採用情報

I 種採用職員(本省勤務)の声

平成19年10月

(写真)中村仁威

中村仁威(なかむら きみたけ)
国際法局経済条約課首席事務官(平成4年入省)

(「日本」を主語に語っていく日々)

 2001年の秋、あの9.11テロの直後、テロ対策特措法を担当していた私は、深夜の帰宅途中、「日本はどうすべきなのか」と自らに必死に問いかけている自分に気付いてハっとしました。日本の行く末という、普通は考えもしないことを自分自身の問題として真剣に考えていることに自分で驚いたのです。

 その後も日本は、イラク問題など大きな課題に直面しました。その都度必死に考え、思いついたアイディアの一部が、日本政府の政策に反映されていく。外交官の面白さの一つは、おそらくこの点にあると思います。しかも日本は、200近くある国家の中で、ずば抜けて目立っている国です。英国放送協会(BBC)他が06年に行った国際世論調査で、世界に好影響を与えている国の筆頭に日本が挙がりましたが、世界から見た日本は、日本のメディアで報じられる姿とは異なり、実に魅力的で存在感のある国であるようです。となると、自分の努力、ひいては日本の努力は、決して独りよがりではなく、責任ある国の責任ある行動ということではないでしょうか。このやりがいを思えば、霞ヶ関名物の残業も早朝・休日出勤もへっちゃらさという人は、私を含めて多いと思います。

 今の日本には、外国との接点を持つ職場は数限りなくあります。しかし、外務省は、法律で日本政府の対外代表権を与えられた只ひとつの組織であり、世界における日本の振る舞い方を包括的にデザインし、実行に移すという、実にユニークな役割を担っています。日本政府が世界との関係で何かを動かしているのが見えたら、その陰では、きっと私たちの仲間が中心的役割を担って走り回っているでしょう。

(最高度の知的チャレンジの場)

 しかし、このような職業であるが故に、当然、仕事の中身は難しくなります。たとえば、日本への資源輸送路のそばにある某国の不安定化を食い止めなければならない、しかし、その国は日本の重要な政策に反対し、関係が良好ではないといった状況があるとして、日本はどうすべきなのでしょうか。他人事として意見を言うだけでも難しい問題なのに、外交官である以上、実現可能性のある設計図を書かなければプロとは言えません。政府開発援助(ODA)、人員・部隊派遣、他国との協力、ソフトカルチャーによる影響力、日本企業の優秀な技術などをどう組み合わせて解決するか。国民にどうやって理解してもらうか。さらに、大使館においては、耳障りの悪い話でもうまく伝えられる人脈は構築してあるか…。

 難解極まる方程式を前に、歴史に教訓を求めつつ、社会常識に合致した解を探すといったらおわかりいただけるでしょうか。テロとの闘い、近隣国との関係、気候変動問題におけるリーダーシップ、途上国の開発問題など、世間では誰でも一家言持っていて、単純な解が見つからない。外務省が常に最善の解を即座に提供できていると考えるのはおこがましく、毎日が試行錯誤の連続です。

 しかし、問題が難しいほど、個々人の才覚で解決の糸口を見つけられるチャンスが隠れているものです。「オレ(ワタシ)に任せろ!」と思う方は、是非外務省の門を叩いてください。一緒に悩んで、勉強して、難問を乗り越えていく楽しさを味わっていただきたいと思います。

(ゆっくり育つキャリアならではの良さ)

 最近の就活では、入社後すぐに「やりがいのある」仕事を任せてもらえることがポイントだとよく聞きます。確かに、球拾いばかり長年続けさせられてはたまりませんね。しかし、本当に入社1〜2年で主力として活躍できるのであれば、その会社に10年後も学べることは果たしてどれだけ残っているでしょうか?

 私が入省した頃でも、条約の締結を一から担当するなど、大きな仕事を任せてもらえましたし、7〜8年目からは、テロ対策特措法やイラク特措法の案文作成への参加、在外公館を日本企業支援の拠点にするというアイディア、麻生元外務大臣のイラク電撃訪問の実現など、刺激的な体験をしてきました。決して球拾いばかりやらされたわけではありません。

 しかし、15年経った今でも、傑出した先輩外交官を見ると、「こりゃ、ゴールは遠いなぁ」と焦りを覚えます。彼らの、危機的な局面で法的なアドバイスを次々と繰り出せるノウハウ(法律家としての能力)、どんな微妙な外交交渉でも涼しい顔をして乗り切れる最高の語学力と精神力、国内政治指導層の信頼篤く、外国と約束してきたことを日本国内できっちり実現できる能力(国内の実現力)、世界各国の指導者層を一瞬で魅了してしまう識見と人格などは、一朝一夕で身に付くものではないからです。そしてその自覚は、読む本の種類、休日の過ごし方、友人づきあい…とあらゆる面に影響を与えずにはいられません。

 これらの資質のそれぞれは、他の職業でも重要なものであり、どの分野にも偉大なリーダーがおられます。しかし、外交官の場合、国を代表して外国と交渉し、その成果を国内で実現するという任務の特性のゆえ、これら複数の資質をジェネラリストとして一人で同時に身につける重要性が殊のほか高いと言えます。専門に分化した社会では数少なくなった「偉大なるジェネラリスト」というプロフェッショナルを目指す途、と言えるかもしれません。

 ちなみに、役所ということで学閥への心配も多いと聞きますが、外務省に関する限り、職業の特性上、学歴で扱いを変える意味はありません。外交は、18歳の時の学力(=大学名)で選抜しておけばよいような簡単な仕事ではないからです。ですから逆に、いくら立派な学歴を持つ人でも、まったく油断できません。要は人間(男、女)として、どれだけ人格・識見・能力を高めることができるかが大事です。もちろん、性別や性格に応じて、どう魅力を訴えていくかは、各人の知恵の見せ所でしょう。

 転職は今では普通のことですが、一生かけて取り組む価値のある仕事に出会えたら、それはやっぱり幸せなことでしょう。これ以上大きな舞台はないと言っても過言ではない外交の世界で、あなたの全人格をもって勝負する。あらためて、お誘いする次第です。

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