ウオッチング・メディア

「放射能いじめ」に傷つく親子

福島に帰れない生活で高まる孤立感と無力感

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 福島弁を、ですか? 私は思わず聞き返した。

 「はい。『もう半年もこっちにいるのに、何で訛り取らないの?』と言われたんです」

 関西人の私には、群馬の人も訛っているように聞こえますよ。私は木下さんを和ませようと冗談を言った。

 「黙っていることにしました。でも、黙っているのにも疲れました」

 実母は、知人もいない、言葉の違う土地で、どんどん口数が少なくなり、最後は部屋から出てこなくなった。やむなく南相馬市に送り返した。義母も帰った。木下さん親子は義兄の家を出て、アパートを借りた。一戸建てでない家に住むのは生まれて初めてだ。

生活のすべてがストレスに

 この先どうしたらいいんでしょう。どうしていいのか分かりません。帰りたいです。でも、知人の家は、除染の見積もりを取ったら「壁や屋根を取り替えるので1000万円かかる」と言われたそうです。それに、いくら家を除染したって街全体を除染しないと・・・。

 そうやって思考は同じところをぐるぐる回る。この「ぐるぐる思考」にまたヘトヘトになる。

避難先・群馬のファミレスで会った木下さん。たまたま筆者が持っていた福島の地元紙で線量を読んだ。(筆者撮影)

 最近、娘が右膝を剥離骨折していることが分かった。バスケの練習中にけがをしたらしい。去年9月ごろに痛いと言い出した。どの病院に行っていいか分からず、捻挫と思って2カ月整骨院に通った。しかし痛みが治らない。病院を紹介してもらってX線を取ったら、骨折していた。しかも左のアキレス腱にも故障が見つかった。

 南相馬市では、そういう時に行く病院は子供のころから知っている。そんな「普通の生活」がすべて五里霧中の世界になる。すべてがストレスになる。パソコンがないから調べることもできない。車で10分で行ける子供の試合会場にもまっすぐには行けない。道に迷い続け、1時間半かかったこともある。カーナビで調べようにも、施設名、集合場所の名称が分からない。

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