市民による独自の放射線量測定・開示の動きが消費者マインドに変化をもたらしています。
「ND」という2文字。これは「ノット・ディテクティド(不検出)」という意味で、放射線量の測定検査である一定のレベルを下回るとこのように判定されます。放射能ゼロではありません。
判定に疑問を持った市民による独自に測定を行い、開示する動きが、消費者マインドに変化をもたらしています。
ボランティアと寄付金によって運営されている市民放射能測定所。
内部被ばくを調べる「ホールボディーカウンター検査」をいち早く開始。
20歳以下に無料で実施している。
検査に訪れる母親たちの不安は、食べ物による子どもたちの内部被ばくだという。
子どもの検査に訪れた母親は「セシウムの量がやっぱり体内にどのぐらいあるのかというのをやっぱり、早く知りたいと思いました。給食で牛乳とかも飲ませてなくて」、「『北海道牛乳』って書いてあったら、もう北海道牛乳を買うとか、本当に遠くのものを買ったりとか」などと話した。
市民放射能測定所では、さまざまな食品のほか、スーパーで販売している牛乳や、給食の牛乳を独自に検査し、結果をウェブサイトで公表している。
市民放射能測定所の阿部浩美さんは「セットしてここから、1,800秒、30分かけてます、ここでは」と話した。
母親たちの牛乳に対する不安は、チェルノブイリ原発事故で牛乳に含まれた放射性ヨウ素により、子どもたちが甲状腺がんにかかったという報告にある。
実は市民放射能測定所が行ってきた測定で、微量の放射性物質が検出されたのは、ほかの県で生産された牛乳だった。
福島産の牛乳から放射性物質は確認されていないという。
阿部さんは「(福島産の牛乳は)限りなくゼロに近い値ですね。これで測る分では、限界としてはそれで」と話した。
福島市内に流通する牛乳を出荷している「橋本幸治牧場」。
牛に与える餌は、2011年の原発事故から、すべて輸入した干し草に切り替え、放射能から牛を遠ざけていた。
酪農家の橋本幸治さんは「アメリカとオーストラリア。地元で生産したもの(牧草)、一切あげないで、搾ってるなんてこと、(消費者は)わかんないんじゃないかな」と話した。
橋本さんの組合が所有する牧草地には、刈り取った干し草が山積みになっていた。
果物の一大産地である福島。
原発事故による放射能は、果樹園に大きな影響を与えた。
ナシの木の皮を1本ずつ削り、表面に付着した放射性物質を除去する除染作業。
福島市の阿部農園は、あえて規模を大きくせず、全国の固定客にナシを直接販売する方式で、信用を築いてきた。
2011年に収穫したナシを山形の検査機関に出したところ、放射性物質は不検出。
この結果を固定客に手紙で伝えたが、果樹農家の阿部一子さんは「本当に来ないんですよ。いつも1,200ぐらい出してる(出荷している)んですけど、100ぐらいしか(注文が)来なかったんですね。で、もう、『ああ、うちはもうだめだ』と思って」と話した。
固定客への手紙に記した「不検出」の文字。
これを見直して、阿部さんにある思いがよぎった。
阿部さんは「完全にゼロではないっていうことに気がついて、『あっ、もう1回検査しなくちゃいけないな』って思ったんです」と話した。
検査機関の多くは、測定器が検出できる最小の数値に、誤差の幅や測定時間などの要素を加えて、一定のラインを引き、これを下回ると不検出と判定してきた。
一方、市民放射能測定所では、測定器が検出した数値をそのまま公表している。
「可能なかぎり情報を開示する」という基本方針があるからだ。
阿部農園は市民放射能測定所にナシの測定を依頼。
結果は、セシウム137と134、あわせて9.6ベクレル(Bq)。
山形の検査機関の不検出ライン10ベクレルをわずかに下回る数値だった。
阿部さんは「覚悟のうえで、『今、こんなに放射能入ってますよ』って、『セシウムの量多いですよ』って書いたんですよね。そしたら逆だったんですよ。『書いてくれてありがとう』っていう人がたくさんいて」と話した。
その結果、阿部農園には例年並みの注文が来たという。
今、検査機関の一部でも、不検出のあとに参考値をつける動きも出始めている。
わずかな量の放射性物質について、公開する意味とは。
市民放射能測定所の岩田 渉代表は「トータルでどれだけ、(放射性物質を)口にするのか、接触していくのか、あるいはそれをどれぐらい継続していくのかっていうところで、やっぱり、(放射能)リスクを見積もらなければならないと」と話した。
放射能から完全に逃れることができない今、食品に対する信頼を取り戻す鍵は、市民の目線で、放射能を測定することなのかもしれない。
(02/10 00:34)