈悲な斧の手にかかって悲劇的な最期を遂げたことでありましょうや。

さて、疑問。

シングルビットアックス(一般的な片刃の斧)とダブルビットアックス(両刃斧)とでは、どちらが実用的なのか?

これに関しては、本職の間でも意見が分かれる。片刃斧は刃の反対側を鎚として代用できる。薪割りの際はクサビの頭を斧の峰でブチまくれる。一本で斧とハンマーを兼用できるのがシングルビットアックス。

一方で両刃斧は刃のそれぞれの研ぎを換えることで、伐採できる樹種の幅が一層広がる。柔らかい針葉樹は鋭利に研いだ刃で。硬い広葉樹は鈍くとも頑丈に研いだ刃で。ふたつの刃を持ち、一本で2度オイシイのが両刃斧だ。しかも意外な長所としてあげられるのが、その「T字型」の姿態である。

樹木の伐採をするときには、まず斧で徐々に幹をえぐる。その途中に深くえぐった伐り込みに「T字型」の頭を差し込むことで、木の倒れてくる方向を予測できるという。これはなかなかにうまい考えではないか。

Fig085

両刃斧はアメリカの営林署に当たる機関で専門的に採用されているが、片刃斧の人気も一方で高い。丸太きりの早さなどで競う「樵選手権」で使用される斧は、伝統的に片刃斧である。

ともあれ、この翻訳記事の基原稿によれば、「シングルビットアックス」は専門的な切断工具であり、「ダブルビットアックス」は汎用性のある切断具だということだ。

ちなみに私自身の体験として言えば、「伐採」に限って言えば片刃斧よりも両刃斧の方が使いでが良い。左右にバランスよく刃が配置された形ゆえ、振る際にブレを生じさせず疲れにくい。刃がふたつあるという意味でも、研ぎの回数を減らせ一気に切り込める利点がある。

でもまず薪割にはむかないね。峰の無い形ではクサビを打ち込めず、振り上げどころまちがえたら…

顔面真っ二つ!

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2011年7月 2日 (土)

アメリカ斧の歴史 その2 「ヨーロッパ斧がアメリカ斧に進化したとき」

15世紀後半に西洋人によって再度「発見」されたアメリカ大陸。

それから2世紀のうちに、開拓者精神に溢れなおかつ貪欲な白人は広大な大陸全土に分け入った。しかし彼らの目の前に広がるのは、先住民の石器しか知らない原始の大森林である。ヨーロッパから持ち込んだ斧は、いわば管理されたたおやかな森林を相手にするのがせいぜいの「優男」に他ならない。こんな斧には、巨木の伐採は荷が重過ぎる。

かくて、開拓民は斧の「肉体改造」を始める。薄くて細長かった刃を、重く、厚く鍛えなおす。細くて直線的だった柄を、曲線を描いた柄に作りかえる。その適格な改良は予想外に斧の威力を高めた。武骨な刃は巨木の幹に楽々と食い込み、なおかつ「曲線柄」は腕に伝わる衝撃を分散してくれる。こうして完成された粗野で武骨なアメリカ斧は、一説によればそれまでのヨーロッパ斧の1.5倍の威力があるという。

Fig012

新大陸で新たな武器を手に入れた白人開拓者は、西へ西へと馬車を進め、森を開き、沃野に変えていく。

その一方で幾多の先住民族が銃器や伝染病、そして鉄器に倒れていったのだろう。インディアンが馬や鉄器、酒の代わりに払った代償はあまりにも大きかった。

かくて、全土が白人支配化に置かれたアメリカ。しかしアメリカは広い。それぞれの地方で気候が異なれば生える木も異なり、斧の用途も細分化される。

各地の村落で実直に仕事をこなしていた鍛冶職人は、顧客の希望にこたえてその地における最良の刃型を生み出していく。

Fig009

広大な国土と大森林を舞台に、斧を数十通りにも進化させたアメリカ。

ホラー映画で気持ちいいくらいに斧を用いてくれるアメリカ。

トマホークミサイルで世界を一方を支配するアメリカ。

まさに斧の強大国と言えよう。

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